知らなかった人

有野優樹

第1話 知りたくなった人

 僕は学校でいじめられている。靴を隠されたり、トイレの個室で水をかけられたり、やってもないことをやったことにされて「謝れ!」と言われたり。ごくごく普通のいじめ。


 いじめに普通も普通じゃないもない。でも、どっちにしてもツラい。助けてほしいなぁと思うけど、友達はみんな、関わりたくなさそうに遠くから見ているだけ。友達ってなんなんだろう。もしかしたら、見ている人は友達じゃないのかもしれない。


 でも、学校はいじめられるだけの場所じゃなかった。


あの人と出会えたから。


これはそんな僕の中学生時代のお話。

 


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 学校は楽しいこともある。僕はアニメオタクだ。アニメが大好きで、秋葉原にグッズを買いに行ったり、友達と今流行ってるアニメの話をするのは本当に凄くめちゃくちゃハイパー楽しい。


 いじめられているときには


 「あぁ、このまま死んぢゃった方がいいかなぁ」

 

 なんて考えちゃうけど、アニメの話をしているときにはいじめられていることを忘れてしまう。



 今日も僕‥ 神庭克樹(かんばかつき)は、いじめられていた。これが日常なのかもしれない。



 アニメ好き仲間の友達には随分と助けてもらった。単なる雑談でもよかった。それが他のことを忘れさせてくれた。“雑談”と書いて“すくい”と読むと言ってもいい。でも、助けてくれていたのはアニメ好きの友達だけじゃなかった。



 僕には -名前の知らない、好きな人-が居た。



 名前の知らない好きな人が見たくて学校に行っていた。助けられたといっても、その人は助けてるつもりはなかったと思う。僕は‥遠くから見られるだけでも嬉しかった。


 名前の知らない好きな人とは、家の近くの本屋で出会った。いや、正確いうと一方的に見ただけ。一階には勉強系の難しい本があって、二階には漫画やライトノベルが並んでる。目当ての漫画を買いに行こうと階段を上がったとき、一階に同じジャージを着ている人を見かけた。


 麦わら帽子をかぶり、白いワンピースを着て、ひまわり畑の真ん中に立っているかのような清楚で綺麗で可愛い子。


 柔らかい風が吹き、僕よりも少し小さいくらいの清楚で綺麗で可愛い子。一瞬、周りの音がなくなったように思えた。


 ジャージの胸元には名字だけが刺繍されている。名前を知りたい。知りたい。ここからじゃ見えるわけがない。でも知りたい。階段を降りて、わかりもしない参考書を見るふりをしながら、胸元に注目する。見え‥見え‥。あ、いやそういうんじゃなくて。ただ、名前が知りたくて。でも、何だかいけないことをしているようで、なんとなく自分を誤魔化していた。


 いや、待てよ。あんまりジロジロ見てもキモいよな。僕は、その人がどこのクラスにいるのかを見て回ろうと決心した。よし、顔は覚えたぞ。


 目当ての漫画は買い忘れてしまった。

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