御霊島
「どうやって上陸するんですか?」
見たところ御霊島にヘリが着陸できるような場所はない。かと言って戦艦では近付けない。上空からヘリの梯子か何かを使って降下するのかと思っていた。
不思議に思っている俺たちを見て白河さんが自慢げに胸を張った。
わかってやっているのだろうか。この人は。
「ふふん。見てなさい!」
白河さんが甲板の端まで行くとそこにあった操作盤のようなものに手を翳した。
操作盤と言っても黒い鉄板に何か彫ってあるだけだが。
ともあれ操作盤に魔術式が浮かび上がった。
……彫ってあったのは魔術式。ってことは魔導具か。
小夜が使っている魔導書と同じ類のものだ。魔術式を魔力との親和性が高い物質に記述しておく。そうすると魔術式が定着し、魔力を込めるだけで発動することができる。
操作盤に描かれた魔術は海を一瞬にして凍らせ、御霊島への道ができた。
「氷属性ですか。上位属性の魔導具なんてあるんですね」
智琉が感心したように言う。
「魔術研究がお仕事の第一研究所が開発した新製品でね。最近ようやくできるようになったらしいわ」
上位属性とは、文字通り基本属性の地水火風、その上位にあたる属性だ。樹氷炎雷があり、颯斗が使っている蒼炎纏鎧は火属性の上位属性である炎属性だ。
真白が扱うのも風の上位属性である雷属性となっている。
上位属性ということもあり、普通は三級ぐらいの魔術師でないと使うことすらできないらしい。さすが黄金世代と言ったところか。才能に恵まれている。
ちなみに特殊属性である光、闇、無に上位属性は存在しない。
ごく稀に発現する個人専用の属性、特異属性なるものもあるらしいが詳細はわかっていないらしい。
「これ戻ってくる時にはどうすればいいんですか?」
「そうだった。忘れるところだったわ。これ渡しとくわね」
智琉の言葉に白河さんがポケットから取り出したのは小さな笛だった。それが五つ。ごく一般的な白い笛だ。違うことといえば魔力の気配がすることぐらいだ。
「これは?」
「これを鳴らすと魔導具が発動するから氷を伝って戻ってきて」
「わかりました。ありがとうございます」
各自、笛を受け取ると身体強化を行い氷の地面へと飛び降りる。俺は身体強化が使えないのでそのままだ。
着地で氷が割れないか心配だったがかなりの水深まで凍っているのかかなり丈夫だった。
軽く足を踏み鳴らしてもビクともしない。
「遠くから見てもデカかったけど間近で見ると本当にデケェな。これ全部見て回るのに二日じゃ足りないんじゃねぇか?」
御霊島は丸い形をした島だ。情報によると大きさは約五十平方メートル。それほど巨大でありながら魔境ということもあり地図には載っていない。
一応は日本領に属しているが、政治的にも存在しない島となっている。
それに海流もおかしいらしく、何かの事故で漂着物が流れてきたりすることもないのだとか。
「だね。上陸したらまずは一周する感じで調査していこう」
智琉が先導して氷の上を歩く。御霊島との距離はそれほどなかったのですぐに着いた。
まずは智琉が御霊島へと上陸した。順に颯斗、小夜、真白も島に足を踏み入れた。
そして俺も――。
御霊島の土を踏んだ。
――瞬間、ぞわりと悍ましい悪寒が走った。
いや、悪寒なんて生やさしいものではない。これは死の気配だ。師匠に殺気を向けられた時に感じたものとはまた別種の。まるで死が体にまとわりつく様な感覚。
あまりの気持ち悪さに膝をつく。
……なんだ……これは……!
心臓を鷲掴みにされた様な、蟲が皮膚の下を這い回る様な、そんな感覚に陥る。気を抜けば意識を持っていかれそうだ。
「刀至くん!?」
真白が心配してこちらを覗き込む気配がする。だが気にしている余裕などない。
小夜が回復魔術を使ってくれているがまるで意味がない。
当然だ。これは攻撃でもなんでもないのだから。
「なんとも……ないのか?」
息も絶え絶えに聞くが、みんながみんな首を傾げるのみ。この感触をみんなは感じていない。
……何が原因だ?
俺は力を振り絞り、地面を蹴った。
勢いあまり、無様にも氷の上に尻餅をついた。
「はぁはぁはぁ」
肩で息をする。死の気配は消えていた。御霊島に入っていなければ大丈夫らしい。
「一度戻りますか?」
真白も御霊島から出て手を差し出してくれた。俺は礼を言って手を掴むと起き上がった。額に浮かんだ冷や汗を拭う。
真白が不安そうに瞳を揺らしていた。
「いや大丈夫だ。……本当に何も感じないんだな?」
「私はなんともないです」
「オレもだ」
「僕もだね」
「私もです!」
「そうか」
俺は呟くと深く息を吐いて、吸った。
気分は最悪だが空気は綺麗だ。大森林パークのように澱んでいないし、すこし木々の香りがする。
空気が美味しいと感じたのは富士の隠れ家以来だろうか。
「よし!」
俺は意識を切り替える。ここは死地だ。霊峰に挑む様な覚悟を決める。
……たるんでるな。
俺は内心で自嘲の笑みを浮かべた。
学園生活に慣れたせいだろうか。
決して油断はしていなかったが、この体たらくだ。
ここらで引き締めなければならない。
……そう考えるといい機会だったな。
そうして俺は再び御霊島へと足を踏み入れた。
「くっ……!」
その瞬間、死の気配がまとわりついてくる。それをなんとか耐える。
……なにがなにもない島だ!
俺は確信した。
――御霊島には何かがある。
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