第39話  暗闇の襲撃者



 地面に血を流し、ビクビクと小刻みに震える男を見て、ゼンデが気色ばむ。



「お前ら、やりやがったなっ!」

「違う!」



 ゼンデの叱責を否定しつつ、急いで辺りの気配を探る。すると、俺たちの周りを囲むように、気持ちの悪い気配を複数見付けた。ち、囲まれてるな。



「逆に、アンタたちのお仲間なんじゃないのかよ?」

「俺らの仲間なら、なんでその仲間に殺されるんだよ!?」



 襲ってきた奴らの気配を探りつつゼンデに尋ねると、怒鳴る声で否定してきた。まぁ、そうだよな。



「ぐひぃっ!?」



 また一人、切り伏せられる。良く見えなかったが、襲ってきた奴はどうやら黒くて小さい奴だ。



「どうなってんのよ!?」

「分かりません。立花さんも気を付けて」

「分かっているわよ!」



 勇者の剣を手に取り、キョロキョロと辺りを探る立花さんに注意するように促しつつ、肩越しにゼンデを見る。



「相手が見えたか?」

「いや、見えん。恐ろしく速い──」

「ぎゃあ!?」



 また一つ悲鳴が上がる。だが、今度はハッキリと見えた! 


 そいつは、黒装束に身を包んだヤツだった。背丈は1メートルほどと、ちょうどゴブリンくらいの大きさだが、その速さは比べもんにならない。アレはなんだ?



 切られた男の血が、馬車を曳いていた馬まで流れると、恐怖のせいか、急にヒヒ~ン!と鳴き叫び暴れる。そして、繋いであった馬車ごと、ガラガラと斜面に落ちていった。

 だが、そっちに目を向けられなかった。注意を怠れば、次に斬られるのはこの俺かもしれないのだ。



「なにモンだ、オメェら!?」

「ひぃ!? 来るな! 来るなぁ!?」



 手足を縛られているのもお構いなく、他の男たちも恐慌を起こした様に手足をバタつかせる。俺らがした事とはいえ、これじゃあいい的でしかない。



「これを!」



 男たちに向けて、拾っておいたナイフを投げる。それを呑気に見ていた猫背の男。おい、何ぼさっと見てんだよ!



「早く縄を切れ! 自分のを切ったら、他の人のも切るんだ!」

「……──あぁ!」



 ワタワタと、ナイフを拾い上げる猫背の男。その後ろで、何かがキラリと光る。マズい!?



「ちっ!」



 猫背の男を守る様に割って入り、黒装束姿の襲撃者の振り下ろした拳をショートソードで受けると、金属同士が擦れる音がした。コイツ、手に何かはめてるのか!?



「なんだ、お前ら!? なんで、俺らを襲う!?」



 ギリギリと剣を合わせながら、フードで顔を隠した襲撃者に問う。

 だが襲撃者はそれに答える事なくあっさり引くと、違う護衛の男に狙いを変え、襲い掛かっていく。



「がぁ!?」

「助け──ぐあ!」



 他の黒装束姿の襲撃者も、次々と護衛を手に掛けていく。そのたびに、血の匂いがより一層濃くなっていった。マズい、守り切れん!



「縄と解いたら、なんでも良いから武器を拾って、抵抗してくれっ!」

「分かった!」



 自分の拘束を解いたあと、ゼンデの拘束を解いていた猫背の男が返事を返してくる。俺と立花さんがやった事だが、頼むから急いでくれ! これ以上蹂躙されるのを見たくねぇ!



「立花さん、フォローを!」

「やってるわよっ!」



 護衛たちを手助けするため、襲撃者へと向かっていく。見れば立花さんも同じことを考えていたようで、俺が言うより先に、近くに居た襲撃者へと戦っていた。



「こんにゃろ!」と、襲撃者へ斬りかかろうと踏み込むと、横から別の襲撃者の拳が伸びてくる。見れば、、手に爪甲を嵌めていた。これで斬りかかっていやがったのか!



「よいしょお!」

「──!?」



 横から伸びてきた爪を躱し、その腕を取って投げる。が、投げられた襲撃者は、空中でクルクルと態勢を整えるとキレイに着地し、すぐさま突っ込んできた。



「うおっ!?」



 そこに別の襲撃者も加わって、二人同時を相手取ることになったが、こいつ等、連携が取れていやがる!


 目の前を通り過ぎる蹴りを避けつつ、立花さんへと目を向けると、立花さんも二人同時に相手取っていた。そこまで危ない感じはしないが、その顔には余裕が無さそうだ。



 そんな俺たちのフォローが奏功したのか、猫背の男がゼンデに続き、次々と拘束を解いていき、落ちている武器を拾って、一人残った、少し雰囲気の違う襲撃者へと切り掛かる護衛たち。これで一方的な殺戮劇も終わると思いきや──



「ぎゃふっ!」

「ぐぎゃぁ!」

「おい、嘘だろ!?」



 スッと襲撃者の腕が動かうたびに、武器を合わせる事すら出来ずに殺されていく護衛の男たち。自分の得物じゃないにしろ、力の差が有り過ぎる!



「戦うな! 逃げろ!」



 装束から伸びる鋭い爪をショートソードで受けながら、護衛たちに指示を飛ばす。しかし、逃げる傍から背中を、頭を、首を切られ、絶命していく護衛の男たち。



「クソォ!」



 みるみると数を減らし、最後の一人となったゼンデに、その襲撃者が襲い掛かる。

 ゼンデがシミターを捻り上げ襲ってきた爪を防ぐも、もう片方の爪が伸びていく。死角なのか、彼はそれに気付いていない! マズい!



「止めろ──」



 俺の静止の声が、キィインと、やけに甲高い音に搔き消されたかと思うと、ゼンデを貫こうとしていた爪の数本が落ち、驚き尻もちをついたゼンデの目の前に、新たな人影が現れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る