襲来

 地の底から突き上げるような大地震だった。

 全員が立っていられずに膝を突く。半神の俺ですらそうなのだから生身の人間である智琉たちはひとたまりもないだろう。

 幸い地震自体はすぐに収まった。

 しかし最悪なのはここからだった。島全体から瘴気が吹き出たのだ。

 濃度もかなり高く、小夜が咄嗟に浄光じょうこうを使って中和していた。

 そして大量の魔物が発生した。


 ……まずい。


 俺の気配感知にものすごい量の魔物が引っかかる。十や二十ではない。百以上だ。それも留まることを知らず、指数関数的に増え続けている。

 俺は白帝と虚皇を鞘から抜いた。やるべき事は包囲が固まらない内に突破する事だ。


「真白! 立てるか!?」


 真白は立とうとしているが身体の震えが止まらずに上手くいかない。手を貸そうとした時には手遅れだった。包囲が完成してしまい退路が立たれた。

 これだけ厚いになってしまえば突破は不可能だ。


「みんな! 真白を中心に陣形を組んでくれ! 俺はできるだけ数を減らす! 智琉は援護を! 颯斗は討ち漏らした奴を頼む! 小夜は真白を! ――来るぞ!」


 口早に指示を出し終えると、大地を揺らしながら魔物が押し寄せてきた。

 もはやそれは魔物の雪崩だ。手加減なんかしている場合ではない。俺は迷わず白帝に魔力を込めた。


「ぐぉぉぉおおおおお!!!」


 初めに現れたのはオークだ。見た目はまるまると太った二足歩行の豚の豚だ。とにかく体が大きく、前にすると壁のように感じる。身長は三メートル近くあるだろう。

 しかし攻撃手段は手に持つ棍棒だけで対処は簡単だ。そんなこともあり等級は四。それほど強くはない。

 だが今現在の教育は数だ。とにかく多い。普段は群れないはずのオークが前後左右から十体。同時に襲いかかってきた。


 俺は白帝で虚空を斬り、斬撃を発生させた。そして白帝の能力で斬撃を跳躍させ一気にオーク十体の首を落とす。

 血飛沫を吹き出しながらオークが瘴気となり消滅していく。しかしその時には既に後続の魔物が迫っていた。

 息つく暇もない。


 後続の魔物は赤い狼だった。名前は知らないが、毛から火を吹き出している。大きさは大型犬と同程度。それが五頭。

 加えて人間サイズの巨大な蜘蛛。黒い体表を持ち眼がいくつもある。脚は蜘蛛というよりはムカデのような見た目でとにかく数が多く、気持ちが悪い。それが十匹。

 それらも斬撃を跳躍させて一撃で殺した。


「智琉! 今の何級だ!」

「四級だ!」


 四級程度であれば討ち漏らす事はあり得ない。智琉と颯斗も遠隔攻撃で徐々に数を減らしている。

 しかしそれでも楽観はできない。今もなお魔物は増え続けている。


 思考している間にも新たな魔物が顔を出す。

 次は猪の魔物だった。こいつは知っている。三級の魔物、ジャイアントボア。名前の通り、身体がオークと同じぐらいに大きい猪だ。口には巨大な牙が付いており攻撃手段は突進だけ。

 しかし三メートルの猪だ。突進だけでも直撃すれば普通の魔術師なんてミンチになる。

 それが前後左右から二十体。隙間もないほどに密集して突っ込んでくる。隣の個体と皮膚が擦り合わさり出血しているがお構いなしだ。


「チッ! 数が多い!」


 斬撃を跳躍させたが二体討ち漏らした。なので俺自らが二刀を振るい首を落とした。

 まだまだ後続はくる。

 次は小型の蜘蛛だった。大きさは手のひら程度。腹に髑髏が描かれており色は紫をしている。確実に毒がある見た目だ。これでなかったら詐欺だろう。

 小型故にやはり数が多い。その数およそ五十。木々を飛び移りながら立体的な動きで襲いかかってくる。


「チッ! あんまりやりたくはねぇが!」


 舌打ちをしながらもう一度、白帝に魔力を込めて虚空を斬る。

 斬撃を跳躍させる。合計二つの斬撃が宙を舞いながら魔物を蹴散らしていく。


 ……くっ!


 ピキッと頭の中で音がする。手数が増えるとはいえ脳は一つだけだ。強力な魔剣故に負荷もとんでもない。今の俺では二つが限界だ。


「颯斗! ここら一帯、燃やせるか!? 視界が悪い!」

「任せろ!」


 颯斗が魔術式を記述し、地面に拳を打ち付ける。


 ――炎属性攻撃魔術:炎海えんかい


 地面がひび割れ、火柱が立ち昇り木々を燃やしていく。


「小夜! 結界で復元を止めてくれ!」

「……は、はい!」


 小夜はすかさず魔術を使う。魔導書がパラパラと捲られ一つのページが開かれる。


 ――光属性領域魔術:浄化結界


 燃え尽きた木々が蠢いていたが、小夜の結界に包まれた瞬間に止まった。

 魔境の復元はこの方法で止めることができる。というのも復元も無尽蔵に行われるわけではない。瘴気というエネルギーが必要なのだ。

 結界でそのエネルギーを遮断してしまえば復元はできない。

 ついこの間、授業で習ったことだ。


 ……これで視界が開けた!


 視界が開ければだいぶ楽になる。木の裏にいる小型の魔物も倒せるし立体的な軌道で襲ってくる魔物も少なくなる。


 白帝の能力で次々と魔物を葬り、それでも討ち漏らした敵は俺自身が縦横無尽に駆け回り殺す。

 それはさながら斬撃の結界だ。

 夥しい数の魔物が瘴気となり消えていく。しかしそれでも魔物の数が全く減らない。


 ……減らないどころか増えてやがる!


 時間が経つにつれて、俺自身で殺す魔物が多くなってくる。

 それだけならまだいい。


「智琉! 今のは何級だ!」


 今し方、首を飛ばした魔物は猿のような魔物だった。

 胸の中心に宝石のようなものがくっついた猿だ。大きさは動物園にいるような猿と同じ。しかし胸の宝石が輝いた。嫌な予感がして先に殺したが、おそらく魔術を使う。そんな魔物が先程までと同じ三級であるはずがない。


「二級だ!」


 答えは予想通り。


 ……だんだん強くなってる。

 

 智琉や颯斗も遠隔攻撃で敵を減らしているが焼け石に水だ。ケルベロスは二級上位。この猿の方が弱いのは確定だがそれでも二級だ。二人の攻撃では仕留めきれない。

 状況は時間が経つにつれ悪くなる。その内一級が出てきてもおかしくない。いや必ず出てくるだろう。


 ……せめて真白が戦えれば!


 そう思わずにはいられない。しかし真白はまだ蹲ったままだ。とても戦える様子ではない。

 ないものねだりをしても仕方ない。


「チッ!」


 余計なことを考えていたせいで一体討ち漏らした。

 舌打ちをしながら虚皇を投擲。巨大な芋虫の魔物の頭に刺さった瞬間に念じて手中に戻す。

 その間に襲いかかってきた魔物は白帝で首を飛ばし拳で頭をカチ割った。


 それが一時間ほど続いた。

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