第23話 奴隷キャラバン



 ナバダへと続く門とは別の門から、タキサスの街を出る。


 これから向かうのはヌワイという村で、道中の日程は片道三日ほどだという。ナバダに比べれば、近い位置にある村と言えた。



「あ~あ、暫くは美味しいご飯とも、柔らかいお布団ともお別れかぁ」



 タキサスの街を出る前は納得していたはずなのに、ブチブチと文句を言い始める立花さん。だから年下は嫌なんだよ。ほんとそういう所は、世羅に似ている。



 ナバダと同じく、タキサスの街もご飯が美味しかった。

 山の中腹にある街という事で、山菜やキノコを使った料理が特に旨かった。なので、立花さんのインベントリには、持ち帰りで作ってもらった料理が何点か収納してある。ほんと、インベントリ様々だ。



「また帰ってきたら食べられますから」

「そうなんだけどさー」



 まぁ、ロクな娯楽が無いと、食べるのが一番の娯楽になってしまうから仕方ないか。




   ◇




 ヌワイの村に向かう事、二日目。


 珍しく──というより、この世界に来て初めての雨だった。万屋で買った外套がいとうが、やっと役に立ったぜ。



「御供さんは、雨男?」

「いえ、そんな事は無いですよ。中学も高校も、修学旅行は晴れていましたから」

「それじゃあ、私が雨女みたいじゃん!」



 なんてやりとりをしながらぬかるんだ山道を歩いていると、先の道に人の姿が見えた。しかも中々の大所帯だ。



「誰かとすれ違うなんて、めずらし」



 白い外套のフードから顔を少し出し、立花さんが言う。


 たしかに、タキサスの街を出てから今まで、人の往来が全く無かった。ゴブリンや羊くらいだ。それも十回を超えている。



「取り合えず、端に寄って道を譲りましょうか」



 細過ぎて転落するほどでもないが、それほど余裕のない山道。相手の方が人数は多いのなら、こちらが避けた方が早いだろう。変な言い掛かりを付けられてもつまらんし。




 山肌にピタリと寄り添って、前から来る大所帯に道を譲る。


 ゆっくりと近付いてくる相手。その大所帯には、ほろが張られた馬車や荷馬車もあり、まるでサーカスの様だ。



「この世界にも、サーカスってあるんだね~」



 立花さんも同じ事を思った様だ。




 道を譲った俺たちの前を、先頭を歩く、手品師の様な恰好をした小太りの男が通り過ぎ、その後ろから馬車と荷車が付いていく。

 その周りを冒険者みたいな恰好をした男たちが守る様に歩いていた。あれは、護衛かな。



「なによ! こっちがせっかく譲ったのに、お礼の言葉も無いじゃない!」



 気持ちは解るが、勇者なんだから、返礼を期待しちゃいけません。それに、親切はお礼が欲しいからするんじゃないよ。



 立花さんが不満を漏らす中、目の前を通り過ぎた馬車の中をチラリと見る。



 その中に居たのはサーカス団員──ではなく、薄い布を一枚まとっただけの、幼い子供から老人。


 それら老若男女が、生気の無い顔を浮かべ、馬車の揺れに身を任せる様にフラフラと体を揺らしながら、どこを見るでもなくぼおっとしていた。



 そして、その人たちに共通していたのは、手にかせがはめられていること……。



「……奴隷、か」

「奴隷?」



 俺の呟きに、語尾に?を付けて訊いてくる立花さん。前の世界では、まず目にする事なんて無いし、普段使う言葉でも無いしな。



「そうです、奴隷というのは──」

「──あ~!?」



 説明しようと思った矢先、何かを思い出したかの様な様子の立花さん。あれ、知ってるの?



「ほら、あれでしょ! 昔アメリカで居た人! 有名な大統領がなんか演説したヤツだよね!?」



「この前、授業で習ったんだぁ」と、どこか嬉しそうに話し出すと、



「確か……、天は人民の上には人を創らないけど、政治は人民の為に、だっけ?」



 お~、色々と混ざってますなぁ。



「まぁ、アメリカだけではありませんが、その奴隷とは、少しニュアンスが違います。あの方たちは売られたり、犯罪を犯したりした人たちが大半だと思います」

「犯罪……」



 馬車に居る人と目でも合ったのか、立花さんの事が詰まる。



「あんな小さい子まで……。あの子たちは、これからどうなるの?」

「……奴隷ですから売られるのでしょう」



 立花さんの視線の先には、小学生くらいの女の子。あの子のこれからを思うと、不憫でいたたまれない気持ちになる。良い買い手がついてくれる事を祈る他無い。



「……その大統領がさ、戦争を起こしてまで止めたい気持ちが私には解るよ……」

「……たしかに」



 過ぎていく馬車。その後ろから、馬車よりも大きな荷車が目の前を通り過ぎていく。その荷台には、大きな鉄の檻が積まれていた。



 頑丈な檻だけど、なんかの動物でも居るのかな?と通り過ぎていく檻の中を見ると、誰かがペタリと座り込んでいるのが見える。





 それは、馬車の奴隷たちよりも悲壮な顔つきをしていた、片方ずつ違う装いの羽を生やす少女だった。

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