第7話 開発博士エディソン



「それで、どうやって登録するんです?」



 立花さんの不承不承な了承を得た俺は、カウンターに近付き受付の女性に質問する。

 と、受付の女性は「ちょっと待ってくださいね」としゃがみ込む。どうやら何かを探している様だ。



 暫くガサゴソしていると、「あ、ありました」と立ち上がる。その手には、何やら丸い水晶玉の様な物を持っていた。おいおいそれはもしかして、お約束的な“アレ”か!?



「では、これに触れてもらって良いですかね?」

「こ、これは?」

「これは、かの『開発博士』の異名を持つエディソン博士が開発したと言われる、〈鑑定玉〉です。本物を見るのは初めてですか?」

「えぇ。まぁ」



 エディソン博士……。間違いなく、前の世界から来た人物だろうな。それにしても〈鑑定玉〉とは! エディソン博士とやらは解っていらっしゃる!



「そうなんですね。まぁ〈鑑定玉〉は数が少ないですから。では、この〈鑑定玉〉に手を触れて頂けますか?」

「触れる、んですか」



 マズいな。こういうのは決まってジョブやレベル、各ステータスまで表示されるもんだ。そうなったら、俺が勇者の従者ってことがバレちまう。勇者だったらこんな辱め受けずに済んだのに! 



「あの……」

「はい、なんでしょう?」



 コテリと首を傾げる受付の女性。失礼を承知で言うが、年齢の割に行動の一つ一つが可愛らしい。



「この鑑定玉っていうのは、どこまでわかってしまうのでしょうか?」



 頼む、顔も知らないエディソン博士! 頼むから〈鑑定玉〉の性能がボロクソであってくれ!



「そうですね、名前と性別だけですね」

「……え?」



 今、なんと?



「……名前と性別。それだけ、ですか?」

「はい、それだけです♪」



 聞き違いじゃないみたい。



「という事は、名前と性別さえハッキリすれば、誰でも冒険者になれるって事ですか?」

「はい、その通りですよ♪」

「……ジョブ、は?」

「なんでも♪」

「……スキルとか?」

「要りません♪」

「まさか犯罪歴、もなんて?」

「問いませんよ♪」



 いや、問えよ! ってかエディソン博士よ、願っておいてなんだが、ボロクソ過ぎやしねぇか!?



「なんでその二つだけなんですか?」

「このご時世ですからね。冒険者の成り手がほとんど居ないんです。ですから条件を軽くしていったのですが、それでも成り手が集まらなくて。それで現在では名前と性別だけになりました」



「昔はそれなりに厳しかったのですが」と、受付の女性は腕を組み、



「厳しくなると、その分冒険者の担い手が減ってしまいます。ただでさえこの街では冒険者は人手不足なのですから」

「それでも、冒険者ならある程度の強さは必要では無いですか? ステータス位判る様にしても良かったと思うんですけど」



 そうすりゃ、鑑定玉とやらがブッ壊れるほど魔力を注ぎ込んで、「あの新人は何者だ!?」とか、「ただ今ギルド長を呼んでくるので、お待ち頂いて宜しいですかっ!?」とかのお約束展開が広がったというのに! まぁ〈鑑定玉〉とやらの数が少ないから、そんな事はしないけど。



 すると、受付の女性は可愛らしく首を傾げ、



「すてー、たす?」



 その顔に思いっきり疑問符を張り付けた。あ、あれ?



「い、嫌だなぁ。ステータスですよ、ステータス」

「はて?」



「う~ん」と腕を組む受付の女性。



「すてーたす?というのがどういった物かは解りませんが、どちらにしてもこちらではそのような物は確認しませんよ」



「安心してください」と戸惑いながらも微笑んだ。まさか、冒険者ギルドの受付がステータスを知らないなんて……。しょうがない、ここはひとつステータス画面を見せてあげよう。



「いや、これがステータスですよ」



 神をも騙すペテン師トリックスターでしっかりと下げたスタータス画面が空間に浮き、それを指差す。──しかし



「……どれですか?」

「……え?」



 俺が指差している付近で、キョロキョロと視線を動かす受付の女性。とてもとぼけている様には見えない。



「いやいや、ちゃんと見てくださいよ。ここにありますから。ねぇ、立花さん?」



 このままでは俺のオツムが疑われかねないので、立花さんに助け舟を求める。だが立花さんの顔は、受付の女性以上に戸惑っていた。



「……ん? 私にも見えないけど?」

「……え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る