第4話 タキサスの内情



「最近、ちょっと物騒なんだよ」

「物騒、ですか?」



 そう言われ、辺りを見る。大通りの癖に少ない歩行者。入口のガラスが割れている店舗。それらが、おばちゃんの言葉を肯定してはいるが、どういうことだろうか?



「確かに物騒な雰囲気はありますけど」

「そうなんだよ。最近、魔物の被害が増えているし、それに行方が分からなくなった人も居るとか噂になっていてねぇ」

「行方不明、ですか? 人攫いとか?」



 こんな大きな街で、誘拐でも頻繁しているのか?



 すると、おばちゃんはブンブンと手を振って、



「そんな大ごとじゃないと思うんだけどね。きっと怖くなって、別の街に行ったんだと思うんだけど」



 そう言って、おばちゃんは頬に手を当て溜息を吐く。別の街か。こんなに大きな、しかも城壁みたいな壁に囲まれている街から離れるか? ここに居た方が安全な気がする。それに、魔物も居るこの世界じゃあ、下手に移動する方が危ないんじゃ……。



「それと、今の領主様がねぇ……」

「今のって事は、昔と今の領主様は違う方なのですか?」



 食い終わった串を、屋台の横にあったゴミ入れに入れ、残りの一本も口に運ぶ。立花さんには、後で焼き立ての物を持っていこう。



「そうだよ。王国だった時の領主様は侯爵様だったんだけど、今の領主様は王国では男爵様だったのさ」

「男爵……」



 男爵っていうと、公侯伯子男だから、一番下の位か……。



「この男爵様が結構酷くてね。税金が高くなって、みんな困っているのさ」

「税金が高い……」

「そうなんだよ。だから見てみな。商売していた連中も経営が苦しくなっちまって、おかげでこの様さ」



 おばちゃんが周囲に目を向ける。やっていないお店が目立つのはそういう事か。


「ここだけの話だよ」と、肉串を一本差し出してくるおばちゃん。口止めって事だな。



 そいつを有難く受け取ってモグモグ咀嚼そしゃくしていると、おばちゃんの目がキラリと光ったのが見えた。ん、なんだ?



「そんな事より、あっちのは彼女さんかい?」



 おばちゃんの視線を追えば、腕を組んでこっちを見ている立花さん。



「いえいえ、彼女なんてそんな」



 異世界の冒険に、さすがに恋愛イベント無しってのもどうなのよ?と思うが、JK相手にフラグもナニもおっ立てる気も無い。俺にだって節操位はある。



「またまたぁ。可愛い娘さんじゃないか」

「ほんと、そういうのじゃありませんから」



 おばちゃんってのは、どこの世界でもこういう話が好きなんだな。この世界にワイドショーなんてないのに、このおばちゃんが、煎餅かじりながら寝っ転がってテレビ見ている姿が容易に想像出来てしまう。


 だとしても、本当に止めて欲しい。付き合うのなら、年上に限るのだ。年下なんぞ面倒だし、ましてや女子高生なんて……。



 これ以上この話を続ける気も無いので、「……そういえば」と話を逸らし、この世界の情勢を聞く。

 大体はナバダ村の子供たちから聞いた話と同じだが、よりもっと詳しい話も聞けた。


このタキサスの街を含め、今俺たちが居るのが小大陸。他にも中大陸と大大陸があるらしい。

そして、この小大陸に有った、かつての王国──ローロック王国は、かなり昔に建国された由緒ある国だったが、魔王軍に滅ぼされ、今は近隣の街や村が集まって、エディーダという都市国家みたいな国を成しているらしい。その中心がこのタキサスで、それを治めているのが、前途した男爵だという。


 さらにおばちゃんが言うには、この世界の大半の国は、すでに魔王軍によって滅ぼされているらしい。まだ残っている国は必死に抵抗している様だが、かなりの劣勢との事だ。このまま人間が滅びるのも時間の問題だというのが、この街に住む人間の共通認識だという。


 そしてコイツが一番重要なのだが、なんとこのタキサスの街には、あの『冒険者ギルド』があるらしいのだ!



「それにしても、なんでそんな事を訊くんだい? あちこちに魔物が居るんだから、旅だの冒険だのなんて、止めときなよ」



「可愛い彼女も居るんだからさ」と、気に掛けてくれるおばちゃん。だからそんなのじゃないんだよなぁ。──よし、



「大丈夫ですよ、なんて言ったって、自分たちは勇者御一行なんですから」



 と、一瞬キョトンとした顔をした後、バシッと俺の肩を叩いて、



「あはは! 滅多なこというもんじゃないよ。この街でそんな事を言ってごらん! 冗談じゃ済まされないからねっ!」

「はは、済みません……」




 やっぱりこの街でも、勇者は嫌われ者か。前勇者のヤロウ、マジで許せん!

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