第二章 御霊島編

任務内容

 打ち上げの日からおよそ一ヶ月。俺たちは理事長から再び、呼び出しを受けた。


 指定された日時の朝一に理事長室へ出向くと、アラトニスと工藤先生がいた。

 アラトニスは以前と同様に執務机に座っており、工藤先生は傍らに控えるようにして立っていた。

 俺以外の全員が前と同じように敬礼した。アラトニスが「休め」と言うと姿勢を正した。


「まず前提として、この話は断ってもいい」


 アラトニスがそう切り出した。


「次の実地任務だがこれは学園が予定していた実地任務ではない。もちろん断ったとしても成績には全く影響しない。その場合は通常通りの実地任務になる。それは私、アラトニス=シャドウの名において誓おう」 

「それで任務内容は?」

「これは通常の討伐任務ではなく調査任務だ。調査対象は日本の排他的経済水域内に存在する島だ。住民はおらず島全体が魔境になっている無人島。島の名前は御霊島」

「御霊島ですか……?」


 智琉は心当たりがあるのかそう口にした。明らかに拍子抜けした表情をしている。


「智琉。知ってるのか?」

「うん。名のある家には有名な話だと思うよ。でもあそこは何もないはずでは?」

「その通りだ。あそこには何もない。ただの島だ。魔境なのにも関わらず魔物がいない。だからランクも一番下の五級に指定されている」

「魔物がいない? そんな魔境があんのか?」

「あるかないかで言えばある。御霊島がそうだからな。だが世界中を見てもそんな魔境は御霊島だけだ」

「その調査ということは魔物が出たのですか?」


 真白が険しい顔つきになる。ありえない場所に魔物が出る。それは前回の実地任務で起きた異常に似ている。

 

「いや違う。今回と例の事件は無関係だ。いつも通り御霊島に魔物はいない」

「じゃあ何を調べるんだ? 異常なんて起きてないんだろ?」

「この任務がお前達に依頼された理由は三つある。まず一つ目はお前だ刀至」

「俺?」


 指を差された俺は眉を顰める。何せ心当たりがない。

 

「御霊島になぜ魔物が出ないのか。それは長年研究されてきた事だがいまだに原因ははっきりしていない。だから非魔術師であるお前の新鮮な意見が欲しいそうだ」

「なるほど。それは一理あるな」


 魔術師の中で俺は異例中の異例だ。二年半前までは魔力も少ないただの人間だったのだから。


「そして二つ目。学生という若者に意見を聞きたいらしい。そうなると魔術の理解が深いお前達が適任だ」

「それなら三年生の方が適任なのではないでしょうか?」

「たしかに真白の言う通りだな。勉学では彼らの方が先をいっている。ここで三つ目、単に実力だ。こちらは偽竜事件があったせいでおいそれと学生を送り込むわけには行かなくなった。だがお前達なら偽竜を撃退した実績がある。以上三点からこの任務はお前達に依頼された。受諾するのであれば今回の実地任務はこれになる。何か聞きたいことはあるか?」

「いいでしょうか?」


 真白が手を挙げた。


「許可する」 

「ありがとうございます。では調査任務は島内を見て回るだけであっていますか?」

「その認識で間違いない。成果が出なくても期日中探索をするだけで完了だ」

「期日っていつだ?」

「それはこの紙を見てくれ」


 アラトニスがいつものようにパチンッと指を鳴らした。すると黒い人型が紙を全員に配った。

 各自で目を通す。


「期日は明日から二日間。何かわかれば延長も視野に入れると。なあアラトニス。これ延長された場合、学園の出席はどうなるんだ?」


 実地任務の期間、学園の授業は行われない。それは実地任務が授業と同じ扱いをされるからだ。

 だから当然アラトニスの返答は予想通りだった。

 

「出席の扱いになる」


 しかし問題はそこではない。

 

「授業は?」


 正直、依頼自体は受けようが受けまいがどちらでもよかった。聞いた限りの話だと危険はなく、島を歩くだけの任務になりそうだからだ。

 しかし授業に出られないのはまずい。放課後の日課でみんなに教えてもらった結果、やっとのことで授業内容を理解でき始めたところだ。ここで何日も授業に出られないのは非常にまずいのだ。

 しかしアラトニスに慈悲はなかった。


「出られないな。そんなに勉強がしたいのなら私が直々に補修でもしてやろうか?」


 アラトニスがニヤリと笑う。後ろに控えている工藤先生は苦笑していた。

 

「なあ智琉。これやめとかね?」


 智琉も工藤先生と同じような表情を浮かべた。


「刀至くん。勉強なら私が教えてあげます」

「モテモテだなぁ刀至!」

「うるせぇよ颯斗。真白、いざとなったら頼む」

「よろこんで」


 ふわりと真白が笑った。救いはやはり天使がもたらすのだなと痛感した。

 

「まあそんな理由で辞めとくものじゃないよ」

「だよなぁ」


 智琉は一歩前に出ると振り返ってみんなを見た。

 

「僕は受けた方がいいと思うけどみんなはどう?」

「私は大丈夫です」

「私も小夜ちゃんと同じく問題ありません」

「オレも構わねぇぜ」

「賛成四、反対一だね。ざんねんだったね刀至」

「知ってたよ」


 智琉が曖昧に笑うと再度振り返った。


「この調査依頼、引き受けようと思います」

「承認した。では紙にも書いてあるが、明日は朝六時にここに来い。それからヘリで移動する」


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第二章開始です!

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