第3話:占い師と予言
昨日 月食が見られなかったから1日くらいずらしてもある程度の月食が見られるんじゃないかと思って僕はベランダに出てみた。
正直、あの占い師のお姉さんのことを思っていなかったと言えば噓になる。
「〽~~~~~♪」
あのお姉さんの鼻歌だった。時々歌詞が出るけど、分からないところは鼻歌になる感じの……他人に聞かれると一番恥ずかしいやつだ。
そして、歌っている曲はプリキュアのオープニングみたい。その選曲よ。
「上手ですね」
「わっ! びっくりした!」
仕切り板越しの向こうでもお姉さんがワタワタしているのが伝わる。
「プリキュア好きなんですか?」
「ま、まあ、普通よ、普通」
「プリキュアは確か2004年から放送だったかな。約20年もやってると、親子で楽しめるコンテンツになってるって言うし、もう『歴史』って言っていいんじゃないですか? 別に恥ずかしくないと思います」
僕もアニメは大好きだ。それに、お姉さんみたいな美人(多分)がアニメを好きなんてちょっと可愛い感じで好印象。
「別に恥ずかしくないわよ。プリキュアカレーとか1袋で37kcalしかないし、その上 たんぱく質が多くて、脂質が少ないから筋トレする人の間でも話題なのよ」
そうなのか。今度 買ってみようかな。
「……」
「……」
少しだけ間が開いた。話題を切り替えるタイミングであり、僕は彼女に聞いてほしいことがある事を無言で伝えていた。
「なに? どうしたの? 相談事かな?」
「……はい」
「クラス内で1日 誰とも話せない事?」
「すごい! どうして分かるんですか⁉」
「占いをやってるから」
すごいな占い師!
「僕、転校してきてもう1週間にもなるのに誰とも話せてなくて……この学校でやって行けるか不安になって……」
「前の学校ではどうだったの?」
「うーん、普通ですかね。話しかけられたら話せるので、新学期とかは何となく友達になって、友だちが友だちを連れて来てくれたから……」
話してみて気づいたけど、僕にとって初めてのケースなのだ。既に出来上がった人間関係の中に一人入って行くのが。何かと話しかけられることが多かったから、これまで全く困ったことがなかった。これまで僕は受け身だったんだな。
新学期ではみんな不安に思っているから僕にも誰かが話しかけてくれていた。
でも、今回は6月だ。しかも、高校3年の6月。3年の受験年に転校してくるのも珍しいのに、4月じゃなくて6月だよ。
訳ありなのは誰にでも分かる。気を使って話しにくい所もあるのかもしれない。
「誕生日はいつ?」
脈絡もなくお姉さんが訊いた。
「僕ですか? 6月11日です」
「もうすぐじゃない。じゃあ、誕生日プレゼント代わりに私がその問題を解決してあげるわ」
「そんなことできるんですか⁉」
「でも、目先のものは一見 甘いように見えるけど、実はマーマレードジャムのように苦みと一体だからちゃんと見極めないとダメよ」
「……」
さすが占い師、言っていることが抽象的で意味がよく分からない。
僕がマーマレードジャムについて知っている事なんてほとんどない。みかんみたいな柑橘系のジャムで、果肉だけじゃなくて皮まで使っているってことくらい。
皮に含まれた苦み成分リモノイドがあって甘みと苦みのある特別なジャム。保存性が高い特別な瓶はマルメラーデグラスと言ったか。そこまで思い出しても どうしたらいいのかさっぱり分からない。
「具体的に僕はどうしたらいいんでしょう?」
「……」
ベランダの仕切り板の向こうなのでお姉さんの表情などは一切分からない。
「猫かカレーかで言ったらカレーを選ぶことね」
全然意味が分からない。なんだその二択。
「そうね、明日よ」
「明日?」
「そう、明日 現状の道を打開する道が開くわ」
「……はあ」
「明日の一限目の教科は何?」
「一限目ですか? 確か英語だったかな?」
さっき時間割を見て教科書を準備したから多分 合ってるはず。
「じゃあ、それをわざと忘れて行きましょう」
「え⁉」
分かった。それで僕が周囲に話しかけないといけない状況を作ろうって作戦か。そんなこと分かっていたら僕は教科書をちゃんと持って行くに決まっている。
どうしよう。教科書をわざと忘れて行っても僕は誰にも話しかけられずに1時間困るだけだ。
転校して1週間以上 誰も話しかけてこないのに急に話しかけてくるわけがない。僕は疑い85%で翌日学校に向かった。
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