第6話 冒険者、ギルド?



「──ここだな?」



 街の人にあれこれ聞きながら、メイン通りから外れて歩き、さらに外れる事10分、屋台のおばちゃんが言っていた、盾の上に剣と杖が合わさっている看板のある建物を発見した。発見したのは良いのだが……、



「ほんとに、ここ?」



 立花さんが思いっきりの疑問形で尋ねてくる。その理由は、俺も見ているこの外観だろう。




 周りにある建物と大して変わらない、石造りの二階建て。その正面にはつたが生え絡み、こけが所々むしている。

 重く閉じられている大きな玄関扉。その上にある窓からは中が真っ暗である事が分かり、明かりが点いている感じがしない。


 これ、やってるの?って感じがバリバリと伝わる。通りで、道を尋ねた人全てが怪訝な顔をするはずだ。俺がこの街の住人だとして、この場所を訊かれたら、あんな所に何の用があるの?と思う。



「ねぇ、御供さんってば。ほんとにここなの?」

「と、取り合えず中に入ってみましょうか」

「わ、私は嫌だかんね? 入るなら先に入ってよ!」

「分かりましたから、押さないで」



 両開きの玄関扉に手を掛け、「ご免くださ~い……」と扉を開けると、ギイィと扉が開いていく。良かった、鍵は掛かっていない様だ。


 建付けの悪いのか、お化け屋敷の様な音を出しながら扉を開けていく。が、中はやはり真っ暗だった。



「……うん、休みだ。出直そう──」

「いらっしゃいませ」

「うお!」「きゃあっ!?」



 クルリと回れ右をした俺の後ろから、声が掛けられる。そのままさらに回れ右した俺の視界に、ぼんやりと照らし出された室内と、カウンターらしき所にヌッと立つ女性の姿。あぁ、この世界には居るんだな、お化け。



「何か、御用でしょうか?」

「あ、あれ? お化けじゃない?」

「お化け、ですか?」



「ゴーストの討伐とかですか?」と、カウンターに居る女性は首を捻る。うん、足は有りそうだ。という事は人間か?



「立花さん?」

「な、なによ!」



 俺の腕に抱き着きながら、しっかりと背中に隠れていた立花さんは、「コホン」と咳払いして離れる。うん、君はこういうのに弱いんだね。それにしても結構あるね、膨らみ。



「ゴーストの討伐で宜しいんですか?」

「いえあの、違います」



 カウンターに居る女性が、下から何やら取り出そうとするのを止めながら、カウンターへ近づく。



「あの、どうして真っ暗だったのですか?」

「省エネです。魔石が勿体無いですから」



「最近魔石も値上がりしてますからね」と、カウンターの女性は真顔で答えてくれた。嫌だなぁ、世知辛い理由とか異世界で聞きたくない。



「まだ暗いのですが」

「いつもこんなものです」

「……そうですか」



 いつも暗いのか。



「それで、今日はどういったご用件でしょう?」



 屋台のおばちゃんよりかは若い女性が、俺をまっすぐに見据える。



「あのー、冒険者登録したいのですが」

「え?」

「え?」



 いやいや、え?っておかしくないか? なんか間違った事、言ってるか俺?



「あの、登録出来ませんか?」

「い、いえ出来ますよ!」



 パタパタ手を振る受付の女性。なんだ、出来るんじゃない。無駄に焦っちゃったよ。



「出来るんですね、良かった」

「済みません、冒険者登録を希望する方が、ここ暫く居らっしゃらなかったもので」

「はぁ、そうなんですか」



 ペコリと頭を下げた受付の女性が顔を上げ、



「改めて、はい、こちらでお手続き出来ます」

「では登録をお願いしたいのですが」

「そちらの方もですか?」



 受付の女性が、俺の後ろに立っている立花さんに手を向ける。



「いえ、私は──」

「はい、彼女もお願いします」

「御供さん?」

「まぁまぁ、ここは立花さんも冒険者登録しましょう」

「でも──」

「郷に入っては郷に従えと言うじゃないですか。それに立花さんも登録しておけば、俺が居ない時でも、ドロップアイテムを売る事が出来ますよ」

「はぁ」



 溜息混じりの返事をする立花さん。こりゃ納得してないな。



「良いですか、立花さん。冒険者になれば、魔王を討伐するのに、色々と都合が良いんですよ」

「例えば?」

「例えばですね、冒険者になれば、一般の人が行けない様な場所も行ける様になりますし、何よりも冒険者になれば、魔物を倒すだけでお金が稼げます。異世界も世知辛い様ですからね。お金の切れ目が縁の切れ目と言うでしょう? お金に関して言えば、異世界の方がシビアなのです」

「そういうもの?」

「そういうものです」



「え~、う~ん」と顎に指を添えて考える立花さん。よし、もう一押しだ。



「ちなみに、冒険者になると、ドロップアイテムの買い取り額が上がったりするんです。──そうですよね?」

「え?」



 受付の女性に話を振ると、「私?」とキョトンとする。

 と、立花さんが受付の女性へと視線を向けたので、俺は必死に目をパチパチした。頼む、伝わってくれ!



「そうですよね?」

「……? ──! え、えぇ。勿論です」



 よっしゃー! 通じたー!



「なら仕方無いですよね、立花さん」

「……なんか嘘くさいんだよなぁ」



 不承不承ふしょうぶしょうと首を縦に振る立花さん。よし、なんとかなったぜ!

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