異変

『昨日、原因不明の爆発によってロケットの打ち上げが失敗しました。現在、原因を調査中――』


 翌朝、日課を終え食堂に向かうと備え付けられたテレビからニュースが流れていた。

 食堂の席に座っていた智琉と颯斗が静かにそれを見ていた。


「おはよう二人とも」

「……おーっす」

「おはよう刀至」


 智琉はシャキッと起きているが、颯斗はうつらうつらと船を漕いでいる。静かに見ていたのは颯斗が寝ていたかららしい。


 ……寝ながら返事したのかこいつ……。


 らしいっちゃらしいなと思いながら俺はテレビ画面を指差した。


「それは?」

「なんか昨日、ロケットの打ち上げが失敗したみたいだよ」

「そうなのか。人は乗ってたのか?」

「いや、無人だったみたい」

「不幸中の幸いだな」


 ロケットの打ち上げには俺の想像もつかないぐらいの金がかかる。それがパーになったと考えると痛手だが死人が出なかっただけまだマシだと言えるだろう。

 記者会見をしていた偉い人が再発防止につとめるとのコメントを出していた。

 それを受けてコメンテーターが議論を交わしている。

 

 テレビ画面に映る時刻は六時半。調査任務開始にはもう少し時間がある。

 俺は手早く注文を済ませ、食事を受け取り智琉の前に座った。

 ちなみに朝飯はうどんだ。この食堂にはたくさんの品目があるが、なんとなくうどんの気分だった。

 たぬきうどんとカレーうどんがあったのでどっちも貰ってきた。


「朝からよくそんな食べられるなぁ」

「まあな。二人は飯食ったのか?」


 箸を割りながら苦笑している智琉に聞く。

 

「少し前にね」

「飯食っても颯斗は眠そうだな」

「ほとんど寝ながら食べてたしね。長丁場で疲れてるみたい」

「そういう智琉はどうなんだ?」

「僕も結構疲れてるけど泣き言も言ってられないからね。それに場所によっては何日も魔境の中に入りっぱなしになる場合もあるし。いい訓練だよ」


 智琉はポジティブに受け止めているようだ。颯斗も眠そうは眠そうだが、智琉の様子を見るに文句は言っていないようだ。


「でも刀至は疲れてなさそうだね」

「まあな。俺は授業の方が心配だよ」

 

 本来なら今日は学園で授業を受けていたはずなのだ。せっかく追いついてきたのにまた離されてしまう。

 項垂れる俺を見て智琉が苦笑した。


「まあこればっかりは仕方ないね」

「だなぁ。頑張ってさっさと終わらせることを考えた方が良さそうだ」


 そんな話をしながらうどんを食べ進め、ちょうどいい時間になった。

 その頃には颯斗も目を覚ましていた。


 


 七時少し前。俺たちは甲板に集合していた。白河さんが手を叩いて注目を集める。


「さて! 三日目だけど今日もよろしくね! んで早速だけどこれからの予定を話しておくわ。まず昨日話した通り今日はキミたち五人でできるだけ多くの巨岩を探してもらう。見つけたらこの紙に記録をお願い」


 白河さんが真白に記録用紙を手渡した。記録用紙と言っても御霊島の地図が印刷されていて、エリアごとに四角で区切られているだけだ。地図と言った方が正確かもしれない。

 ちなみに一昨日見つけた巨岩は第十三エリアで既に印が付いている。


「探査魔術の魔術式は真白ちゃんに教えておいたから」


 ……いつの間に。


「急げば今日明日で終わると思うわ。そこで一旦調査任務は終了。それからはであの巨岩のことを調べる。何かあったらまた招集をかけるかもってことは覚えておいて!」

って護衛はどうするんですか?」

「俺が居残りらしい」


 気になって聞くと天宮さんが心底嫌そうな顔で答えた。顔に早く帰りたいと書いてある。多分、自由に煙草が吸えなくて苦痛なのだろう。短い付き合いだがそれぐらいはわかるようになってきた。


「蓮は腐っても一級魔術師だからね。ってことで今日もよろしく〜!」


 白河さんの軽いノリに送り出された俺たちは三度みたび、御霊島へと足を踏み入れた。

 地に足をつけた途端、俺は違和感を覚えた。


 ……ん? 気配が強くなってる?


 ほんの少しだけ昨日とは気配が違う。そんな気がした。気のせいかもしれないが一応みんなに注意を促す。念には念をだ。


「みんな。気配が強くなってる……気がする。注意だけはしといてくれ」


 俺の言葉に全員が頷いた。


「じゃあ調査する方法を話そうか。真白さんさっきの記録用紙を見せてもらえる?」

「わかりました」


 真白が記録用紙を取り出すと地面に広げた。

 現在地点は第一エリアだ。


「現在地点がここ。虱潰しに探さなきゃだから第一エリアから順に探していくでいいかな?」

「まあそれが無難だろうな」

「オレも賛成だ」


 特に異論は出なかったので智琉の案で探していくことになった。

 こまめに真白が探知魔術を使い、正確な位置を割り出す。

 俺は死の気配が弱まる方向を探していく。

 その繰り返しでお昼すぎには三つも見つけられた。

 調査は順調だった。しかしここに来て異変が起きた。急に死の気配が大きくなったのだ。

 一人訝しんでいると突如として真白が悲鳴を上げた。


「いやぁぁぁあああああああああああああ!!!!!」


 真白が座り込んで身を抱えるようにして震えている。


「真白! 大丈夫か!?」


 目は焦点が定まっておらず完全に錯乱している。


 ……なんだ……これは? 何が起きた?


 周囲の気配を探るが、死の気配が強くなった以外には何もない。

 しかし尋常ではない何かが起きている事はわかった。


「全員、警戒してくれ! なにか――」

 

 次の瞬間、死の気配が爆発的に膨れ上がり――。


 ――島全体を大地震が襲った。

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