第27話 ヌワイ村での歓待



 その夜、無事に討伐を終えた俺たちは、村の歓待を受けることになった。

 そんなの結構ですよと断ろうとしたが、ちょうど村の収穫祭もまだだったとの事で、それと併せて行う事になった。


 立花さんは早く帰りたがっていたが、こういう歓待は異世界ならではだ。それに徹夜明けで帰るわけにもいかなかったので、なし崩し的に参加することになった。



 村の中心にある広場に設置された会場。

 各家から持ち出したテーブルの上に、村の人が、ワインみたいな紫色の酒の入った木杯と、色々な種類の料理が盛られた皿を置いていく。どれも上手そうだ。



「みな、準備は済んだな。では、乾杯じゃ!」



 村長さんの挨拶が終わると、そこかしこで杯を交わす音が弾け、楽しげな話し声が映える。


 そんな姿を、用意された高砂たかさごみたいな席で眺める俺と立花さん。良かれと思って用意してくれたんだろうけど、とても居心地が悪い。



「お疲れさまでした、立花さん」

「御供さんも、お疲れ~」



 ワインとジュースの入った杯を交わす。と、立花さんは立ち上がって、テーブルへと料理を取りに行ってしまった。



 やる事無しに、会場をぼんやりと眺める。

 ここに居るのは人間だけで、獣人はおろか、あの二つの羽を生やす種族も居ない。あれ、あの奴隷商人は、連れていた奴隷をこの村で買ったって言ってなかったっけ?



 と、挨拶を終えた村長さんが、俺の下へとやってきた。ちょうど良い、聞いてみるか



「そういえば村長さん。この村に来る前に奴隷隊商とすれ違ったのですが、やはり口減らしか何かですか?」

「そうですか、そんな事が。ですが、今年はヌワイでは口減らしはありませんでしたよ」



「いや、良かった」と、顎を撫でる村長さん。そこに長いひげでもあれば、様になるんだろうが。



「そうですか。それは何よりですね。それで、その奴隷隊商の中に鳥とコウモリ、二つの羽を生やす獣人の少女が居たのですが、ここら辺の集落にそんな種族が居るんですか?」



 異世界に詳しい俺でさえ、あまり見たことの無い種族だ。近くに集落があるのなら、是非行ってみたい。


 だが村長は「はて?」と首を捻る。



「その特徴からして、恐らくは両翼族だと思いますが、ここら辺はおろか、この小大陸にも居ないと思います」

「え? それは本当ですか」

「えぇ。わしが小さい頃にはよく見ましたが、最近はとんとさっぱり」



 村長さんの言う通りなら、アイツら嘘を吐いていたって事か。しかし嘘を吐く理由が解らん。



「まぁ、そんな事よりも取り合えず一杯」

「はぁ、どうも」



 釈然としないモノを、酌と一緒に流す。ワインの様な渋さがあまりない、甘酸っぱい口当たりが心地よかった。あまり酒に強くないから、これ位がちょうどいい。



 すると、料理を皿一杯に乗せた立花さんが戻ってきた。

 その立花さんに酒を勧め、「未成年ですから」と断られた村長さんは、「未成年?」と首を捻りつつ、村人が集まっている席へと移動していった。



「そういえば、立花さんは、魔法は使わないんですか?」



 セレスティア様クマさんから、新たなスキルを覚えられないというのは聞いている。

 まぁ、女神の加護のスキルが有れば大抵のスキルは要らないと思うが、魔法は違う。あればとても便利だ。立花さんが魔法を使いたいというのなら、今度クマさんに会った時にお願いしてみようと思うのだが。



 立花さんは、口に運ぼうとしていたフォークを止め、



「魔法? 確か遠距離攻撃方法だっけ? 私、そういうのパース。要らなーい」

「どうしてです? あれば便利ですよ」

「私には、これがあるから」



 そう言って、勇者の剣を取り出し、チャリっと鳴らす立花さん。まぁ、確かにその強さが有れば、多少の相手は何とかなるが、剣も魔法も強いってのが、勇者なんだよな。



「それでも、回復魔法とか覚えると便利ですよ」

「たしかにそうだけどさぁ……」



 そう言いながらも、あまり乗る気ではない立花さん。村の襲撃事件の際、俺の使った回復魔法の有用性については、立花さんも理解しているはずだが。



「解ったよ、覚えてみる。それで、どうすんの?」



 お、食いついたな。



「簡単ですよ。ちなみ魔力はどれくらいですか?」

「魔力?」



 いつもの様に、空間に指を走らせる立花さん。が、怪訝な顔をした。ん、どうした?



「0だね」

「……は?」



 魔力0って……。戦士や武道家じゃあるまいし。



「ほんとに、0なんですか?」

「うん」



 持ってきた肉を「あ~ん」と口に運ぶ立花さん。いやいや、飯食ってる場合じゃねぇよ?




 こりゃ、あとでクマさんに訊いてみるか……

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