第25話 ヌワイ村



 奴隷隊商と別れた次の日、山道も終わりに差し掛かったところで、行く先に村が見えた。しっかりと三日掛かったな。



「……御供さん、ちょっと訊いても良い?」

「なんです?」



 村が見えたというのに、少し機嫌が悪い立花さん。恐らく昨日の奴隷商人との一件が原因だろうが。



「この世界にさ、車とか電車みたいな交通手段ってないの?」

「有る様に見えます?」

「……だよね」



「はぁ」と肩を落とす立花さん。ナバダからの移動もそうだったけど、移動に何日も、しかも歩きなんて、ほんと嫌だよね。


 まぁ、移動ってだけなら、それらの交通機関を遥かに超える魔法もあるんだけどな



「まぁまぁ。ほら、着きましたよ」



 山のふもとにあるヌワイ村は、ナバダの様な柵や門が無く、林の間を切り拓いて作られた村だった。



「お前さんがたは、誰かね?」



 門衛も居ない村の入口から中に入った俺たちに、第一村人であるお爺ちゃんが声を掛けてきた。



「あ、自分たちは冒険者ギルドからの依頼で来まして──」



 少し警戒しているのか、どこか探る様な視線を受けながら、お爺ちゃんに俺たちがこの村に来た経緯を説明していく。



「おぉ、そうかい。よう来なすった。わしはこの村で村長をしておる」



 俺の説明を聞いたお爺ちゃんが顔をパッと明るくさせると、手を伸ばしてくる。このお爺ちゃんが村長さんか。


 その手を握って、営業スマイルを返す。ナバダとの待遇の差に涙が出てくるわ。そういや、あの村にも村長さんは居たのかな? もしかすると、どこかに居たのかもしれない。



「宜しくお願いしますね。それで、この村の畑を荒らす魔物ってなんですか?」



 クレアさんに見せてもらった依頼書には、魔物ってだけしか書かれていなかったが。


 と、村長さんは顎を撫でながら、



「……それがな、猪の魔物とゴブリンなのじゃが……」



 何故か恐る恐るといった感じで、魔物の名前を口に出す村長さん。あれ? たしか魔物の正体は不明だったはずでは?



「魔物の正体を知っていたのですか?」

「あぁ、知っておったとも」



 悪びれる村長さん。知っていたのなら、なぜ魔物の名前を書かなかったんだ?



「なぜ知っていたのに、依頼書に書かなかったんです?」



 俺の質問に、俯く村長さん。どうやら訳がありそうだが?



「……猪の魔物とゴブリンじゃあ、こんな田舎まで冒険者の方は来てくれないと思ったのじゃ」

「え、そうなんですか?」

「あぁ。隣村の村長が、そう言っておった」



 世知辛いな、ほんと。異世界のそういうのは、あまり見たくない面だ。



 しかしまぁ、畑を荒らすって聞いた時に、猪かなとは思ったが、まさかまたゴブリンが絡んでくるとは。どんだけヤツらと縁があるのやら。



「そうなんですね。でも自分たちはそういう風には考えないので、問題無いですよ」



 パタパタとお爺ちゃんに手を振る。


 俺たちにそういう基準は無い。どの依頼も、異世界を楽しむ要素でしかない。俺だけでなく、立花さんも楽しんでくれないと困るのだが。



「分かりました。では自分たちにお任せください。人の役に立つのが仕事ですから。ね、立花さん?」

「え? えぇ、そうね」



 ドンと胸を叩くと、隣に立つ立花さんも頷いてくれた。



 ナバダでの一件で判ったが、立花さんは正義感が強い。

 その正義感の強さは、勇者になったからの後発的なものなのか、はたまた立花さん自身の性格なのかは分からないが、勇者にとって大事な要素だ。これからも大事にしてもらいたい。



「おぉ、頼もしい! どうか一つ、お願いしますじゃ!」




 村長さんが嬉しそうにペコリと頭を下げた。さぁ、いっちょやったるか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る