白河波瑠

 翌日、朝六時。俺たちは学園の屋上にあるヘリポートに来ていた。

 学園は高層ビルの為、風が強い。しかし景色は絶景だ。綺麗な街並みを見下ろせる。今日は天気もいい為、霊峰富士も見える。間近で見るのも綺麗だが、遠くから見るのも俺は好きだ。


「うおー。すげーなこりゃ」


 にあった乗り物に颯斗が感嘆のため息を漏らした。颯斗以外も一様に言葉を失っていた。

 俺もヘリというからにはごく普通のヘリコプターかと思っていた。ところが来てみればそこにあったのは巨大な軍用ヘリ。

 巨大な黒光りする機体に軍用ミサイル。分厚い鉄板で出来た装甲に加えて防御結界も張られている。

 操縦席に座るのは黒い人型、後に聞いた話だとアラトニスの式神らしい。

 少し不安だが、魔術師のみんなが平然としているので信じようと思う。


「よし。全員揃ってるなー。早く乗れ」

「天宮監督官……」


 だろうとは思っていたが今回も監督は天宮一級魔術師らしい。

 煙草をふかしながら俺たちの横を通り過ぎヘリに乗ろうとしたところでアラトニスが魔術式を記述した。


 ――水属性攻撃魔術:水流


 天宮監督官の頭上目掛けて大量の水が射出された。

 アラトニスの魔術の発動速度は凄まじく、天宮監督官は避ける暇などなく直撃した。


「禁煙!」


 頭から水を滴らせた天宮監督官が振り返る。煙草はフニャフニャになっていた。


「すみません」

「貴様そんなことだと波瑠に小言を言われるぞ」


 波瑠が誰だかはわからないが天宮監督官が盛大に顔を顰めた。


「もしかしているんですか?」

「いる。調査依頼も波瑠からだ」

「マジすか」


 明らかに気落ちした様子でガックリと肩を落としながら天宮監督官がヘリに乗り込もうとする。


「まて貴様。乾かしてから乗れ」

「濡らしたのはアラトニス様じゃないですか」

「はやくしろ」

「ハイ」


 天宮監督官は魔術で全身を乾かしたあと、ようやく軍用ヘリに乗り込んだ。


「さあお前達も行ってこい。期待しているぞ」


 アラトニスに見送られ俺たちは軍用ヘリで御霊島へと向かった。




 空旅を楽しむこと約二時間。前方に島の影が見えてきた。


「お、あれかな?」


 御霊島は巨大な島だった。先程智琉に聞いた話では地図にも乗っていない島らしい。もちろん一般人は立ち入り禁止だ。


「うおーでっけぇな!」

「ほんとですね。大きい」


 俺は窓側に座っていて、真白はその隣の通路側に座っている。窓の外を見るには必然的に身を寄せることになるのだが、真白はそんなこと気にしないらしい。

 ふわっといい匂いがした。


「刀至くん! 海が綺麗ですね!」


 そのまま海原の光景を見たあと俺に顔を向けてきた。ルビーのような紅の瞳が至近距離で俺を見る。


「そうだ……な。 どうした?」


 見れば顔が少し赤くなっている気がする。


「あ、いえ。ごめんなさい」


 視線を彷徨わせるとそう言って席に座り直した。

 訂正。気にしないのではなく気付いていなかっただけらしい。


 そんなやりとりをしているとヘリは高度を下げていった。気が付けば巨大な戦艦が見えてきた。

 どうやら行き先は島ではなくあの戦艦らしい。




 ヘリから降りると俺たちは白衣を着た人物に出迎えられた。


「ようこそおいでくださいました。私は第二研究所所属の研究員、相川健治と申します。以後お見知り置きを」

「ご丁寧にありがとうございます。僕は弥栄学園一年、五級魔術師の神城智琉です」

「所長はすぐ来ると思いますので少しお待ちいただけますか?」

「はい」


 その時、天宮監督官が欠伸をしながらヘリから降りてきた。

 彼はヘリに乗り込むなりすぐに寝てしまったのだ。それ以降一度も起きてこなかった。

 天宮監督は待ってましたとばかりに煙草を取り出すと火をつけた。


「ちょっと蓮!!!」


 甲板に白衣を着た女性が現れた。

 髪は金髪のロングウェーブ。年はわからないがおそらく天宮監督官と同じぐらいだろう。何より目を引くのが胸だ。具体的なコメントは控えるが。

 その女性はツカツカと天宮監督官に近付いた。


「げぇ」

「げぇじゃないでしょ! げぇじゃ! 女の子にいう言葉じゃないしここは禁煙! ちゃんと喫煙室に行け!」


 早口で捲し立てながら頭を引っ叩くとひょいと煙草を奪い。そしてポケットから取り出した携帯灰皿に捨てた。


「女の子って歳でもねぇだろ」

 

 ……それは言わないほうがいいんじゃないか?


 俺の思った通り、その余計な一言に女性は天宮監督官を睨みつけた。


「なんか言った?」


 怖い。目が笑っていない。視線だけで人を殺せそうだ。だけどこればっかりは天宮監督官が悪い。擁護のしようもないし、したいとも思わない。

 そんな爆弾に突っ込むような真似はしたくない。

 同じ女性である真白と小夜も雰囲気が怖い。


「ゴメンナサイ」

 

 天宮監督官が情けない声を出す。


 ……ほんとこの人、普段はダメダメだな。


 そんなことを考えていると白衣の女性が俺たちに向き直った。


「蓮がごめんなさいね! 私は第二研究所所長の白河波瑠しらかわはる。よろしくね」


 輝くような笑顔でそう言った。隣で肩を落とす天宮監督官の絶望顔との対比がすごい。

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