第41話 石の翼の襲撃者



「おい、しっかりしてくれよ!」

「うるせぇ! これで全力なんだよ!」



 襲撃者の放った蹴りに、俺も蹴りを合わせる。その隣で、別の襲撃者が繰り出した爪撃を、ゼンデが青い顔をしながらなんとかシミターで受け止めていた。



「あんたがしっかりしてくれないと、まともに戦えないんだぞ?!」

「ウルセエって言ってんだろ! 兄ちゃんは兄ちゃんの戦いに集中しやがれってんだ!」



 俺の煽りに、青かった顔を今度は赤くしながら、自分の相対している襲撃者へとシミターを振るっていくゼンデ。今では護衛の唯一の生き残りだが、さすが生き残っただけのことはあって、なかなかに実力がありそうだ。ならば、一人にしておいても問題ないな。



 蹴り足に力を込めて襲撃者を蹴り飛ばして間合いを取った俺は、出来た時間で立花さんと鳥翼族の女性へと注意を向ける。




 立花さんは襲撃者二人を相手に、互角の戦いを展開している。いつの間にあそこまで戦えるようになったんだ? 女神の加護のおかげか? まぁ、それでも早めに援護しに行った方がいいな。




 その反対側では、襲撃者のリーダー格の男と相対している鳥翼族の女性が、肩で息をしながら、細剣の剣先をリーダー格の男に向けて、牽制していた。こっちは不利って感じが。あの鳥翼族の女性も決して弱くは無いのだが、それ以上に、あのリーダー格のヤツが強いのだ。



「立花さんよりも、アッチが先か……」



 突然現れた鳥翼族の女性の目的は分からないが、あの襲撃者と戦っているのなら、敵ってことは無いだろう。ならば、フォローしても問題ないはずだ。



「まぁ、そのためにはコイツらをとっとと倒さないとな」



 相対する襲撃者を注視する。どんな奴だか知らないが、そこそこに強い。これほどの強さなら、あの護衛たちも歯が立たなかっただろう。だからと言って、奴らの蛮行を許すつもりはないがな。



 そうして、相手とフェイントを挟みながら睨み合いをしている最中、急に強い風が吹きつける。すると、顔を隠すように深々と被られたフードがめくれ、その奥にあった顔が露わになった。



 ──そこにあったのは、赤く光る眼と、大きく前に突き出したクチバシが特徴的な、石の顔だった。



「ガーゴイル、かよ!」



 俺のすぐ傍で戦っていたゼンデが、悲観した声を上げる。



 ガーゴイル、か。これまたメジャーどころが出てきたな。



「チッ」



 どこからか、舌打ちが聞こえた。そちらを見ると、鳥翼族の女性と戦っていたリーダー格の襲撃者が、目深に被っていたフードを外す。それに倣い、他の襲撃者も全員フードを外した。全員、ガーゴイルかよ。



「スミ、マセン」

「……マァ良イ。ドウセ、ココニ居ル人族ハ全員殺スンダカラナ」



 物騒な事を言って赤い目を光らせた、リーダー格の青黒いガーゴイル。おいおい、怖いこと言いなさんなって。



「何よ、アイツら!?」

「あれは、ガーゴイルと言います」

「ガーゴ、イル?」



 俺に質問してきた立花さんに答えを返すと、いつもの様に首を傾ける彼女。有名なんですよ、コイツらって。



「はい。ガーゴイルです。俺の知っているガーゴイルなら、敏捷性に優れている厄介な相手です。翼で突風を起こす事が出来、それに口から火を吐きます。注意してください」



 ショートソードを構え直しながら、立花さんへとアドバイスを送る。俺の知っているガーゴイルなら、立花さんならばそれほど苦戦はしないだろう。



 そんな俺に、リーダー格の青黒ガーゴイルが、驚きを含んだ声を掛けてきた。



「随分ト俺タチニ詳シイヨウダガ、何者ダ、貴様ハ?」

「俺の事?」



 チラリと青黒ガーゴイルへと向いて、



「俺の事より、その女性を気にした方がいいですよ」

「──はぁ!」



 俺の言葉と同じくして、青黒ガーゴイルへと鋭い突きを放つ鳥翼族の女性。



「コシャク!」

「まだだ!」



 少し余裕をもって、その突きを躱した青黒ガーゴイルに、さらに追撃とばかりに突きを放つ鳥翼族の女性。



「ココマデ、追ッテ来ルトハナ」

「姫様を守る為だ!」



 どこか馬鹿にした口ぶりの青黒ガーゴイルに、細剣を大きく突き出す鳥翼族の女性。どうやらお互い初対面というわけではみたいだが、それにしても、姫様とはいったい?



「ギャハゥ!」



 そんな事はお構いなしと、俺と相対していたガーゴイルが、月の光を受けた爪を光らせ、突っ込んでくる。俺に話し掛けてきたのは、おたくらのリーダーなんですけど?



「まぁ、良いや。来な!」




 とりあえずは、目の前の戦いに集中しましょうかね!

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