打ち上げ

 今日一日、沈鬱な空気が教室内に漂っていた。

 特に今回亡くなったクラスメイトと仲の良かった者たちは目に見えて落ち込んでいた。

 当事者である保科さんだけはいつも以上に真剣に授業を受けていたように思える。

 

 そして放課後。毎日行っている日課に真白が加わった。

 念のため智琉に確認したら逆にお願いしたいぐらいだと言われた。

 それが正解だった。


「神城くん……いまのは…………」


 俺は全てを感覚で行なっているためちょっとしたアドバイスしかできないでいた。しかし真白はしっかりと理由を付けてどこが悪いどこが正しいといった指摘してくれるので効率が段違いに良くなった。

 勉強と同じで教えている真白の方も理解の幅が広がって良いと言っていた。


 そうして集中しているとはやいものですぐに帰宅の時間となった。

 学園から出てしばらくは全員同じ方向だ。と言うのも学園に通っている生徒はだいたいこの付近に住んでいるらしく智琉も颯斗も天音さんも同様だった。

 

 少し歩いたところで颯斗が「あ!」っと声を上げた。


「どうした?」

「オレたち何か忘れてないか?」


 颯斗が神妙な顔で言った。

 

「何か?」


 考えるが思い当たらない。刀は持っているし、教材も持って帰るものはない。

 みんなも考えていたようだが特に思い当たらないようだ。

 颯斗はこれ見よがしにため息をついた。


「打ち上げだよ打ち上げ!」

「打ち上げ……? 花火でもやんのか?」


 俺の言葉に他、四人が足を止めた。


「ん? 俺なんか変なこと言ったか?」

「刀至。打ち上げしらないの?」


 智琉が不思議そうに言うが打ち上げなんて花火ぐらいの意味しか知らない。


「まじかお前。今までどんな生活送ってきたんだよ。……じゃあまあ刀至は強制ってことで他は?」

「急すぎるけど僕は賛成だね」

「わ、わたしは星宮さんとちゃんと話してみたいので賛成です」


 天音さんが俯きがちに毛先をいじりながら頬を赤らめた。


「って言ってるけど星宮さんは?」

「私は……行きます。ちょっと家に確認をとります」


 そういうと真白は端末を取り出して通話をかけた。


「お父様。あの……打ち上げをやるんですけど行ってみてもいいですか? …………はい。刀至くんも一緒です。…………わかりました。ありがとうございます」


 真白が通話を終え端末をポケットにしまう。


「大丈夫です。刀至くん。お父様が楽しんでおいでって言ってました」

「……わかっ……た?」


 そもそも打ち上げというものがわからなかったので疑問系になってしまった。


「んじゃ行くか!」


 颯斗が腕を突き上げながらずいずいと進んでいく。

 みんなはそれに続いていった。




 やってきたのはファミリーレストラン。値段も安く、味も美味しいと定評のある某ファミレスだ。

 といっても俺は初めて来た。真白も同じなのか、キョロキョロと店内を見回していた。

 夕食時ということもあり待つことになったが、幸いあまり混んでいなかったのかすぐに席へ案内された。

 結局何が何だかわからない状況であれよあれよと注文を済ませる。

 颯斗は肉料理、智琉も同じものを頼んでいた。天音さんはドリアを、真白はパスタを頼んだ。

 そして俺はみんなが食べる同じものを一品ずつとその他色々。店員さんが驚いて何度も確認してきたが、真白がフォローしてくれた。

 最後の「全部大盛りで」と言ったところで店員の顔が盛大に引き攣ったが。顔に「嘘だろこいつ」と書いてあった。

 

 待つこと数十分、料理が運ばれてきた。ドリンクはもちろんドリンクバーで全員分揃っている。


「んで結局打ち上げってなんなんだ?」

「んー? 語源とかはよくしらねぇけど何か大事な行事を終えた時にパーっと飲み食いすることだ! ほら! 初の実地任務色々あったけどかんぱーい!」


 颯斗の実に雑な音頭でみんながグラスを掲げた。


「「「かんぱーい!!!」」」

「かんはい?」


 そうして初の実地任務の打ち上げが始まった。


「ちなみに打ち上げの語源は歌舞伎の終わりに太鼓を鳴らす事を『打ち上げる』と呼んでいたことから来てるらしいですよ」


 真白がこっそり耳打ちしてきた。

 

「物知りだな……」




 楽しい時間はすぐに過ぎる。皆が食事を終え一息ついた時に颯斗が思い出したように聞いてきた。


「そーいや刀至っていままでどんな暮らしをしてたんだ? 打ち上げも知らないって相当だろ?」


 その質問にはギクッとした。なんとかバレないようにしなくては。


「転校初日にもいった通り星宮の孤児院にいたんだ。でも実は籍はあったけどそこでは暮らしてなかったんだよ。たまたまそこに来ていた師匠に剣術の才能を買われて山奥で暮らすようになったんだ」


 咄嗟に思いついた説明にしては上出来だったと思う。嘘は少し真実を混ぜると現実味を増すと師匠に聞いた。仲間に嘘をつくのは心苦しいがこればっかりは仕方ない。

 ずっと孤児院にいたんじゃ「打ち上げ」という言葉を知っていてもおかしくないし、そもそも俺の強さに説明がつかない。なら師匠と暮らしていたとした方が無難だ。それだけは本当の事だから。


「へぇ。師匠って誰なんだ?」

「鴉羽士道っていうんだけどわかるか?」


 あの強さ、アラトニスとの繋がり、星宮家へと繋がりを考えると知っていてもおかしくないと思ったが颯斗は首を横に振った。


「オレは知らないな。小夜と智琉は聞いたことあるか?」


 デザートを食べていた天音さんは首をふるふると振った。


「僕も知らないな。そこんとこは星宮さんのが詳しいんじゃない?」

「私ですか? 私も知りませんね。お父様の師でもあったらしいですが」

「あの『剣星』の師か」

「『剣星』?」


 聞き慣れない言葉にオレは首を傾げた。


「そういえば言ってませんでしたね。お父様は零級魔術師、現十鴉影将とあえいしょうの第一席です。二つ名が『剣星』ですね」

「え?」


 思わず呆けた声が出た。

 修司さんの優しげな雰囲気、柔らかな物腰から強いとはわかっていてもそこまでとは思ってもみなかった。

 しかし考えてみると兄弟子なのだから当然とも言える。


「剣星様のお師匠様ですか。剣星様のあの話はロマンティックですよね」

「あーあの話か。惚れた女のために『剣星』になったんだもんな。ほんと尊敬するぜ」


 隣の真白をみると顔をりんごのように真っ赤に染めていた。実の親の色恋を友人から聞かされるのはたしかに恥ずかしいだろう。


「……あの……その話はちょっと」

「それは気になるな」


 俺は身を乗り出す勢いで聞いた。颯斗がニヤリと笑みを浮かべる。


「お? 気になるか?」

「刀至くん!」


 頬を赤らめてむすっとしている姿は可愛らしい。しかしからかいすぎるのも良くない。


 ……それに藪蛇になりそうだしな。


 星宮邸では修司さんと真白しかみていない。母親がいないのだ。別の場所に住んでいるとかならまだいいが、俺が首を突っ込むことでもない。

 だから誤魔化すように笑って話を逸らした。


「まあそれは今度聞くとして師匠のことはみんな知らないんだな」

「……今度も聞かなくて良いです」


 真白がぼそっと呟いた。


「うん。そんなに強かったら僕らも知ってるほどの有名人のはずだけど何者なんだろうね」

「もしかして超越者とか?」


 颯斗の言葉に心臓が跳ねた。胸のうちに灯る焔が勢いを強める。


「刀至くん?」


 真白の言葉にはっと我に帰った。心配そうに俺の目を見ている。それは智琉も、颯斗も天音さんも同様だ。無意識に殺気がほんの少し漏れていたようだ。


 ……落ち着け。これは俺の復讐だ。巻き込むわけにはいかない。


 漏れ出た殺気を抑えると曖昧に笑った。

 

「ごめん大丈夫。師匠が言うには超越者じゃないってよ」

「へぇーそれほど強くて人間か。信じらんねぇな」

「本当にな。弟子の俺でも人間とは思えねぇよ」


 俺はそこで言葉を区切ると情報を集めることにした。


「それで超越者の最強って誰なんだ?」


 誰が最強か。学生なら一度は盛り上がる内容だろう。詳しい人がいてもおかしくない。それに奇術師がどの程度なのか知っておきたい。


「一般的に鮮血真祖か片翼天使のどらちかと言われていますね。彼女らは神代の生き残りですから」

「神代?」

「古き魔術の時代です。神々が実在した時代だと言われています。具体的に何年前なのかはわかりませんが」

「神か……」


 胸に手を当てる。


「今……神はいないのか?」

「いません。これは鮮血真祖と片翼天使が証言しています。神々は敵対するを退ける為に傷を負った。故に現在神はいない、だそうです」

?」

「はい。そこは鮮血真祖と片翼天使も同様にわからないといっているらしいです」

「……なるほど」


 でもそれならば疑問が残る。


 ……俺に降りた神はなんなんだ?


 真白、もとい超越者の二人が嘘をついていないのであればそもそもがヒューの魔術は成功しないはずではないか。

 しかし神降しは現に成功している。


 足元が崩れたような感覚を覚えた。その話が本当ならばそもそも半神なんていうものは存在自体がおかしい。


「刀至くん?」


 真白の声に思考が引き戻される。


「大丈夫ですか?」

「刀至、お前さっきから様子がおかしいぞ? 大丈夫か?」

「ああ。問題ない。他に超越者はなんて呼ばれているんだ?」

「拳聖、機械翁、奇術師ですね」

「一番弱いのは誰だ?」

「これは分かりませんね。なにせ超越者同士が戦ったら国が数カ国は滅びます」

「まあそれはそうか」


 これは意味のない質問だった。強かろうが弱かろうが関係ない。俺は奴を殺すだけだ。

 神代の魔術師ではないのがせめてもの救いだ。


 それから他愛のない会話が続いた。

 その間に真白と天音さんが交友を深め、名前で呼び合うようになった。真白も天音さんもスイーツが大好きらしく今度二人で食べに行こうと話をしていた。

 その会話の合間に颯斗が言った「じゃあみんな名前で呼ぼうぜ!」の一言で俺も天音さんのことを小夜と呼ぶようになり、智琉と颯斗も真白のことを名前で呼ぶようになった。

 そんなこんなでチームの仲は深まり、打ち上げは大成功で幕を閉じた。


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これにて第一章完結となります!

明日から第二章始まります!

キリがいいので♡コメントと☆レビュー待ってます!!!


もし良かったら新作も読んでいただけると嬉しいです!


偽剣使いと氷姫~夢で見た囚われの少女を救う為、勇者召喚に自分から巻き込まれにいきます~


ここまで読んでくれた方ならハマるはず!

よろしくお願いします!


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