第48話 ミッションクリア
責任者の衛兵が、他の衛兵に指示を飛ばしているのをぼうっと見ながら色々と考えた結果、正直に言うことにした。同じ面倒なら、下手に疑われない方を取った。
だが、全て本当の事を言う気にはなれないので、多少のフェイクを入れてみる。
「……行方不明者の事件の手掛かりだった男を追って、この山小屋まで来ました。それで彼女と二人、こうしてここに居るというわけです」
「ほう、あの娘も冒険者とな! では其方らは、街での行方不明事件を解決しようと、尽力してくれたというわけか?」
「はい」
まぁ、両翼族の少女を救う為にここに居るのだが、流れ的にはそういう事になるしな。
すると、現場を調査していた衛兵の一人がダダっと駆け足でやってくると、男爵の前で立ち止まり敬礼した。
「申し上げます。あちらに男爵様に見てもらいたいモノがございます」
「どうした?」
「それが、あちらに見える檻の中に、違法奴隷商の商品と思われる獣人が居るのですが、一人なのです。あれだけ大きな檻に一人、怪しいと思いまして」
衛兵の報告を受けた男爵が、口ひげを撫でた。
「ふむ。もしかすると、特別な力を持った獣人かもしれん。見てみよう」
「はっ! こちらです!」
と、男爵は衛兵に案内され、両翼族の少女が居る檻へと馬を走らせて行く。あの少女をどうするつもりだろうか?
「……御供さん」
「ちょっと様子を見てみましょう」
心配そうな立花さん。無理もないが、ここで騒いでもロクな事にはならない。
離れたところに有る檻の中を、手渡された松明で照らし、中を確認している様子が見て取れる。さて、どうするのかな?
しばらく中の様子を調べていた男爵は、そのままこちらへと馬を走らせ戻ってきた。お、戻ってきたな。
「どうでございましたか?」と、俺たちと一緒に男爵の様子を見ていた責任者の衛兵が、男爵に問う。
「うむ。両翼族の少女であった」
「両翼族? これまた珍しい種族ですな。それで、如何なさるので?」
「うむ、どうしたものか……」
困った様に顎に手をやる男爵。お、あの少女への対応に苦慮しているのか? ならば──
「恐れながら申し上げます」
「……む、なんだ。申してみよ」
断りを入れ、男爵に近づく。そして、この世界の礼儀なんて知らないので、軽く頭を下げ、
「そちらの両翼族の少女の身柄を、どうするおつもりでしょうか?」
「其方がそれを聞いてどうする?」
「はい。実は、そこで倒れている鳥翼族の女性に、あちらの少女の行く末を頼まれましたもので」
「ほう、鳥翼族とな」
チラリと、倒れている鳥翼族の女性へと視線をやった男爵。
なにも正直に話す事もなかったが、何しろ相手は男爵、お貴族様だ。腹芸ならば、俺なんかよりもよっぽど達者だろう。ならば下手な嘘を吐いて疑われるよりも、ここは正直に訴えた方が良い。
それに証人も居る事だし。
「はい。その事については、あちらの男も聞いて──って、ゼンデさんっ!?」
話を振ろうとゼンデを探すと、担架に乗せられて運ばれるゼンデの姿。
「あの男ならば、血を失い過ぎて気を失っておる」
おいおい、大事な時に頼むぜ!
当てが外れて焦る俺に、頭上から声が掛かる。
「……ふむ、まぁよい。其方が嘘を吐いている様子も無いし、その利点もない。ワシも特段両翼族に興味も無いしな。連れて行くがいい」
「──宜しいので!?」
「構わんと言っている」
「ありがとうございます!」
男爵の言葉に、胸を撫で下ろす俺と立花さん。要らぬ邪魔がたくさん入ったが、無事に両翼族の少女を助け出すミッションをクリアした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます