第31話 へい、ブラザー
クレアさんから教えてもらった場所は、メイン通りはおろか、その脇道から何本も裏へと入っていった所にあった、小さな店だった。
まるでわざと選んだとしか思えない、黒っぽい石だけで造られたその建物の角からヒョコっと顔を出して覗いてみると、まだ昼過ぎだというのにすっかり暗い建物の入口には、映画や海外ドラマで居そうな用心棒と思しき強面の男が立っており、辺りに圧を放っていた。
「……なんか、怖っぽい人が立っているけど?」
「任せてください。こういうシーンは慣れてますから」
「こういうシーン?」と首を捻る立花さんをその場に残し、スタスタと店に近付いていく。
そうして強面の用心棒の前に立つと、片手を上げてニカっと笑った。
「へい、ブラザー。今日の景気はどうだい?」
「……なんだ、キサマは?」
頭上から、ギラリという擬音が聞こえてきそうなほど睨まれた。あれ? こういう時は、映画や海外ドラマの真似をして、フランクに話し掛ければ大丈夫だと思ったんだが? やはり慣れない事はするもんじゃないな。
「あ~あ、やっぱり」という、残念そうな声と視線がどこかの角から痛いほど感じられるが、それらにシカトかまして、
「あ~、済みません。ちょっとお尋ねしますが、”キャッチ・ミー”というお店は、こちらで合ってますかね?」
やはりこういうのは低姿勢が大事だねって事で、ニコニコペコペコしながら、強面の用心棒に尋ねる。
すると強面の用心棒は、さらに威圧を増した目で、俺を睨みつける。
「……なんの事だ?」
「いえ、こちらの店が”キャッチ・ミー”だと、『ソードのヴァイオレット』さんから紹介されまして」
ニヤリと笑う。
『ソードのヴァイオレット』というのは他でもない。クレアさんの事だ。
奴隷商館であるこの店を紹介された際、店番が居たらこう伝えれば大丈夫ですよ!と言われたのだ。
なぜソードのヴァイオレットなのかは解らない。世の中、解らないままにしておいた方が良い事なんて、たくさんあるのだ。
と、強面の用心棒は、放っていた圧を一瞬だけ強くさせる。が、俺が動じないのを見て、
「……入んな」
と、古く頑丈な鉄の扉を開けてくれた。
スッと体をずらし、扉の奥を覗き込む。暗くてよく分からないが、そうやら階段になっており、下へと降りていくみたいだ。
「……どうも。行きますよ、立花さん」
ペコリと頭を下げた後、思いっきり姿を見せている立花さんに声を掛ける。
すると彼女は、「はぁ~」と思いっきり溜息を吐いた後、タタっと俺の所に走ってきた。そしてポスっと俺の胸を叩く。
「……心配させるんじゃないわよ」
「心配、してくれたんですね」
ニコッと笑い掛けると、ゲシっと足を蹴られた。ほんと、女子高生ってのは解らんな。
◇
後ろに立花さんを伴って、下へと伸びる階段を下りていく。結構深そうだ。
奴隷がどれほど居るのか判らないが、上の小さな建物だけじゃ扱えないだろうとは思っていたが、かなり広そうだ。って事は、上の建物はカモフラージュ用って事か。奴隷は不法って事では無いらしいが、後ろめたいのかもしれない。世間様に顔向け出来ない事は地下でやるってのは、どこの世界でも共通する相場なのかもな。
石壁の階段を下りていくと、突き当りにこれまた頑丈そうな扉が現れる。どうやらここがお目当ての場所らしいな。
「……閉まっているけど?」
「そうみたいですね。さて、どうすれば──」
ドアの前で立花さんとやり取りしていると、ギイッと扉が開き、中から四十路位の男が顔を出した。
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