第26話 魔獣の習性



 夜の帳に、ひっそりと包まれたヌワイの村。



 その外れにある、白菜みたいな野菜が育つ畑の端で、俺と立花さんは身を隠す様に、うつ伏せで寝転んでいた。



「さすがに、夜は冷えますね」



 地面から伝わる冷気に、ブルっと体を震わす。ネバダに比べ、山が近いせいか夜は少し冷えるなぁ。



「え、そう?」



 あっけらかんと返す立花さん。

 さすがは各種耐性が盛り盛りのチート勇者。ミニスカートのくせに全く寒そうには見えない。いい加減、ズボンを穿いたらどうよ? まぁ、目の保養になるけどよ。



「冷えは女の子の大敵ですわ♪」と、頭の中で女神様クマさんがウインクしている姿を想像していると、



「……魔物、出ないけど」



 立花さんが、こっちをジィっと睨んでいる。そんな睨まれるほど、君の太ももをジッと見た記憶は無いが?



「そうですね」



 睨まれる筋合いが無い以上、無難な返事を返しておく。


 すると、今度は足をゲシっと蹴られた。一体なんなんだ?



「別にさ、御供さんを疑う訳じゃないけど、まさか私を──」



 ブツブツと垂れる文句を聞き流していると、畑に影が現れた。



「──しっ! 黙って!」

「なによ!?」



 立花さんを黙らせ、畑の影を注視する。




 一つの大きな影の周りに、子供くらいの影が複数寄り添っている。村長さんの言う様に、どうやらブルファンゴとゴブリンの様だ。しかし、コイツらが一緒に行動するとは思わなんだ。



 すると、ゴブリンの影が畑に散らばり、なにやら地面を掘り始めた。

 その一方で、ブルファンゴの影はその場に座ったのか、影が低くなり動かなくなる。



「あれって、なにしてるの?」

「なんでしょうね?」



 俺も解らん。



 ヤツらの行動を不審に思いつつ様子を窺っていると、地面を掘っていたゴブリンの影が、その手に何かを持ってブルファンゴの影に近付いていく。持っているのは、掘り起こした野菜だな。


 他のゴブリンの影たちも、掘り起こした野菜を持ってブルファンゴの影へと近付いていく。なんだ? 掘り起こした野菜を、ブルファンゴに乗せて運ぼうって魂胆か?


 だが──



 ブギイイィイ!



 突如、ブルファンゴが怒った様に泣き喚いたかと思うと、近くに居たゴブリンの影を弾き飛ばす。


 弾き飛ばされたゴブリンはそのままゴロゴロと畑を転がると、動かなくなった。



「な、何が起きたの?」

「分かりません」



 混乱する俺ら。が、当のブルファンゴとゴブリンたちは、何事も無かったかのように、また畑の野菜を集め出す。ブルファンゴが怒った理由はなんだ? そして、ゴブリン達が野菜をブルファンゴの下に持っていく理由は?



「……もしかすると、ゴブリンがブルファンゴに畑の野菜を献上している、とか?」

「え、そんな事ってあるの?」

「解りませんが、おそらく」



 魔物の習性は分からないが、自然と同じ様に共生する魔物も居れば、自分よりも弱い魔物を使役するヤツも居るだろう。まさか、こんな田舎の畑で、魔物の生活の一旦を見れるとはな。



「そうなんだ。けどま、どっちみち全部倒せばいいのよね?」

「そうですね」



 そうだ、立花さんの言う通り、やる事は変わらない。ただ野菜泥棒を倒すだけだ。


 起き上がり、腰のショートソードを抜く。横を見れば、インベントリから出した勇者の剣を握る立花さんが、すでに立ち上がっていた。



 ブギイィ!?



 ブルファンゴが警戒する様に鳴き、大きな鼻を上下左右に動かす。周囲に居たゴブリン達も、持っていた野菜を置いて辺りを窺っている様子が、夜の空気に伝わってきた。



「じゃあ、行きましょうか」

「そうね、パパっとね!」




 暗闇の中、顔を合わせた俺たちは、畑荒らし目掛けて、一気に駆け出していった。

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