第21話 期待の新人冒険者、その名はリト! ……ってあれ?



「──そういえば、この前冒険者ギルドに行ったとき、ギルドの職員の人が面白い事を言っていたわ」



 それは、夕ご飯をどこで食べようかと、街のメイン通りをブラり旅している時だった。


 隣を歩く立花さんが飲食店を物色しながら、ふと思い出した様に言った。



「へぇ、それはなんです?」

「なんでも、どこか遠いところで、かなり強い冒険者が現れたんだって」

「そうなんですか」



 人族が弱いこの世界で、噂になるほどに強い冒険者か。



 果たしてどれだけ強いのか興味が沸いた俺は、何食べようかと逡巡するのもほどほどに、興味津々と立花さんに質問する。



「強いって、どれだけ強いんですか?」

「ん? なんか聞いた話だと、コーガ……だったけな? なんかそういう名前の強い魔物を、その人が一人で倒したらしいの」

「コーガ、ですか……?」



 首を捻る。そんな忍者の里みたいな名前の魔物、居たっけか? 

 俺が知らないって事は、この異世界オリジナルってことかな? だとしたら、俺の知識が通じないなぁ。ま、それはそれで楽しみではあるけどね。



「ちなみに、そのコーガっていうのはどんな魔物なんです?」

「私が知るわけないじゃん。でも、なんか人型?だって言ってたかな」

「人型……? コーガ……?」



 捻っていた首の角度がさらに増す。



「人型のコーガ……、人型のコーガ……。……もしかして、オーガ……か?」

「あー、そうかもー」



 ニヘラと笑う立花さん。コーガってオーガの事かよ。まぁ、立花さんだしな。



「そのオーガって魔物、強いの?」

「そうですね。自分らが戦ってきた今までの魔物や魔獣に比べれば、かなり強い部類に入るかと」

「ふーん、そうなんだ」



 質問してきながらも、さして興味が無さそうに頷いた立花さんは、食べたい物でもあったのか、飲食店の一つを指さし、「ここ! 今日はここで食べよっ!」と、店の中に入っていく。

 その後を、「やれやれ」と首を振りながら、ついていった。




  ◇




「……それで、さっきの話の続きなんですが」

「ん―、なんだっけ?」



 ガヤガヤと賑やかな店内。

 丸い木製テーブルの上に並んだ料理を一通り堪能し、紅茶の様なお茶を飲んで一息入れている立花さんに、俺はさっきの話の続きを促した。



「ほらあれですよ、強い冒険者が現れたって話」

「あー、あれねー」



 温かいお茶を飲み干し、「ほふぅ」と可愛らしい息を吐いた立花さんが、珍しくトロンとした目を向けてくる。まさか、アルコールなんて入ってないよな、あのお茶。



「それで、なんだっけ?」

「その強い冒険者って、誰なんです?」



 そんなに強い冒険者なら、一度会ってみたいと思う。願わくば、その実力の一旦でも垣間見れれば、俺の異世界ライフの参考にもなろうというものだ。



「えっと、確か名前は──……」

「名前は?」

「確か、リトとかいうらしいよ」

「……リ、ト?」



 ラッキースケベの権化の様な名前を聞いて、俺の首に、ツゥと冷や汗が流れた。



「……リト、で合ってるんですか?」

「ん、合ってると思う」

「……そのリトって人、どこに居る人なんです?」

「えっと、確かメルカリ、だったかな……?」

「……メルカリ、じゃなくてもしかしてメルリオ、じゃないですか?」

「あ、そうそうそれそれ。なんだ、御供さんも知っているじゃん」



「もう、人が悪いなぁ」と、店員にお茶のお替りを頼む立花さん。

 流れる冷や汗の量が増えていくのを感じながら、確信に迫る質問をしてみた。



「……いや、まだ同じ人だとは。それで、そのリトって人、なんか特徴が有るって話をしていませんでしたか?」

「特徴?」

「えぇ。例えば、顔に傷があるとか」

「いや、そんな話は聞いてないよ」

「……──じゃあ、仮面を付けていたとか?」

「──あ、そういえばそんな事を言っていたかも!」



 ……同じ人だったよ、立花さん。それに、その人の名前はリトじゃなくてルトだ、ルト。そこは間違えて欲しくなかった。



「やっぱり同じ人だったじゃん、御供さん」

「はは、そうですね……」



 苦笑いをしながら、お茶の入ったカップを傾けた。



 そのリトなる冒険者をなぜ俺が知っていたのか。それはとても簡単、だ。


 俺がリト、じゃなくルトになった経緯。それは、自分のさらなるレベル上げの為だった。


 タキサスの街周辺で、一人でコソコソと魔物を倒してみたが、得られる経験値が少ないのかレベルがほとんど上がらなくなったのだ。


 そこで考え出した答えが、ここではない違う場所で、少しでも強い魔物と戦う事。そして、その為に俺が選んだ新たなスキル、それが転移魔法だ。

 転移魔法ならば簡単に、ここではない場所に行ける。そうすれば、もっと強い敵と戦える。レベルが上げられる。そう考えたのだ。



 そうと決まればさっそくと、なぜか一回分増えていた異世界を識る者ディープダイバーを使って獲たのは、転移魔法テレポーター


 覚えたての転移魔法は、意外に使い勝手が良く、じっくり時間と魔力を掛けて転移先をイメージすれば、俺の行きたい場所に行くことが出来た。


 色々と考えて決めた転移先の条件。魔力を込めながらそれらをイメージして転移した先が、メルリオの街。


 そこでレベル上げを行おうと思ったが、ならば冒険者として依頼を受けた方が金になるんじゃね?と思い、冒険者ギルドで冒険者登録をしたのだ。その時に使った名前がルトである。


 ……しかし、伝統ある勇者の名前をそのまま使うのはさすがに躊躇われたので一文字変えたんだが、その一文字が違うだけで、こうも印象が変わるとは。



「それにしてもさ、そんな強い人がこの世界にも居るんなら、他にも何人か居そうだよね。その人たちを集めてさ、その人たちだけで魔王を倒してくれないかなぁ。ほら、地産地消っていうじゃない?」



 店員さんの持ってきたお茶のお替りを受け取りながら、物知り顔でウンウン頷く立花さん。地産地消の意味を、間違った方向でご理解なさっているようだが、敢えて訂正しない方が、彼女の為にもなるだろう。



「そんな事言わないでくださいよ。勇者が魔王を倒すのがお決まりなんですから」

「ぶぅ~」



 頬を膨らませて、異議を唱える立花さん。彼女が、魔王を倒さないなんて考えになるのは避けなくては。




 それにしても、まさかそんなに早く噂になるとは……。立花さんの様子を見る限りリトの正体が俺だと気づいていないようだが、どこで正体がバレるか分からない。

 今後は少し控えよう、うん……。

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