第22話 出張依頼



「……出張、ですか?」



 タキサスの街で冒険者となって五日目の朝。


 今日も元気に冒険者ギルドの建物に入ると、クレアさんが一枚の依頼書を持って、待っていた。



「そうなの。近くの村で、魔物の被害が出たみたいで」

「え? 大丈夫なんですか?」



 ナバダ村の惨状が脳裏をぎり、冷たい汗が背中を流れるのが分かった。



「えぇ、今のところ人的被害は無いみたいなの。でも畑が荒らされたみたいで、困っている様なのよ」

「畑、ですか」



 またマウンテンシープかな?



「魔物の正体って分かっているんですか?」

「それが分かってないみたいなの。どうやら人が居ない間を狙って畑を荒らすみたいで」

「頭良いですね」



 正体不明、か。

 そのずる賢さからすればゴブリンだろうか。なら簡単かな。




「分かりました。良いですよ」




  ◇




「嫌に決まってんじゃん!」

「あ、あれ?」



 出張依頼を受けた事を、宿の部屋に居た立花さんに伝えると、思いっきり断られてしまった。



「嫌と言われても。もう受けてしまいましたし」

「それは御供さんが勝手に受けたんでしょ!? とにかく私はこの街から離れたくないの!」



「フン!」とそっぽを向く立花さん。ついこの間まで、早くこの街を離れたいなんて言っていたのに、どういう風の吹き回しだ?



「この街を離れたくない理由を訊いても?」

「だって、この街ならなんでもあるじゃない」



 まぁ、確かに。



「それが?」

「私はね、買い物がしたいの! 美味しいものが食べたいの! 柔らかいお布団で寝たいの!」



「だから嫌!」と頑なに断ってくる。なに、その俗物的な断り方は?



 でもまぁ、その気持ちは分からないでもない。

 少なくとも、この異世界のどの街や都よりも、はるかに便利な場所に居た俺たちにとって、ナバダ村の様な場所よりも、この街の方が居心地は良い。



「離れたくないって。それじゃあ前の世界に帰れなくてもいいんですか?」

「それとこれとは別よ、別!」



 もう、聞き分けが無いんだから……。



「行くなら御供さん一人で行ってきてよ。そもそも冒険者だって、御供さんがなった方が良いって言うからなっただけで、私はなりたくなかったもん!」



 赤い化粧が施されたほっぺをプクッと膨らませて、拒否する立花さん。こりゃ、完全に動かないな。どうすっかな~?



「……分かりました。ではこうしましょう。今回の出張依頼を無事にこなせたら、次の街まで進みましょう」

「え、いいの!?」



 ガバッと顔を跳ね上げる立花さん。ほんと現金な子だ。



「えぇ。ギルドからはこの前売ったドロップアイテムのお金も貰えましたし、そろそろ出発しても良いかなと」



 昨日、ギルドの職員が俺の部屋までお金を持って来てくれたのだが、かなりの金額だった。ギルド職員が、銀行で大金を下ろした後の様に、ビクついていたのも納得だった。


 しかしこれで、しばらくは旅費に困る事は無いな。それどころか、この街で装備を一新しても余裕があるかも。



 そんな事を思い出していると、立花さんがうんうんと首を縦に振りながら、



「まったくしょうがないなぁ。御供さんがそこまで言うなら、一緒に行ってあげる!」



「感謝してよね」と、部屋に置いてあったボストンバックをインベントリにしまっていた。



「はいはい、そうですね」

「ハイは一回!」

「はい、そうですね」





 ……ほんと、ギャルの相手は疲れるなぁ。

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