第19話 そういえば



「──て言うかさ、魔王ってどこにいるの?」

「……はい?」



 マウンテンシープを狩った足で向かった冒険者ギルドで、カウンターに居たクレアさんに討伐袋を返しながら訪ねる。



 なぜ尋ねたのか。それは俺が魔王の場所を知らないからに他ならない。

 だって、あのクマさんもただ魔王を討伐しろ!っていうだけで、その場所を言わないんだもん。



 いずれは行く所だし、早めに知っておいても損は無いだろうって事で聞いたのだが、尋ねられたクレアさんは、受け取った討伐袋をポスっとカウンターに落とした。あの、それって推しの大切なモノなんじゃあ?



 なんて考えていると、クレアさんがまさにドン引きっていう顔をして、頬を掻く。



「えっと、その、確かにエイジさんとイオリちゃんは強いと思うんだけど、まだ、魔王は無理だと思うんだけどなぁ?」

「あ、いえ、そういうのではなくてですね」



 あ、そうか。そう受け取られるのか。



「魔王が居る場所って、その周辺の魔物も強いと思うので、まだ冒険者になりたての自分らは、そこに近付かない様にしなきゃなって話ですよ」

「あ~、そういう事ですか」



「早とちりしてしまって、ごめんさないね」と、頭を下げるクレアさん。


 そしてしゃがみ込み、カウンターの下をゴソゴソと何かを探す。手が空いた時に、整理でもした方が良いと思うのだが。



「ぎゃはは! おい、聞いたかよ! あのルーキー坊主、これから魔王を倒しに行くんだとよ!」



 すると、部屋の片隅から大きな声が聞こえてくる。そちらに顔を向ければ、ロックゴブリン討伐後のギルドで絡まれた、厳つい男三人組だった。たしか《荒野の狼》とか言ったか?



「「あぁ、聞いたぜドーン! あんなガキどもに魔王がやれんなら、誰も苦労しねぇぜ!」

「そう言ってやるなって、ブスー。ガキは周りが見えてねぇんだからよ!」

「全くだぜ! ぎゃはは!」

「……はぁ」



 こらこら、聞こえよがしに溜息吐かないの、立花さん。



「もう、そういうのは止めてくださいって注意したのに」



 そう言ってクレアさんがカウンターの下から取り出したのは、畳一畳たたみいちじょうはあろうかという一枚の地図。それをカウンターの上に広げると、「コホン」と喉を慣らし、



「いいですか、エイジさん。今私たちが居るのがここ、小大陸です」



 言ってポンと指差したのは、地図の一番下にある大陸だった。



「──そして、今現在、魔王が居るとされているのがここ、大大陸です」



 次に指差したのが、一番上にある大陸。



「……大大陸」



 そっか。魔王は大大陸に居るのか。なら、今はまだ近付かない方が良いな。



「はい。そして大大陸に行くとしたら、船に乗る必要が有ります。ですが、ローロック王国が滅んだ今、大大陸はおろか、中大陸に渡る定期船はありません」

「船、か」



 良くある設定とはいえ、ますますRPGだな。



「おいおい、今度は船だってよっ!」

「ほんと止めてください! ……定期船が無い以上、他の大陸に渡るとしたら個人で船を買うか、それとも他人の持つ船に乗せてもらうかですが、かなり高額な料金が発生します。ですので、かなり難しいかと」

「ふむ」



 船を買うなんて、前世界でもかなりのセレブしか許されていない特権だしな。あまり現実的じゃなさそうだ。まぁ取り合えず、魔王の場所が分かったのは良かったけどさ。



「まぁ、今の僕たちには全く関係の無い話ですけどね」

「そうね」



 ニコッと笑うクレアさん。いずれその笑顔を裏切る時が来ると思うと、少し心が痛い。



 その視線から逃れる様に、カウンター上の地図へと目線を落とす。思った以上にこの世界は広いな。

 大陸が三つに、島々まであるのか。大陸同士は陸地で繋がってないので海を渡らなくちゃいけないから、何か手段を考えておこう。



「……ちなみに、この街以外で冒険者ギルドってどこにあります?」

「ここ以外?」



「えーと」と少し考えたあと、クレアさんは地図上を次々と指差して、



「今、ギルド通信が通じているのは、大大陸ですとルカーリ帝国とアリエッタ聖教国、それとアンガー小国家群と、メルシナリオ傭兵国ですね。中大陸ですと獣人国家メルリオ。そして小大陸ですとここ、タキサスだけです。それ以外にも支部はあったのですが、今は連絡が取れず、どうなっているのか……」



 顔に陰が入る。連絡が取れないって事は、すでに魔王軍によって滅ぼされているって事か。……なら、取り合えず今はメルリオってとこでいいかな。


 それにしても、なんでこうも俺の心をくすぐる国家名なのだろうか! あぁ、今からワクワクが止まらん! 



「そうなんですね。それにしても、ギルド間で通信なんて出来るんですね」



 なんて聞いたあと、すぐさまやっちまった事に気付いた。が、時既遅し……。



「よくぞ聞いてくれました、エイジさん!」



 ガバッと顔を近付けたかと思うと、すぐさまカウンターの奥に引っ込んでは、すぐさま何かを持ってくるクレアさん。うん、目がギラついて怖いね。



「これも彼のエディソン博士が発明した物で、その名も通信玉と言いまして、これ同士で通信が可能でして──」




 その後、小一時間ほど、クレアさんの熱い説明を聞くはめになった事は言うまでもない。

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