第50話 ゴブリンライダー

 

 それは、動物の皮で出来た帽子を被り、その手に短い槍を握ったゴブリン。そして最大の特徴は、狼の背中に乗っているという事。



「ゴブリンライダー、かよ」



 無意識に唾を飲み込んでいた。もしかしてコイツ等がこの村を襲ったのは、昨夜、俺がゴブリン集落を落とした事に対する、復讐じゃねぇよな?

 もしそうなら、この村が襲われたのは、俺が原因って事になっちまうが……。

 ……いや、それは無いな。コイツらにそんな知能は無い、だろ。



 それにしても、あの夜二匹倒したんだが、まさかまだ居るとはな。しかも五騎も。さっきの大きな遠吠えは、コイツ等を呼び出す為の合図だったのか。



「グルル」と、ゴブリンをその背に乗せた狼が、生える大きな牙を剥き出しにしてうなる。

 その頭を優しくで付けながら、ゴブリンジェネラルが俺に意味ありげな視線を向け、「ギュフフ」と嗤う。



「……第二ラウンド、って事かよ」



 ブンっとショートソードを振り、付いたゴブリンの血を落とす。あの笑い方からして、ゴブリンライダーがゴブリンの親玉アイツの切り札だな。



「んじゃあ、コイツ等も倒して、今度こそお前の番だな?」

「ギュギュオォウ!」



 片手でショートソードを構え空いた手でゴブリンジェネラルを指差すと、機嫌を損ねたのか低く吠えた。



「ギュガァア!!」

「「ギャァ!」」

「「ガァ!」」



 ゴブリンの親玉が俺を指差し一つ吠えると、それに応えるかの様に、ゴブリンと狼が同時に吠える。



「さぁ、おっ始めようぜ!」



 スッと剣先をゴブリンライダーに向け、無詠唱でファイアボールをぶっ放す!


 開戦の合図で放ったファイアボールが上げた土埃で、ゴブリンの親玉達の姿が見えなくなった。当たれば良い的に放ったファイアボールだが、視界が無くなったのは失敗だったか?



「よっとっ!」



 バックステップでその場から離れる。

 すると、キラリと光る何かが、さっきまで俺の居た空間に噛み付いた。狼が俺を嚙み砕こうとしたんだろが、そんな甘くねぇよ!



「ほらよ!」

「ギャワッ!?」



 間髪入れずにファイアボールを叩き込む! すると狼の悲鳴が聞こえた。お、やったか!?



「おらぁ!」

「ギャアァ!?」



 上がる火に向かって突進し、ショートソードを振り下ろすと、ナニかを切り伏せた手応え。

 ファイアボールの火が消えると、そこには体が左右に分かれたゴブリンと、黒く焦げた狼が一匹。



「これであと四騎!」



 さて、残りは、──居た。


 振り返ると、正面に二騎のゴブリンライダー、そして残りの二騎が一騎ずつ左右に分かれ、俺と対峙していた。



「ちっ! 一発目の景気づけは当たってなかったか」



 まぁ期待していなかったけどな。



「さぁて、どいつからやるんだ?」



 ショートソードを軽く構えて、それらに視線を送る。



「ギッギャア!」

「ギャアァ!」



 狼の背に乗ったゴブリンが互いに鳴き合うと、四騎が同時に掛かってきた!



「おい、どいつからって言っただろうが!」



 愚痴を言いつつ、その場から走り出す。

 俺を追う、四騎のゴブリンライダー。ま、もともと一対一なんて期待しちゃいねぇよ。



「お前らの行動パターンなんて、読めてたけど、な!」



 正面に居た二騎のゴブリンライダーが、徐々に距離を詰め前後に並ぶ。俺の狙いは一直線上になっただ!


 魔力を手に込める。イメージは燃える玉ではなく、貫く槍──!



「──ファイアランス!」



 イメージに沿った火の槍が左手に生まれ、そいつを後方のゴブリンライダーへと放った。



「「ギギャッ!?」」



 驚きの声を上げる二騎のゴブリンライダー。

 前に居たゴブリンライダーは上に、そして後ろに居たゴブリンライダーは横へと急いで避けようとするが、それよりも早く火の槍が襲い掛かる!



「「ギャワンっ!?」」



 狼が二匹、火の槍に貫かれ、短い悲鳴を上げて絶命する。

 背に乗っていた二匹のゴブリンは、咄嗟に狼の背から飛び降りたのか地面に転がっていた。起き上がろうとする所を見るに、まだ死んじゃいないみたいだが。



「お~、初めてのファイアランスだったけど、上手くいったなぁ」



 ファイアボールが使えるんだから、ファイアランスも使えるかなって思ったんだが、上手くいった。これも火魔法フレイムマイスターのお陰かな?



 ヨロヨロと立ち上がった二匹の元ゴブリンライダー。二匹とも槍を離さなかったのはさすが切り札といった所か。



「だが、こうなっちゃただのゴブリンだよな?」



 近寄る俺にヨロヨロしながら槍の切っ先を向けるが、出来たのはそれだけ。それぞれをショートソードで切り捨てる。ゴブリン如きが以下略。



「さて、残りは二騎か。それでお次は?」



 こっちを見て「グルルッ」と唸る狼とは異なり、その背に乗っているゴブリンはたじろいでいた。味方があっさりヤラれて、心が折れちまったみたいだな。



「じゃあ、こっちから行くぜ!」

「「ギャアッ!?」」



 ショートソードを水平に構えて、二騎のゴブリンライダーへと駆ける!

 対し、狼が俺を迎え撃とうと前に、その背に乗るゴブリンは逃げようと後ろに体重をかけた為、バランスを崩すゴブリンライダー。その隙を見逃すほど俺は甘くない。



「おらぁ!」

「ギャンッ!?」

「グゥエっ!」



 ショートソードを四閃。ゴブリンと狼それぞれをあっさりと斬り伏せる。



「さて、次は何を見せてくれるんだ?」



 黒い霧となり消えていくゴブリンライダー。その奥へとショートソードを向けると、おぞましくも恐ろしい顔をしたゴブリンジェネラルが、こちらを睨んで唸っていた。



「無いなら、最終ラウンドと行こうぜ!」



 ショートソードを構え、ゆっくりとゴブリンジェネラルに近付く。

 すると、周りの茂みがガサゴソと揺れたかと思うと、新たに三騎のゴブリンライダーと十匹近いゴブリンが姿を現す。おいおい、まだ居んのかよ。一体どれだけのゴブリンを連れてきやがったんだ、コイツは!



 新たな援軍の登場に、さっきまでの恐ろしい顔を引っ込めて嗤うゴブリンジェネラル。ほんと、良い性格してやがるぜ。



「参ったな、お替わりをお願いしたつもりはねぇんだがよ」




「ふぅ」と溜息が漏れ出る。これだけ居るのなら、立花さんの良い経験値になったのによ。

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