半神
身体から漆黒の神威が溢れ出す。
漆黒だからといっても決して悪い物ではない。纏う気配は神聖そのものだ。
だが、代償に身体中から激痛が襲ってくる。
「ガハッ」
俺は冗談みたいな量の鮮血を吐いた。
身体の人間である部分が耐え切れずに悲鳴をあげている。まるで血管に針を流し込まれているかのような激痛だ。
……痛てぇ!
こんな激痛、神降ろしの時以来だ。
あの時は芋虫のように蹲ることしかできなかったが、今はそんなことをしていられる状況じゃない。
意識が飛びそうになる中、歯を食いしばってなんとか耐える。
ここで意識を手放したら待っているのは死だ。自分だけではない。みんなの死だ。
それだけは許されない。
……抑えろ! 抑えろ!
意志力を振り絞り全力で神威を抑え込む。せめて最小限に抑えられれば身体への負担も少なくなる。
そうすれば鬼人を殺せる。
痛みに耐え、必死に立ち上がる。たったそれだけで息が上がり、膝に手をつく。
神威に脅威を感じたのか二体の鬼人は足を止めていた。じっとこちらを伺っているのがわかる。
俺はゆっくりと一歩ずつ、確実にみんなの方へ歩いていく。それは亀のように遅い歩みだった。
こんなんじゃ颯斗が命を落としてしまう。
だから一度立ち止まり息も絶え絶えに言う。
「……小夜。……颯斗に……回復……魔術を」
小夜の表情が強張った。鬼人の前に行けと言っているのだ。そうなってもおかしくはない。
「でも……」
小夜がなにか言い募ろうとしたが、俺は優しく微笑んだ。
俺が放つ神威に圧倒されたのか、小夜は覚悟を決めた顔で小さく頷いた。
小夜は緊張した面持ちで颯斗に駆け寄る。
二本角がそれを阻止しようと拳を振り上げた。同時に一本角も、俺を排除すべく向かってくる。
だから俺は一言だけ口にした。
『止まれ』
神の言霊。
力ある言葉が二体の鬼人を縛り付ける。
それだけに留まらず空気や風すらも動きを止めた。結果、木の
だが無制限に使える物ではない。
言葉を発した瞬間、耐え切れずに喉が潰れ、鮮血を吐いた。
襲ってくる激痛に膝を突きそうになるがなんとか堪えて頭上を見上げる。
力を使うまでは気が付かなかったがそこには結界があった。
御霊島を覆うような形で巨大な結界が構築されてる。
俺が気付けないほどの結界だ。緻密な隠蔽術式が施されている。
おそらく
……この結界は邪魔だ。
小夜が颯斗に回復魔術を掛けているが、状況は芳しくない。もっと高位の術式が必要だ。
助けを呼ぶ必要がある。
「
すると俺の周囲に十二本の刀が出現した。
刀とは言っても十二本中、十一本は影のように形が不定形でかろうじてそれが刀だとわかる程度だ。
とても刀の役割を果たせそうにない。おそらく掴もうとしてもすり抜けるだろう。そんな予感がする。
だが、今は一本でも具現化できれば十分だ。鬼人ごときそれで事足りる。
俺は一本だけ形になっている刀を手に取った。
――第一⬛︎⬛︎刀:
その刀は深淵を思わせるような漆黒の刀だった。刀身から鍔の色まで、何から何までが漆黒。
重さは途轍もなく軽い。それこそ羽でも持っているかのようだ。
だがそれも問題にならない。
ディグネシアの能力は重力操作だ。
この刀を持つ限り星の力は俺の手中にある。当然、刀にかかる重力を引き上げれば大岩よりも重い刀となる。
ディグネシアはやけに手に馴染んだ。元から俺が持つ為にあるかのような、そんな感覚がした。
しかし、掴んだ瞬間に神威が増した。全身の骨にヒビが入り、身体中の古傷が開いた。
制服が赤黒く染まっていく。
苦痛に顔を歪めながらもなんとか耐える。
「刀至くん!」
見れば真白が揺れる瞳で心配そうに見つめていた。だから俺はできる限る優しく笑いかけた。
……大丈夫。すぐ終わらせる。
言葉は出なかった。喉が潰れていて出るのは空気の漏れる音だけ。
だが俺の思いは伝わった。そう確信できる。
真白も涙に濡れた顔で微笑んだ。彼女の震えはもう止まっていた。
俺はディグネシアの能力を使い、重力に逆らうかのように浮き上がる。
……結界があるのならばもろとも吹き飛ばそう。
上空までくるとディグネシアを空へと掲げた。
等身の周りに黒い球体、重力球が五つ出現した。
それが四方へと散った。
重力球は回転をし始め、空へと昇っていく。
そうして天には巨大な黒い円ができた。
俺は潰れた喉から無理矢理に声を出した。
「堕ち……ろ!」
――重力⬛︎⬛︎:
呟いた瞬間、
――何もかもが潰れた。
結界はおろか、木々や大地でさえも。御霊島は外縁部を残して全てが一瞬にして更地となった。
仲間達がいるわずかな空間だけが被害を免れた。
二体の鬼人は押し潰されもはや跡形もない。
……終わっ……た。
安心した瞬間、身体の痛みが激しくなった。
同時に身体から影のような黒い帯が出現し俺の身体に巻き付いていく。
おそらくだが師匠の封印だ。
俺が消耗したことにより再起動したのだろう。
身体の力が抜け、地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。
「刀至くん!」
真白がいる場所は被害を免れた。そのため地面との高低差ができてだいぶ高度がある。
だが真白は躊躇わずに飛び降りた。
そして落ち続ける俺へと手を伸ばす。
俺を応じるように手を伸ばそうとするが小指一つ動かせなかった。
……でもよかった。今回は救えた……。
そうして俺の意識は暗闇に落ちていく。
……あれ? なんだこれ?
だが意識が落ちるほんの僅かな一瞬で俺はそれを見た。
平らな地面に突き刺さる何本もの
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