調査二日目
翌朝七時、俺たちは再び御霊島に足を踏み入れた。昨日と同じく死の気配を感じたが、
今日の調査には俺たち五人に加えて研究者の白河さんと相川さんが加わる。チラと二人の様子を伺うが、やはり何も感じていないようだ。
その際、偶然真白が視界に入り目が合ってしまった。お互いに気まずくて目を逸らす。
朝、外套を取りに行く時に謝罪をしたし、されたが気まずさは消えない。
そんな俺たちの様子を見て颯斗がニヤニヤしてる。俺の近くまでくるとそっと耳打ちした。
「お兄さんなにかあったんですかい?」
「なんもねぇよ」
ぶっきらぼうに返事をして足早に先へと進む。
「いいじゃねぇか。教えてくれよ」
颯斗が何か言っているが聞こえないふりをした。
ともあれ、昨日とは違い今日は目的地がある。場所は俺が覚えているので今日も先導することになった。もとよりそのつもりだったが。
俺たち七人は警戒しながらも魔境の奥地へと進んでいく。
当然のように魔物は出なかった。なのでそれほど時間はかからずに巨岩の元へ到着した。
「これは……」
白河所長が目を見開き、言葉を失っていた。本当にあるのか半信半疑だったようだ。
「相川。この地点は?」
問われた相川さんが素早く魔術を使用する。
――無属性領域魔術:探索
相川さんから魔力が放たれ拡散していく。ものの数秒で結果がわかったらしく口を開いた。
「第十三エリアです」
「こんなものなかったわよね?」
「はい。このエリアは調査済みです。」
白河さんが記録用のカメラを取り出して巨岩を撮影する。昨日と同じように巨岩は撮影できなかったらしく、画像を興味深そうに観察していた。
「報告通りね。これはなに? なんで今の今まで誰も見つけられなかったの?」
白河さんが独り言のように呟く。巨岩に触れ感触を確かめたり、軽く叩いたりしていた。
「神城くん。今見つけたのはこれだけ?」
「はい。今のところは。でも刀至の感覚から考えると複数ありそうです」
「気配の増減ね」
智琉は「はい」と頷いた。
一つしかないのなら死の気配は近づけば小さくなるし離れれば大きくなる。増減するなんてことはない。ならば必然的に複数あると結論付けられる。
「なるほどねぇ。……見た目はなんらかの鉱石っぽいけど……」
白河さんが魔術を用いて指先に火を灯す。その指先を岩に近付けると奇妙な現象が起きた。
火が岩を避けた。そう言わざるを得ない現象が起こった。
「未知の物質? それとも何らかの魔術? でも魔力が……。うーーーん。仕方ない」
白河さんは何かに納得すると刀至に向き直った。
「この中で一番強いのは星宮くんよね?」
その問いを否定する者はいなかった。なので刀至は頷く。
「ならこれ斬れる?」
白河さんが親指で巨岩を指差した。
「いいんですか?」
貴重な研究資料を斬っていいのかという確認だ。俺の言葉に白河さんは頷いた。
「ええ。このままじゃ何もわからないもの。やってみて」
「わかりました」
愛刀は戦艦に置いてきているので、腰の白帝を抜く。虚皇はダメだ。性質上、本当に斬ってしまう恐れがある。
俺は白帝を上段に構えた。
「シッ!」
鋭い呼気と共に放たれた斬撃は、巨岩を両断する。
と誰もが思ったその時、斬撃が曲がった。巨岩に触れる寸前で。
「何かわかる?」
刀を下ろして手のひらを見る。剣筋に違和感はない。俺はただ振り下ろしただけだ。
現象として斬撃は曲がった。それは理解している。しかし手に残った感触は垂直に振り下ろした時の感触。曲がったという感触はまるで無い。
起こった事象と手のひらに残る感触のズレに違和感を覚えた。
「もう一度」
俺はそう言って刀を構える。白河さんも止めることはしなかった。
今度は手加減なし。全力で刀を振るう。
「シッ!!!」
放たれる斬撃。しかして結果は同じく。斬撃は曲がった。
俺は白帝を鞘に納める。
「これは斬れないですね。俺は垂直に振り下ろしたつもりなんですが、事実として曲がっています」
「なるほど興味深い」
白河さんが顎に手を当ててうんうんと頷く。すると今度は智琉を指名した。
「神城くん。光属性魔術をお願いできる?」
「はい」
智琉が魔銃を構え、無造作に引き金をひいた。放たれた
「今度は東城くん」
颯斗が待ってましたとばかりに、拳に炎を纏わせて巨岩を殴りつける。
「おわ!」
予想通り拳が曲がり颯斗は体勢を崩した。身体が巨岩に倒れ込む。すると颯斗が巨岩に頭をぶつけた。
ゴツンッと結構な音がした。
「いってぇ!」
「ん?」
痛がる颯斗を気にしたそぶりも見せずに白河さんが声を漏らす。
俺もその違和感は感じ取った。
「東城くんもう一度頼める? 今度は炎なしで」
「………わかりました」
転んだ颯斗は頭に葉っぱを乗せながら立ち上がる。
「颯斗、頭」
指摘すると颯斗が犬のように首を振って葉っぱを落とす。
「いくぜ」
気を取り直して颯斗が拳を繰り出す。しかしまた転びたくはないのか力は乗っているものの控えめな威力だ。
すると今度は曲がらなかった。拳が巨岩に当たる。素手のため巨岩には傷一つつかない。
「なるほどぉ〜。攻撃を判別しているのね」
「颯斗が頭をぶつけたのは攻撃ではないから。二回目、拳が曲がらなかったのは攻撃として認識されなかったからってことですか?」
普通に巨岩に触れられるのもこれだ。攻撃ではないから。おそらく俺が全力で殴れば
「その通りね。おそらくこの岩は脅威となる攻撃を判断している。よってこれは何らかの魔導具だね。しかしそうなると疑問も残るなぁ〜」
「魔力を感じないのことにですね?」
智琉の言葉に白河さんが首を縦に振り、巨岩を指でなぞる。
たしかに魔力の気配はしない。
「魔力を持たない魔導具は存在しないはずなのよ。それに神代文字ときている。確実に神代の遺物でしょうね。なぜ今まで見つけられなかったのか、なぜ今になって発見できたのか、なぜ魔力を持たないのか、なぜこんな形をしているのか」
白河さんの瞳が輝いていた。新たな研究対象を見つけられて嬉しいらしい。
「今日はみっちりここの調査をするわ! 気配の話もあるしキミたちは周囲の警戒をお願い!」
白河さんの一言で今日の予定が決まったのだった。
そうして日も暮れてきた頃、不意に視線を感じた。
周囲を見回すが俺たち以外に人の気配はない。それに視線は
俺は空中を見つめる。半神の視力で見渡せる限りを。
「刀至くん?」
俺の様子に異変を感じたのか真白が声をかけてきた。任務中だからか今朝のような気まずさはない。
「どうしたんですか?」
「いや、視線を感じたんだが気のせいだったみたいだ」
もう一度、上空を見ても何も見つけることはできなかった。
「視線ですか……私は何も感じませんでした。でも警戒はしましょう」
「そうだな……」
「おわったー!!!!!」
俺の声は白河さんの大声に掻き消された。どうやら今日の調査は終わりのようだ。
そろそろ日も暮れてきたし頃合いだ。
「戻ろうか」
「はい」
そうして二日目の調査が終了した。
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