好機
……おそらく俺の魔力が何かしらの弱点だ。
普通に魔力自体が弱点なのか、半神の特殊な魔力が弱点なのかはわからない。
だが今は
俺は身に秘める無尽蔵の魔力を白帝と虚皇に纏わせる。
それだけに留まらず身体にも。制御ができないので力技だ。欲を言えば鎧のようなイメージで全身を覆いたい。そうすれば防御力もあがる。
実際にそうしている魔術師もいるみたいだが、俺にはできない。
……いや待てよ。確か身体強化って……。
以前、日課の時に智琉が言っていた言葉をふと思い出した。
――身体強化って言うのは魔術式を介して身体全体に魔力を流し込んで身体能力を向上させる魔術なんだ。
その時はそもそも魔術が使えないからと思考停止して聞き流していた。知識として知っていればテストで正解を取れるからだ。
そんな考えをしていたことを遅まきながら後悔した。
なぜ、魔術式を介する必要があるのかをしっかりと聞いておくべきだった。
しかし今は聞けない。ここから大声で聞いて鬼人の意識が智琉に向いたら本末転倒だ。
……要は魔力を身体全体に行き渡らせればいいんだよな?
問題は魔術式を介さない場合だ。
魔術式の有無でなにが起きるのかわからない。何か致命的なデメリットがあるのならば不利になる。
……でも打開策がないから仕方ないか。
心の中で呟いて早速実践する。
魔力を身体全体に行き渡らせる。再三になるが制御は無理だ。気合いで何とかなるようなものではない。
俺ができるのは魔力の放出のみ。無理矢理に纏わせるのだけで精一杯だ。
俺は自分の身体を空のペットボトルに見立て、蛇口から水を注ぐようなイメージで魔力を流し込んでいく。
魔力が隅々まで行き渡ると明らかに身体が軽くなった。
――擬似魔術:身体強化
……成功か?
検証すべく俺は地面を踏み締めた。
持てる最大の力で地面を蹴り加速する。大地が耐え切れずに砕け、爆散した。
一歩で彼我の距離をゼロにする。
鬼人は急激に上がった俺の速度に、反応がほんの僅かに遅れた。
拳を振りかぶった所に白帝を叩き込み、弾き飛ばす。
鬼人の体勢が崩れる。
すかさず首に虚皇を叩き込もうとしたが、寸前で逆の腕が割り込んできた。
「うぉおおおおおおおお!!!」
雄叫びを上げ、虚皇を振り切る。至近距離からの斬撃が鬼人を襲う。
体勢の崩れている鬼人は受けきれずに木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。
俺は迷わず追撃する。いまだ空中にいる鬼人に追いつき、心臓に白帝を突き立てる。
……硬え!
分かってはいたが、当然のように白帝は肌に受け止められる。
すかさず虚皇も突き立てたが、それでも傷一つ付かない。
鬼人の背後には絶壁が迫っていた。飛び退くのも手だがこの好機を逃すのは惜しい。
俺は一度切先を外し、再度魔力を込めて斬撃を放つ。
鬼人も防御体勢を取ろうとしたのは分かったがいかんせん空中だ。
ろくな防御も取れずに絶壁に突っ込んだ。
俺は斬撃を放った反動ですでに後退し、元の位置に戻った。
あまりみんなから離れたくなかった。近くに居れば不測の事態に対応できる。
轟音が鳴り響き、絶壁が崩落する。
大量の土煙が舞い上がり視界を塞いだ。
土煙の中で鬼人の影がゆらりと立ち上がった。
拳を振り払い、土煙を吹き飛ばす。すると無傷の鬼人が現れた。
だがそれは見た目だけだったようだ。口からは一条の血が流れ落ちた。
……いける。
確実に効いている。
擬似身体強化のおかげで僅かに膂力と速さが
勝機が見えた。あとは削り切るのみ。
俺は白帝と虚皇に魔力を纏わせて構える。これだけ距離が離れていればできる。
同じように鬼人が距離を詰めてくるが距離がある分、俺の方が速い。
白帝を振り下ろし、続け様に身体を回転させ虚皇も振り下ろす。
飛翔する赤黒い斬撃が、鬼人に直撃し絶壁まで押し戻す。
……まだまだだ!
身に宿る膨大な魔力を惜しみなく使い、斬撃を放ち続ける。
どれだけ使っても俺の魔力は底が見えない。
二刀から放たれる斬撃は一撃一撃が大魔術――複数人で行使することを前提とした魔術――に匹敵する魔力量を内包している。
たとえ魔術になっていない魔力の塊といえどそこらの魔術を軽く凌駕する。
そんな斬撃を受けてなお、鬼人に傷はつかない。しかし口から盛大に吐血した。
おそらく身体の内部にガタが来ているのだろう。
だがこのまま押し切れるとは思えない。
魔物は獣と同じで追い詰められた時が一番危険なのだ。その時、鬼人は初めて表情を変化させた。
そこにあったのは憤怒だ。
「ガァァァアアアアアアアアアアア!!!」
鬼人が咆哮を上げた。
あまりの大音声に周囲の木々が吹き飛び、俺の放った斬撃も掻き消えた。
先ほどとは比べ物にならない速度で鬼人が迫ってくる。
だが俺には見えている。
身体強化のおかげか動体視力も飛躍的に上昇している。
鬼人が拳を打ち出し、俺の刀が迎撃する。
一瞬の内に何十回と刀と拳が交差する。
一撃一撃が重い。やはり膂力も先ほどまでと比べ物にならない。一撃を受ける度に足が地面に食い込む。
だが、頭に血が上っているのか攻撃がひどく単調になった。
これは技術も何もないただのパンチだ。
ならば迎撃するのはそう難しくない。
俺は隙を見て二刀で両拳を弾き飛ばし、両側から首へと斬撃を叩き込む。
それは完璧なタイミングだった。
無防備な
――獲った!
そう思った瞬間、後ろで悲鳴が上がった。小夜の声だ。
俺は横目で見た。
――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます