第30話 タキサスでの捜索



 ヌワイの村を出て二日目の昼過ぎ。

 往く道の先に、タキサスの街並みが見えた。ヌワイ村への往路に比べると、一日近く短縮出来たな。

 あまり休憩も取らず、しかも来る途中で現れた魔物を、全てシカトして走ってきたからな。そりゃ早く着くか。



 それでも途中で、立花さんはこの世界には乗り物は無いの!?とキレていたっけ。乗り物はあまりないが、それ以上に便利なスキルを前に異世界を識るもので作ったっけ。


 またそのうち、オーガでも仮に行くか。





「それで、どうすんの?」



 門衛に、冒険者の証であるブレスレットを見せて街に入ると、立花さんが早速尋ねてくる。



 夜営以外、ほぼ休憩無しだったのに、文句一つ言わずに走ってくれた事に、心の中で感謝しながら、



「まずは情報を得ましょう」

「情報って、どこでよ?」



 周りをグルっと見渡す立花さん。「人探しだから交番、とかは無いから警察かな?」と、キョロキョロしている。そんな機関、この世界には無いと言ったんだけどな。



「コホン」と立花さんをこちらに向き直させる。異世界の知識をもう一度しっかりと教えたいところだが、今は時間が無い。

 俺たちがあの奴隷隊商とすれ違ったのは、ヌワイ村へと向かった二日目だ。となると、あれから四日以上経っていることになる。

 この世界の奴隷が、どういうシステムで売買されるのかは知らないが、これ以上グズグズしてたら、間に合わなくなる可能性が高い。



「異世界では、奴隷というのは大抵が、奴隷専用の市場や商館で売られます。なのでまずは、この街の奴隷市場や商館を調べましょう」

「調べましょうって、どこからよ?」



 確かにこのタキサスの街は広い。手当たり次第に探すのは、かなりの時間と労力が掛かってしまうだろう。



 だが、大丈夫。俺の持っている異世界の知識に、こういう時どうすれば良いのかはあるからな!





「こういうのは、酒場か冒険者ギルドって相場は決まってます」




   ◇




 酒場はまだ開いていない時間だったので、先に冒険者ギルドへと向かった俺たちは、相変わらず薄暗いギルド内を、カウンターに居るクレアさんの下へと向かう。



「あら、エイジさん。随分と早いご帰還ですね。それでどうでした? ヌワイ村は?」

「順調でした。これは、ヌワイ村の村長さんから渡された、証明書です」

「はい、確かに」



 証明書を受け取り、カウンターの奥へと引っ込んでいくクレアさん。

 帰るその手に、報酬が入っている袋を乗せたお盆を持ちながら、「ヌワイの村長さんは、お元気でしたか?」と、淑やかに笑った。



「お元気でしたよ。良くしてもらいました」

「あら、それは良かったですね」



 杓子定規なやりとりをして報酬を受け取ると、珍しく隣に来ていた立花さんに、袖をクイっと引っ張っられる。分かってるって。



「──それで、クレアさんにちょっとお聞きしたい事がありまして」

「はい、なんでしょう?」



 首をコテリと傾けるクレアさん。ほんと、可愛らしい。



「いえ、そろそろ二人ってのも厳しくなってきたので、新しい仲間を増やそうかと思いまして」

「え? ちょっと!?」

「まぁ、そうなんですか」



 俺の言葉に動揺する立花さんと、手をポンと叩いてなぜか嬉しそうなクレアさん。



「はい、さすがに二人はバランスが悪い感じがするもので」

「お二人はお強いので、そんなに困ってなさそうですが……」

「いえ、そんな事はありません──痛っ!?」

「どうかしましたか?」

「いえ、なんでもありませんよ」



 足に走る痛み。見なくても解る。立花さんだ。


 そっと隣を見ると、「ちょっと!? どういう事よっ!?」とかなりオカンムリなご様子。こ、怖い。



 さすがにこのままでは話が進まないので、内緒話する様に立花さんの耳元に口を寄せ、



「……落ち着いてください。仲間が欲しいってのは、この街の奴隷に関しての情報を得る為の建て前ですから」

「だったら、最初に言ってくれればいいじゃん! なんで今言うかな!」



 静かに怒るという器用な事をする立花さん。


 いきなり奴隷の事を訊いても良いのだろうが、こういう時は、いきなり聞かずに話の切り出し方が重要なんだよ。……営業の先輩からの受け売りだけどさ。




 すると、部屋奥のテーブルから、



「素人の兄ちゃんたちが、もうお仲間かよっ!」



 とか、



「そんなら、そこのお嬢ちゃんだけ、俺らの仲間にしてやるよっ!」



 なんて煩いヤジが飛んできた。なんでこの時間から飲んでんだよ、なんとかの狼さんたちよぉ。働けっての。


 それに今は立花さんの機嫌が悪いんだから、止めとけって。立花さんも睨まないで。ほんと、最近の女子高生ってのは、肝が据わってんなぁ。



「ちょっと、止めてくださいね」と、なんとかの狼をやんわりと怒りつつ、クレアさんは困った様に頬に手を当てると、



「そうなんですね。ただ、前にもご説明しましたが、最近は冒険者になりたい方があまり居らっしゃらないので、エイジさんたちのご希望に沿えるかどうか……」

「……そうですか」



 前にそれは聞いていたので知っていたのだが、あえてガッカリした様子を演じる。そうしないと、自然に次の段階に進めないしな。



 すると、クレアさんが気を遣う様な、心配する様な声で、



「ちなみに、どういった方をお探しなのですか?」



 よし、繋がった!



「それが、回復役を探してまして。自分も立花さんも前衛なので、ケガが絶えないんです」

「そうですか……。それは大変ですね」



 そう言って、なぜか立花さんへと視線を向けるクレアさん。いやいや、キズが残るのは、男も女も関係無く嫌ですよ?




「ちょっと待ってください」と、カウンターの下から、何やら紙の束を出してペラペラめくるクレアさん。しかしすぐに、「……やはり、厳しいですねぇ」と首を振る。



「そうですか……。どうしようかな」

「……でしたら、どうでしょう。奴隷を買う、というのは……?」



 ビンゴっ!



「……奴隷、ですか?」

「はい。多少資金は必要となりますが、ご希望に沿える人材が居るかもしれませんよ」



 紹介出来なかった事に責任でも感じたのか、おずおずといった感じで勧めてくるクレアさん。大丈夫です! その言葉を待っていたので!



「……なるほど、良いですね。資金なら、多少ありますし」



 と、奥のテーブルから、「チッ! 金なら有るって何様だよ!」なんて文句が聞こえてきたが、当然無視だ。



 顎に手を当てて考える──素振りをする。すぐに食いついては……以下略。




 そして十二分に間を置いた所で、「……分かりました。では、奴隷を扱っている所を紹介してくれませんか?」と、頭を下げた。

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