第40話 白い翼のナイト
突如として現れた人影は、ゼンデを守る様に襲撃者の真正面に立つと、握っていたレイピアの様な細剣を目の前にかざし、何かを呟くように口を動かす。
その人影が現れたと同時に、俺と立花さんが相手取っていた四人の襲撃者が離れていき、一人雰囲気の違う襲撃者のもとに集まる。アイツはリーダーか何かか?
「大丈夫、御供さん!」
「えぇ、なんとか」
立花さんも俺のもとに駆けてきた。彼女もケガをしていないようでなによりだ。
「あいつ等、なんなの!?」
「さぁ」
色めきだつ立花さんに返事を返す。奴らが何者かは知らないが、人を躊躇うことなく殺せる、まともな奴らじゃないことだけは確かだ。
すると、周りに転がる遺体を避けるようにして、ゼンデがこちらへと這ってきた。まだ腰が抜けているみたいだ。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ」
手を差し出すと、「済まねぇ」と掴むゼンデ。そのまま立ち上がると、細剣を構え直した人影へと視線を向けた。
俺も改めて人影を見る。……あれ、なんか背中が膨らんでいないか?
「……あれはもしや、鳥翼族、か?」
「鳥翼族?」
ゼンデが声を震わせる。なるほど、言われてみればたしかに、皮鎧姿のその背中の膨らみは鳥の羽のように見えるな。
さらに暗視:弱をかけた目を細めてみれば、背中だけでなく、胸部も膨らんで見える。女性、か?
俺たちが見つめる中、鳥翼族の女性が細剣を前に突き出しながら、黒装束の集団へと突っ込んでいく。
「……散レ」
襲撃者のリーダー格の男が初めて放った、カタコトな言葉の指示。それを受けた他の襲撃者が、四方へと散開する。
だが、鳥翼族の女性はそれらには目もくれず、一直線にリーダー格の男へと向かっていく。
「しぃっ!」
鋭く、まっすぐに突き出された突き。その初撃だけで、彼女の強さが解る。
だが、リーダー格の男はその鋭い突きを難なく躱すと、カウンター気味に爪を繰り出した。
「フッ!」
「くっ!?」
細剣の突きよりもなお速い、爪の一撃。それを、顔を歪ませながらも必死に避ける鳥翼族の女性。
「……強い」
横に居た立花さんのつぶやきが耳に届く。たしかに、あのリーダー格のヤツは強い。今の
「なんで、鳥翼族が……?」
「彼女を知っているのか?」
二人の戦いを呆然と見ながら、傍らに立つゼンデが呟いたので聞いてみる。すると首を横に振りながら、
「いや、知れねぇよ。そもそも獣人の知り合いなんて居ねぇ」
「じゃあ、なんでまた?」
「知らん! こっちが聞きてぇよ!」
ゼンデが叫ぶ。その様子は嘘を吐いているようには思えない。
「シャアッ!」
リーダー格の襲撃者と鳥翼族の女性の戦いを遠巻きに見ていた俺たちに、残りの襲撃者が襲い掛かってきた。はぁ、休ませろっての!
「私が二人を受け持つから、残りをお願いっ!」
そう言って、立花さんが勇者の剣を横に薙ぎ、襲撃者を牽制したあと、奥のスペースへと走っていく。そのあとを、二人の襲撃者が追っていった。さっき、二人相手で苦戦してそうだったけど、大丈夫か?
「おい、こっちにも来てるぞ!」
シミターを正面に構えたゼンデが悲壮な声を出す。おい、俺だってやれるんだぞ?!
「ったく、こっちもやります、か!」
襲撃者が伸ばした爪をショートソードで受けながら、急遽始まった二回戦に心を引き締めた。
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