第34話 大事なモンは、ちゃんと隠してあるらしい(意味深)



 シン、と静まり返った山道。



 その急斜面に縋り付くように生え伸びる、杉に似た大木の影からコッソリ顔を出すと、視線の先に、まるでヒトダマの様なおぼろ気な灯りが、木々の間を縫う様にさ迷っているのが見えた。



 止まる事無くどこかへと進んで行く灯りの様子に、俺の存在はバレていないようだと安堵し、木や岩の陰に身を隠しながら、その灯りを見失わない距離を保ちつつ付いていく。万が一見失おうものなら、あとで立花さんに何を言われるか分かったもんじゃない。──なにせ、あの灯りの下には、その立花さんが居るのだ。



「……今回だけって約束だしな。失敗出来ん」




 嫌々ながらも囮を引き受けてくれた立花さんを、本人の気が変わる前に”キャッチ・ミー”とは別の奴隷商館に売り飛ばした俺は、そのまま奴隷商館の隣建物の屋上へと登って、裏口を見張る事、二時間。


 すっかり夜の時間となった中、獲得した【暗視:弱】スキルを使って見張る先で、奴隷商館の裏口がギイッと開き、燭台しょくだいを持った猫背の酷い男が、コソコソと辺りを窺いながら出て来た。



 猫背の男は、グルグルキョロキョロと執拗に辺りを窺った後、何も無い事を確認すると、一度裏口へと引っ込むと、



「おい、出てこい!」

「ちょっと! どこ触ってんのよっ!」



 思った以上に低い声が聞こえたあと、聞き馴染みのある声が聞こえた。



 猫背の男が、ロープみたいなのを引っ張りながら裏口から姿を現すと、その後を、手首を拘束された立花さんが、怒りながら出てくる。うんうん、元気そうで何よりだな。それにしても、猫背の男よ。あんま乱暴に扱わないでくれ。後で怖い目を見るのは、俺なんだぞ?



 猫背の男は、もう一度辺りを窺った後、「うるさい、黙れ!」と文句を言うと、立花さんを引っ張りながら、一目を避ける様に細路地へと移動していく。それを見ながら、屋上伝いに後を追うと、タキサスの街を囲う石壁に突き当たった。



 さて、どうするのかな?と様子を窺うと、石壁に僅かな隙間でもあるのか、体を滑り込ませ、なんとか壁を通り抜けた。その後を立花さんも通り抜けていく。うんうん、クレアさんサイズだったら無理でしたね、立花さん。




 こうして無事にタキサスの街を抜け出た二人は、真っ暗な中、ロウソクの灯りを頼りに夜の山道を移動していった。その後を、俺がこうして後ろから付いていっているのだ。これも、“キャッチ・ミー”の主が言っていた、“宝箱”の場所を見つける為に。




 どこかにマウンテンシープでも居るのか、時おり、「メェ~」と独特な鳴き声が聞こえてくる中、不意にロウソクの灯りが止まった。……あれ、見つかったか? 【隠密:弱】じゃあ、効果は低かったか?


 近くの岩に急いで隠れそっと顔を出し、ジィっと目を細める。すると、闇夜から浮かんできたのは、ログハウスと呼ぶには聞こえが良すぎる山小屋だった。お、もしかすると、あそこが“宝箱”の在り処、かな?




 二人が山小屋の壁の向こう側へ消えたのを確認したところで、音を立てない様気を付けながら山小屋へ近づいていくと、何やら会話が聞こえて来た。



「だから! この娘は、ディンキー男爵様への特別な商品なんだよ! だから大事にしなきゃいけねぇんだ!」

「だからって、人数オーバーなのは知ってんだろうが! この前、大量に仕入れてきたの、お前だって知っているだろ!」

「そりゃ知っているさ! でもな! だからって、男爵様への商品を、街の中に置いておけねぇだろ! それともなにか!? この山道にでも、放り出しておけとでもいうのかよ!?」



 何やら揉めているご様子が気になり、山小屋の壁角からヒョコっと顔を出すと男が二人、暗闇の中で言い争っていた。その傍らでは、不機嫌をまるで隠そうともしない立花さんが、足元に転がっている石ころを蹴飛ばしていた。あ~ぁ、あんなに荒んじまって。こりゃ、早めにお役御免にしてやらないと、確実に痛い目を見そうだ。





 さて、お姫様をどうやって助け出しましょうかね?

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