腐れ縁
「さて、今回はこの調査任務を受けてくれてありがとう。助かったわ!」
俺たちは各自、割り当てられた部屋に荷物を置き会議室に集合していた。
会議室は学園の教室ほども広く、たくさんの机と椅子が並べられていた。
「まず私たち第二研究所がどんな組織か説明するわね。私たちの仕事は主に魔境の研究よ。異常があった魔境や核が見つからない魔境には自らが赴いて調査を行う。それが第二研究所のお仕事ね。まぁ戦闘能力は皆無だからそこの蓮みたいな魔術師の護衛付きではあるけどね」
水を向けられた天宮監督官はと言うと机に突っ伏して寝息を立てていた。白河所長がそーっと歩いて行き頭を引っ叩く。
「
「しっかり起きて話を聞く!」
「俺は別に聞かなくていいだろ」
寝ぼけ眼を擦りながら宣った天宮監督官に拳骨が落ちた。
殴られた反動で頭が机にバウンドしていた。かなり痛そうだ。
天宮監督官も悶絶している。
「バカは放っといてここまでで質問はあるかしら?」
「いいですか?」
「はい! 真白ちゃんどうぞ!」
「ちゃん!?」
真白が珍しく大きな声を上げた。すぐに口を塞ぐと、恥ずかしかったのか咳払いをした。
「……ということは今回の調査は白河所長も同行するのでしょうか?」
「基本的に同行する予定はないわ。なぜなら御霊島は調べ尽くした魔境だからね。だけどもしも調査が必要だと判断する何かが起きたら明日以降同行するわ」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ。……私たちの最終目標は科学による魔境の無害化よ。荒唐無稽な話に思えるでしょうけど、ここに無害な魔境があります」
デーンと効果音がつきそうな仕草で白河所長が窓の外を指差した。そこには無論、無人島である御霊島がある。
「私たちは御霊島を解明すればそれが可能だと考えています!」
白河所長がその大きな胸を張った。目のやり場に困るのどやめてほしい。
「さて質問はある? ないようなら準備が出来次第、調査に向かってもらうわ!」
全員で顔を見合わせるが颯斗が何か言いたげだ。自分以外に何もないと思ったのか颯斗が勢いよく挙手をした。
「はい!」
「はい颯斗くん」
ビシィッと音がつくような勢いで白河所長は颯斗を指差した。
「あ、名前知ってるんすね」
「当然! 君達の資料はしっかり読んでるわ。真白ちゃんのことを知ってたのもその資料を読んでいたから! それで何かな?」
「白河所長と天宮監督官はどのような関係なのですか!?」
………………え〜。
おそらくこの場にいる全員が思ったことだろう。現に白河所長もポカーンとしている。
しかしすぐに腹を抱えて笑い出した。ひとしきり笑ったあと目の端に浮かんだ涙を拭って言った。
「面白いね颯斗くん! でもあなたが期待しているような甘い関係じゃないわ。 ただの腐れ縁よ腐れ縁よ」
「正確には幼馴染だよ」
悶絶から回復した天宮監督官も流石に呆れている。
「だって気になるだろ!」
「まあ気になるけど普通は聞かねぇだろ」
俺もついついジト目を向けてしまった。
「他にはない? 当然、お仕事のことでね!」
白河所長が全員の顔を見回した。
「なさそうね。じゃあ準備ができたら教えて。ではひとまず解散!」
白河所長が天宮監督官の首根っこを掴んで引き摺るようにして会議室を出て行った。
五人になったところで智琉が颯斗に苦言を呈した。
「バカ颯斗! 恥ずかしい事しないでくれ!」
「わりぃわりぃ。でも気になるだろ?」
まるで悪いと思っていなさそうな口調で言う。
「まだ言うか」
「ダメだよ颯斗くん。気になってても黙ってなきゃ」
そんな幼馴染三人を見ていると似たような関係になりそうだなと俺は思った。
そして三十分後、各自準備を整え再度会議室に集合した。
「白河所長はどこにいるんだろうな?」
会議室を見渡してもいなかった。
「たしかに。天宮監督官に聞くか? どーせ喫煙所にいるだろうし」
「だな。いくか」
そうして俺たちは一番近場の喫煙所に赴いた。
その喫煙所は会議室のすぐ近くにあった。歩いて僅か数秒だ。
すると予想通り、喫煙所の中では天宮監督官が煙草を吸っていた。しかしそこに予想外の人物が一人。
「お? 準備はできた? 早速上陸する?」
煙草を加えた白河所長だった。思えば天宮監督官から奪った煙草を自分のポケットから出した携帯灰皿に捨てていた。あれは自分が吸う時用の携帯灰皿だったのだろう。
白河所長は俺たちが顔を出したらすぐ煙草の火を消した。やはり大人だ。となりの天宮監督官は美味しそうに吸い続けている。
おそらく全員が呆れた視線を向けていたことだろう。
「白河所長も吸うんですね」
「かたっくるしいわね! 白河サンでいいわよ! それともお姉さんにしとく?」
「じゃあ白河さんで」
「つれないなぁ〜。ほら蓮! この子達は未成年なんだから早く消して!」
「煙は行かないようにしてんじゃねぇか」
言われてみれば扉を開けても煙はおろか煙草の匂いすらしない。気配を探ると煙全体に魔力の気配があった。
天宮監督官もちゃんと気配りができる大人だったようだ。
「そういうことじゃないでしょ!」
「いってぇ!」
白河さんにまた叩かれていたが。
「お邪魔してすみません。準備完了しました。いつでも上陸できます」
「はいはーい。じゃあ甲板に行こうか」
智琉が言うと白河所長の案内で甲板に行くことになった。
しかし天宮監督官は喫煙所に座ったままだ。俺はみんなに「先言っててくれ」と断りを入れると喫煙所に入った。
「天宮監督官は行かないんですか?」
「俺のことも天宮さんとかでいいぞ〜。んで俺はいかない」
「たしか実地任務には準一級以上の魔術師が付く予定なんじゃ?」
一ヶ月前のアラトニスの話では、偽竜事件を鑑みて実地任務には準一級以上の魔術師をつけると言っていた。
だから当然天宮さんも調査についてくると思っていたのでこの返答は意外だった。
もしかしてサボろうとしているのではないかと思ったが心外なとばかりに天宮さんは眉を顰めた。
「そうだが、俺はアラトニス様にこの艦の護衛を頼まれている。調査は星宮刀至。お前がいれば安全ってことだろ」
この言葉が嘘かどうか判別する手段は俺にはない。しかし嘘ならば流石に白河さんが黙っていないだろうと思ったので信じることにした。
それに偽竜事件の時もそうだったが天宮さんは魔術師として仕事はきっちりとこなすイメージがあった。
だから俺は頷いた。
「そうなんですね。わかりました。では行ってきます」
「おう。大丈夫だとは思うが油断はするなよ」
「無論です」
そう言って俺はみんなの後を追った。
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