第47話 馬上のボンクラ



「もう一度言う、双方共、武器を収めよ!」



 馬上から、再び威厳ある声が山中に響く。

 誰だよ、このおっさん!? ってか、武器を収めろって、今俺たちは戦ってんだよ! 



 そんなモン、無視だ無視!とがっつりショートソードを構えて、青黒ガーゴイルと対峙していると、今度はその身形の良いおっさんの横に馬を付けた衛兵が怒鳴る。



「おい! 武器を収めろと言っているのが、分からんのか!?」



 分からんのか!?って、そいつはこっちのセリフだ! 



「アンタたちも分かっていないだろ!? 俺の前に居るのは、ガーゴイルだぞ!?」

「何を言っている! 良いから武器を収めるんだ!」



 聞く耳すらない衛兵の態度に、さすがにイライラして視線を逸らしたその時、バサリと羽が羽ばたく音が聞こえた。

 見れば、立花さんと対峙していたガーゴイルが、青黒ガーゴイルの下へといつの間にかやってきており、片翼となった青黒ガーゴイルに肩を貸しながら、宙に浮く。



「む? 違法奴隷商じゃないな? アレはなんだ?」



 馬上の身形の良いおっさんが、眉をひそめる。だから言ってんじゃねぇか! 気付くのが遅ぇんだよ!



「……ココハ預ケルゾ……」



 残ったガーゴイルの手を借り、バサバサと高度を上げていく青黒ガーゴイル。ちぃ、逃がすかよ!



「くっ! 逃げんな!」

「こら! 武器を拾うな!」



 落ちていたナイフを投げつけようとしたが、近くに居た衛兵に先に拾い上げられてしまった。おい、邪魔すんな!



「返せ!」

「えぇい! うるさい!」

「御供さん!」



 邪魔するおっさんと揉み合っていると、立花さんが鋭い声を上げる。その声で、顔を空へと向けると、すでにヤツらの姿は見えなくなっていた。くそっ、逃げられちまったじゃねぇか!



 青黒ガーゴイルが両翼族の少女の居た檻の様子を見に行ったことと、その少女を姫と呼んでいたあの鳥翼族の女性と事を構えていた事を考えると、アイツらの目的、狙いは明らかに彼女だろう。

 だからこの場で倒したかったのだが……、くそう、これって後々面倒になる奴じゃねぇか? 余計なフラグなんて、立てなくねぇぞ。




 苛立ち、チッと舌打ちして地面を蹴る。

 すると、蹄の音が近づいて来て、馬上に居たおっさんが声を掛けてきた。



「もしかすると、ワシらが邪魔をしてしまったか?」

「いえ……、そんなことは……」



 そう答えたが、態度でしっかりと「おたくらが邪魔したせいで、こうなったんですよ」と示す。


 すると、先ほど俺と揉み合いをした衛兵が、再び怒鳴った。



「なんだ、その不遜な態度は! こちらの方をご存じないのか!」

「知りませんが?」



 存じませんね。印籠いんろうでも見せてくれるんですか? 



 すると、「はぁ~」と盛大にため息を吐いたあと、その場で跪き、両手で馬上のおっさんを丁重に指し示した。



「こちらの方はな、タキサス街の領主さまであられる、ディンキー男爵様であらせられるぞ!」

「男爵、さま」



 そう言われ、改めて馬上のおっさん、もといディンキー男爵様を見る。この人が、屋台のおばちゃんがディスっていたボンクラ男爵か。さすがにタキサスを治める領主だけあって、身形の良い恰好をしているはずだ。




 松明の明かりのせいか、くすんで見える茶髪と、同じ色をした口ひげを生やした歳のころ四十台後半くらの男性は、衛兵の紹介を受けると、恥ずかしそうにコホンと一つ咳払いをした。



「済みません! 私の失態で、魔物めを取り逃がしてしまいました!」



 男爵様を紹介し終わった衛兵は、立ち上がると敬礼しながら、ディンキー男爵に報告する。そうだな、お前のせいで取り逃がしちまったよ。



「まぁ良い。して、其方らは?」



 男爵に直々に報告した、どうやら責任者らしい衛兵に手を向けて、「気にするな」とやり取りしたディンキー男爵は、馬上から俺たち質問を投げ掛けてきた。



「自分たちは冒険者です」

「ほう、冒険者か。して、なぜここに居る?」

「それは……」



 チラリと檻を見る。


 さて、どうすっか? 本当の事を言うと、色々と面倒な事に巻き込まれる未来がありありと見えるし、誤魔化したら誤魔化したらで、さらに面倒な事になりそうである。



「どうする?」と立花さんへ視線を投げ掛けると、腕組してこちらを遠巻きに見ていた。完全に俺に全任せしようってのが、ありありと分かる。




 はぁ、この世界の主人公は、勇者であるキミだかんね?

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