神滅天使


 智琉から光が溢れた。それは凄まじい光量で辺りを満たした。光が晴れると智琉の姿が変わっていた。

 髪は腰まで伸び、ほのかに輝く金色に染まっている。きていた制服は金の装飾が施された純白の法衣へと変質し、背中からは輝く純白の翼が生えていた。

 極め付けはその頭上。そこには奇怪な紋様をした輪がのっていた。

 その姿はまさに天使そのもの。


「まさか神城の血統魔術ブラッドが見られるとは」


 天宮監督官が呟いた。


血統魔術ブラッド?」


 俺の疑問には星宮さんが答えてくれた。

 

「文字通り一子相伝の魔術です。血統が代々積み重ねてきた魔術の奥義。それが血統魔術ブラッドです。神城家は代々、神代にいたとされる天使を再現しようとした一族です。しかしまだ制御できてないようですね」


 智琉を見ると額に大量の汗を浮かべていた。表情も苦しそうに歪んでいる。

 しかしそれを堪えて智琉は天へと舞い上がった。遥か上空で静止すると眼下の白竜を見下ろし銃を構えた。すると翼の周りに無数の魔術式が構築される。その数、およそ百。

 智琉が引き金をひくと魔術式から夥しい数の王光ギガン・レイが放たれる。

 それも一度ではなく何度も何度も。

 白竜はレールの上から飛び立つと飛翔して王光ギガン・レイを避けていく。しかし数が多く、かなりの数を被弾した。

 しかし着弾する直前で白竜の纏う結界に弾かれた。

 

「やっぱ魔術も使うか。天草監督官。あれは何級ですか?」

「すくなくても準一級はあるだろうな。本当は学生が相手にできるもんじゃない」

 

 胸ポケットからタバコを取り出して火をつける。

 

「まあでも神城智琉は神城家の次期当主だ。最高傑作とも言われているしなんとかなるだろうぜ」

「そうですか」

 

 視線を智琉に戻す。智琉の顔は苦痛に歪んでいた。おそらくすでに限界は超えている。血統魔術ブラッドとやらを維持するだけでも相当きついのだろう。


「くっ!」


 無数の王光ギガン・レイを受けても白竜の纏う結界はビクともしない。それに時間は白竜の味方だ。

 智琉は無駄だと思ったのか一斉掃射をやめた。前へ右手を翳すと天使の輪が移動し、変形して魔術式に成った。


 ――光属性攻撃魔術:神滅ノ剣しんめつのつるぎ


 天使の輪から光り輝く剣が出現した。智琉は剣を握ると翼をはためかせて白竜へと接近した。

 白竜も応戦すべく口の端に白い炎をちらつかせる。そして放たれるは竜の息吹ブレス

 それは偽竜だった時とは比べ物にならないぐらいの威力を誇っていた。熱波が離れている木々を燃やしている。

 しかし智琉も先程までとはまるで別人だ。左手を前にかざすと目の前の空間が光を発して歪んだ。直後、衝突。衝撃が空間を揺らした。歪んだ空間が竜の息吹ブレス弾いている。

 そうして竜の息吹ブレスが止んだ。


「はぁぁぁあああああ!!!」


 智琉は飛翔し光の剣で白竜を結界ごと両断した。バリンと結界が砕ける音が鳴り響き、白竜が中心からズレて落下していく。

 しかし白竜は空中で羽ばたいた。

 

「くっ! ダメか!」


 そして身を翻すと既に再生を終えている。

 どうやら再生能力は健在なようだ。しかも再生速度が段違いに早い。


「キィエエエエエエエエエ!!!」

 

 白竜は甲高い鳴き声を上げながら竜の息吹ブレスを放った。

 智琉は再び手を前方に翳し空間を歪ませる。

 

「颯斗! どうにかして十秒だけ時間を作ってくれ!」

「オウ! 刀至!!! 俺も全力で行く! 最悪の場合は任せたぞ!」


 智琉が残った魔力を全て練り上げていく。

 颯斗も負けじと魔力を練り上げる。周囲に濃密な魔力が溢れ出しチリチリと火花を散らす。それを全て使い、巨大な魔術式を記述した。

 

 ――炎属性強化魔術:爆炎心闘ばくえんしんとう

 

 フッと、颯斗の腕を包んでいた蒼炎が消えた。


 それと同時に天音さんも魔術を発動する。

 既に天音さんの魔力は底を尽きかけている。しかしここが正念場だ。それをわかっている。彼女はありったけの魔力を使い魔術を行使した。


 ――光属性領域魔術:聖天せいてん


 天から光が降り注ぐ。身体の芯が熱くなり力が漲ってくる。

 颯斗はレールの上に飛び乗り白竜の元へと走る。炎を纏っていないのにも関わらず通った足跡が高温で溶けていく。

 

「ウラァ!!!」

 

 レールのてっぺんまでたどり付くと空中へと身を投げ出した。

 空中で一歩を踏み出すとパァン!と空気が弾けた。そして颯斗は空を駆けた。そのまま白竜まで辿り着くと拳を引き絞る。


「ありったけだ!!! 食いやがれ!!!!!」


 颯斗が白竜を殴りつける。すると轟音を響かせ、大爆発が起こった。空高く爆炎が立ち上る。

 しかしその中から無傷の白竜が姿を現した。

 だが時間は稼げた。


「ありがとう。離れてくれ」


 その言葉は呟かれたものだったが、やけに大きく響いた。智琉の魔力が臨界まで高まっている。触れれば弾けてしまいそうなほどに。

 颯斗が退避するのを確認すると智琉が翼を羽ばたかせる。

 羽が雪の様に舞い散り、その全てが魔術式に変わる。

 現れたのは巨大な魔術式――。

 

終滅ツイメツ!!!」


 瞬間、視界を白が埋め尽くした。

 その光景は神秘的だった。空から光り輝く柱が落ちている。白竜を飲み込まれもはや姿も見えない。

 数秒の後、白が晴れると白竜は跡形も残さずに消えていた。

 

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