第3話 ようこそ、タキサス



「街に入るのにお金を取るなんて、信じらんない」




 独りごちる立花さん。意外と金銭感覚が厳しいのかもしれない。古武術の道場って儲からなそうだし。

 若いのに、苦労してきたのかな?



「通行税ってやつです。こういうファンタジーだとよくある税金なんですよ」



 前の世界にも出入国税とかあったから、異世界だけとは限らないんだけどね。



「通行税……。なんか盗賊みたいだね」

「盗賊、ですか?」

「だってさ、『ここを通りたければ身ぐるみ置いていけ!』というのと、変わらないじゃない」



 言い得て妙だと感心するやら、呆れるやら。




 さて、無事に通行税の鉄硬貨二枚を払って門を潜ると、タキサスの街並みが眼前に広がった。「はぇ~……」と思わず声を漏らす。



 潜った門からまっすぐ伸びる広いメイン通りには石が敷かれ、石積みの建物がメイン通りの両側に建っている。そのほとんどが二階建てだ。石造りなのは、山の上にあるからだろう。


 整備はされていないが、メイン通り以外にも道が左右に走っていて、そのどちらにも石造りの家が建っている。山の中腹だから狭いかなと思ったが、ナバダに比べれば、かなりの規模の街だ。大きさ的には、東京ドーム……何個分だ? ってか、東京ドームってどの位の大きさなのか知らないわ。


 この位が、この世界の平均的な街の大きさなのかもしれないが、さすがはここら辺で一番大きな街だという事はある。



「ちょっとマジ!? 色んなカラーの人が居るんだけど!?」



 立花さんが少し興奮しながら、街の人を指差す。こら、他人様に指差さないの!

 でもまぁたしかに、色んな人が居るな。金髪や茶髪はまだいいとして、中には緑や青の髪の色をした人まで居た。都内某所の若者の町でも、こんあにカラーリングが乱立してはいまい。さすが異世界だな。ナバダ村にも黒髪が居たから、俺らが悪目立つとかは無さそうだが。


 ナバダよりも明らかに多い人口。そして遥かに発展している街の規模。なのだが──



「──でもさ、なんかちょっと暗い感じがして、嫌だな~」



 立花さんが素直な感想を口にした。


 確かに、大きな街特有の、活気というのが無い。門のあるこの通りがメイン通りだと思うのだが、ポツリポツリと出店が並んでいるだけ。

 じゃあ店舗は?というと、こちらもやっているのかいないのか判らない店が並んでおり、中には確実にやっていなだろうなって店もあった。だって、入口のドアのガラスが割れてんだもん……。


 王国が滅んでからはこの街がナバダ村を含む近隣の村々を統治しているらしいが、そんな風には全く見えない。



「……ちょっと情報を集めてみましょうか」



 ちょっと異様な雰囲気過ぎて落ち着かない。

 俺たちが持っているこの世界の情報は多くないから、この状況がいつも通りなのかすら分からない。ここはちゃんと情報を集めるべきだ。本来なら、あの女神様クマが教えてくれれば早いんだけど、なんだかんだで話を逸らされるんだよな。自分が不甲斐ないせいで魔王に滅ぼされそうになっているから恥ずかしいのか?



 キョロキョロと辺りを窺うと、近くの屋台で、少々ふくよかなおばちゃんが、何やら肉串を焼いている。ちょっと声を掛けてみるか。



「済みません、二本もらえますか?」

「はいよ、二本ね!」



 網から垂れたタレが、ジュッと香ばしい匂いを周囲に発する。何の肉だか分からないが、とても旨そうだ。異世界といえば、やっぱ串焼きだよな!



「はいよ!」

「どうも」



 肉の刺さった竹串を二本受け取り、早速一本を口に運ぶ。ハフハフっ! うん、旨い! 礼儀悪いが、こういうのはその場で立ち食いするのが一番旨いな! 何の肉だろ? 触感的には、ナバダ村で食べた羊肉っぽいんだが。まぁ旨けりゃなんでも良いや。



「美味しそうに食べるねぇ、お兄さん。この街は初めてかい?」

「えぇ、まぁ。俺たち、田舎から出て来たばっかりで、右も左も解らないんですよ」

「なんだい、その面白い例えは。いいさね、買ってくれたお礼だ。なんだって教えてあげるさね」



 ちょうど食べ終わるころ、屋台のおばちゃんが話し掛けてきた。ちょうどいい、屋台のおばちゃんからこの街や世界情勢を聞いてみよう。さすがに村の子供達に聞いた情勢だけを頼りにするのもどうかと思うし。



「この街は大きいですね」

「大きいだけさ。昔はもっと栄えていたんだけどねぇ」

「やはり、魔王の影響ですか?」



 このタキサスを含む近隣の街や村を治めていた王国を滅ぼしたのは魔王だからな。魔物が蔓延はびこる道中なんて、旅行したいとも思わないだろうし。



「そうだねぇ。たしかに街の活気って言うんなら、王国の時の方が良かったねぇ」



 肉串をひっくり返しながら、ウンウンと頷く。



「ただねぇ……」

「ただ?」



 内緒話でもするかの様にすっと顔を近付けてきたおばちゃんは、息を潜めるかの様に小さく口を開けた。

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