第42話 狙うはここ!



「シャハァ!」



 月明りのみが照らす中、ガーゴイルの爪が、怪しく光りながら俺へと迫る。狙いは──、俺の肩口か!



「させねぇよ!」



 まっすぐに俺の肩目掛けて伸ばされた爪を、ショートソードで受け流す。狙いが解ってりゃ、なんでもねぇ!



「──ギ!?」

「今度は俺から行くぜ!」



 驚声を上げるガーゴイルの横っ面に拳を叩き込む!



「ギャヒ!?」



 固い感触が手に伝わってくるが、お構いなしに拳を振り切ると、ガーゴイルは悲鳴を上げて吹き飛んでいく。



「まだだ!」



 地面を蹴る。

 体を低くし、一気に距離を詰めていく。

 そしてもう一度地面を蹴った時には、ガーゴイルの目の前まで接近していた。



「──!?」



 殴り飛ばしたガーゴイルの驚きが、空気を伝ってくる。



「追撃しないとでも思ったかい?」



 そう言って、ショートソードを水平に構える。鳥翼族の女性の放った、速く美しかった突きを真似てみたくなったのだ。



「──しっ!」



 ショートソードを突き出す。狙うは体の中心。ここなら、どんな奴だって急所だろう。



「──クワッ!?」



 それを見て、ガーゴイルが両方の爪を交差させ身を低くした。俺の突きを受けるつもりだったらしいが、それよりも早く、俺の放った突きがガーゴイルの、石の腹へと埋まっていった。



「ク、クワッ……」



 顔を驚愕に染めるガーゴイル。そのまま、ショートソードが埋まった腹へと視線を落とすと、刺さったショートソードを中心に、ヒビが走り、それが徐々に広がっていく。



 一瞬、このまま倒してもいいのかという疑問が頭をよぎる。が、このまま倒したところで、二人を相手取っている立花さんはこっちを見る余裕も無さそうだし、仮に見られたとしても、一対一なら、倒しても怪しまないだろう。



「じゃあな」



 クンと手首を捻る。それだけで、石の腹のヒビがビシリと音を立てて崩れ、同時に眼から赤い光が薄まり消えた。よし、まずは一匹。



 見れば、ちょうど時同じくして立花さんも相手取っていたガーゴイルの一匹を、袈裟斬りで真っ二つにしていた。


 よし! これで負けは無いな!



「ゼンデさん、俺はあの鳥翼族の援護に行きます! そいつはゼンデさんにお任せします!」

「ちょ、待てって!?」



 自分の顔に迫るガーゴイルの爪を、シミターで必死に受け止めていたゼンデにそう伝え、最後にもう一度、自分の倒したガーゴイルを見る。倒したガーゴイルは崩壊を始め、その内にさらさらとした砂となり、風と共に谷下へと流れていった。ガーゴイルって、普通の魔物と違って、死ぬとこうなるのね。



 虚しさが心に差し込んだが、首を振ってそれを振り払う。その刹那──



「──きゃあ!?」



 俺の耳に、悲鳴が届く。その声は、鳥翼族の女性の声。そちらへと目をやった俺は、思わず目を見開いた。




 俺の視線の先で、いつの間にか片翼を失っていた鳥翼族の女性が、その腹から青黒ガーゴイルの爪を生やしていた。

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