第20話 幕間 ミースの新人凄腕冒険者、その名もルト



 あぁ、アンタか? 俺をこんな場末な酒場に呼びつけたのは? ったく、リブに話を付けたんなら、リブの奴も来させろってんだ。まぁ、良いけどよ。



 あ、俺か? 俺の名前はロウ。ミースの冒険者で猿人族のロウっていやぁ、そこそこ通じるんだぜ?



 そんで、今日は俺に何の用だ? あ、俺の話が聞きてぇ? ハァ、またその口かよ……。



 まぁ良いぜ。俺もヒトが良いからよ? んでもまぁ、やっぱり喋るならよ、口を湿らせなきゃいけないよなぁ?




 ──あぁ、悪いな、なんか催促しちまったみてぇでよ。んじゃ、さっそく──……



 ──ング、ングッ! ……ぷはぁ! 



 ──そうそう、コイツだよ、コイツ! やっぱ人の奢りで飲むエールは格別だよなぁ!

 お!? この肉も食っていいのか!? 悪いな! メルリオじゃなかなか肉は食えねぇからよ。



 よし! アンタはちゃんと礼儀を示した! なら今度は俺の番だ。んで、何を聞きてぇんだ?

 ──って、アンタもあれだろ? 例の話だろ? まぁ、解ってるって。俺の身に遭ったこと、全部話してやるよ!



 ゴキュ! ぷふぅ!



 それじゃあ、どっから話すかな……。




 そう、俺がソイツと出会ったのは、バローニュの森の中だ。俺はあの日、依頼を受けててな。

 あ? なんの依頼かって? そんなの今は良いだろ。



 それでよ、依頼の薬草も摘み終わって、さぁ帰ろうかってなった時、……出たんだよ、ヤツがよ。

 ──そう、オーガだ。



 だだっ広いバローニュの森にオーガが居るって話は聞いてはいたがよ、だからってコモンの草が採れる場所は森の入口に近い場所によ、オーガが出るなんて全く思ってなかったんだ。だから俺は油断しちまってたってわけだ。



 勘違いしちゃいけねぇ。本来の俺なら、オーガ位アッサリ倒せんだからよ?



 ングッ、ング、はぁ~! お、無くなっちまったけどもう一杯、いいか? ……お、そうか! 悪いな!  ねぇちゃん! もう一つくれや!




 んで、どこまで話ったっけか? あ~、オーガの話か。


 ろくな装備も無かったからよ、俺はもうダメかと諦めたんだよ。腰も抜けちまってな。



 そうしたらよ! 目の前のオーガがいきなり真っ二つになったんだぜ! 信じられるか!? あのオーガがだぞ?! ポカーンとしちまったよ。このロウ様ともあろうものが、よ。




 そしたら、真っ二つに分かれたオーガの間から、人族が出てきたんだ。俺はすぐに悟ったさ。あー、この人族がオーガをったんだなってよ。



 その人族、俺を見るなり「大丈夫か?」って手を差し出してきたからよ、「あぁ、大丈夫だ」って答えて立ち上がったんだ。そしたらよ?




 ──お、ねぇちゃんありがとな! 今夜、時間があったらどうだい? あん? あ、そうかよ。




 ……──そんで、なんだっけ? あぁ、その人族がよ、「ここはメルリオで合ってますか?」って聞いてきやがったんだぜ!? 



 俺は首を捻ったさ。だってよ、メルリオに居るのに、ここはメルリオですか?なんて聞いてくる輩が、マトモな訳ねぇからな。



 ゴキュ! っはぁ!



 だが、俺も人は良い方だから、ちゃんと答えたさ。 「あぁ、そうだが?」ってな。そしたらソイツ、「あぁ、良かった。上手くいった」って言いやがったんだ。


 何が上手くいったのか気にはなったが、変な事に首を突っ込んだら、それこそ首が吹っ飛んじまう事は良くある事だからよ。


 だから俺は好奇心ってヤツをグッと押さえて、ソイツに「そうかい、ソイツは良かったな。じゃあな」って挨拶したのさ。




 そしたらソイツ、帰ろうとする俺に向かって、「ここってよくオーガが出るんですか?」なんて聞いてくるからよ? だから俺は言ってやったのさ。「あぁ、たまにはな」ってよ。



 あぁ、分かってるって。アンタも知っての通り、バローニュの森にオーガなんて滅多に出ねぇ。というより、そんなのがザラに出るようなら、このミースの街はおしまいだ。何せオーガはとんでもなく強ぇからよ。だからミースに住む奴らは、オーガを恐れているのさ。ま、俺は違うがよ?


 まぁ、そんな事はどうでも良いんだ。そんでな、ソイツは何て言ったと思う? 




「──そうですか、良かった。オーガが相手なら、少しはレベルが上がるかな?」って、そうホザきやがったんだぜ!? 




 背筋が凍りついたさ。なにせソイツの口調はよ、オーガをただのエサにしか思っていねぇんだからよ。



 一体、どこのバカがそんな事を言いやがるのか気になったんだが、好奇心は人をも殺すって言うからよ、「そうかい、まぁせいぜい頑張んな」って言ってやろうとしたそん時、ちょうど陽の光が差して、ソイツの恰好が明らかになったんだが……。



 ──黒い髪のソイツはよ、仮面を被ってたぜ? 



 もう俺には無理だったさ。

 振り向いて「じゃ、じゃあな。仮面の兄ちゃん……」って言ったのさ。そしたらよ、ソイツは何て言ったと思う?



 ──俺は兄ちゃんじゃない。俺の名前はロト……じゃなかった、ルトだ。



 そんな名前のヤツ聞いた事も無ぇし、ルトなんて名前の奴が、このメルリオに居るなんて聞いた事も無ぇ。

 だからよ、またソイツの面を拝もうと振り返ったら──もう居なかったんだ。



 気付いたら、俺は逃げだしてたさ。



 まぁ、ここまでが俺の遭遇した事だ。アンタも周りの連中と同じ様に馬鹿にするのも良いさ。だがな、これは本当に遭った事だ。嘘の一つも言ってねぇ。





 だからな、アンタもその内に遭うだろうぜ? ルトって名乗る、仮面の男に、よ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る