第48話 村を救え!

 


 広場に到着すると、そこには凄惨な光景が広がっていた。



 人だったモノの破片が道や地面に散乱し、広場の前に建つ教会は、屋根と壁がほとんど無い。その教会の中を覗くと、村人の首が積まれていた。



「酷過ぎる……」



 堪らず込み上げてくる吐き気。だが何とか我慢する。少し前に獲得した【精神ダメージ耐性lv.1】スキルのお陰かもしれない。



「……クソッ! 最初からこれがミッションだって知ってれば、犠牲者なんか出さなかったのによ!」



 

 カッと頭に血が昇るのが分かる。

 ミッションが判っていれば、最初からこの村に張り付いていた。森の中にある忘れ物なんかシカトしてた。せめて、子供の誘拐はミッションじゃないと否定してくれてれば、こんな事には!


 フラっとよろめく。怒りと精神的な疲れで、血圧でも上がったか。



「……気分が悪過ぎるな」



 濃い血の匂い。辺りに転がる肉片を見るに、ここらに居た人たちは全員殺されてしまったのかもしれない。だから誰も逃げて来なかったんだろう。



「……許せねぇ」



 目の前の現実が酷過ぎて、目がチカチカする。ショートソードを支えにしなければ立っていられないほどだ。

 教会の中には見知った顔が居なかったが、ただそこに無かっただけだ。なんの気休めにもならない。すでに殺されている可能性の方が高い。


 だが、まだこの先には宿屋もある。それに北門もだ。南門から魔物が攻めて来たとしたら、生き残った人たちは、北門に逃げているだろう。ならそこに、望みを見出そう。




 ふぅと息を吐く。鉄濃い空気なんて吸いたくないがそれは出来ないので、なるべく口で吸った。それでもどこか粘着ねばつきを感じるのは、きっと気のせいじゃないだろう。



「こんな所、いつまでも居たくねぇな……」



 支えにしていたショートソードを持ち上げると、とても重く感じた。このままここに居たら、動けなくなってしまいそうだ。とっとと離れたい。




 すると、ズズっと何かを引きずる音が、広場の奥から聞こえた。もしかして、生き残りか!?



「誰か居るのか!?」



 ショートソードを構えながら、そちらに声を掛ける。すると、取り巻きらしきゴブリンを従えて、ヌッとデカイ影が現れた。


 くちゃくちゃと、ナニかの肉片を口に運ぶソイツは、ゴブリンを大きくした様な姿をしている。なんだ、あのデカイの!?



「なんだ、アイツは!?」



 俺の身長の倍くらいデカくガッシリとした体格に、革鎧を身に着けたソイツは、明らかに他のゴブリンとは違う。まさか、オーガ!?

 ……いや、違う。オーガにしては肌の色が緑だし、それに面構えが違う。

 するとゴブリンの最上位、ゴブリンロードやゴブリンキングか? でも頭に王冠が無いな? ゴブリンロードやゴブリンキングなら、頭の上に王冠を載せていてもおかしくは無いが? まぁ、アイツがゴブリンの親玉で間違いないだろう。



「おい、頭の上に王冠が無いがどっかに投げ忘れてきたか? それとも誰かに拾われて捨てられたか?」



 ショートソードを構えながら、ゴブリンの親玉を挑発し動きを注視する。

 しかしソイツは俺の挑発なぞどこ吹く風とばかりにシカトをかまし、近くにあった死体を掴み上げた。【言語理解】のスキルは魔物には役に立たないんか。



「おいおい、シカトしないで相手してくれよ。ん?」



 ソレは顔が潰されていたが、見た事のある革の鎧を身に着けていた。



「……門衛、か」



 門衛は二人居たのを覚えているが、顔が潰れていてどっちだか判らない。まぁどちらの門衛にも恩も義理もない。それどころか、最近の態度からすれば怒りよりも空しさすら感じる。



「それでも、あの時の笑顔は本物だったんだぜ」



 俺が初めてこの村に来た時のことは、今でも覚えている。

 その時、門衛は俺の事を本気で心配してくれたのだ。村まで来た俺の事を褒めてくれたのだ。



「……なのに、そんな風にしやがって」



 胸クソ悪いってのはこういう事か。今まで生きてきて初めてだぜ、こんな感情を抱くのはよ。



 俺が睨む先で、ゴブリンの親玉は掴み上げた門衛の首の辺りをゴキゴキと指で鳴らす。アイツ、何してやがんだ?


 すると、それに反応する様に、門衛の死体からゴボゴボと、空気が押し出される音がした。



「……オマえ、ナんだ?」



 思っても見ない形での、ゴブリンの親玉によるコンタクトに、体の沸点が上がった気がした。……下衆が。そいつは悪趣味すぎるぜ。



「……この外道が……」



 怒りが頭の中でパチパチと弾ける。

 いや、こういう時こそ逆に冷静にならないといけない。


 ふぅ~と長い息を吐く。しかし、まさか俺に質問してくるとはな。やはり普通のゴブリンとは違うって事か。だからといって、取った行動に反吐が出る。



「ギャフ!」とゴブリンジェネラルが一声鳴くと、べコベコに凹んだ鉄の兜を被った取り巻きのゴブリンが一匹、こっちへと向かってくる。



「ギュウア!」

「……聞くからには、俺の言葉が理解出来てんだよな?」



 向かってきたゴブリンが振り下ろしてきた、なたみたいな刃物を余裕で躱し、通り過ぎざまに、ジャンク品の兜ごと真っ二つにする。

 緑の血やら贓物やらが付いたショートソードの切っ先を、まっすぐにゴブリンの親玉へと向けた。


 コイツが親玉ってんなら、倒せばこの惨状は終わり、ミッションクリアなんだろ? 分かりやすくて良いじゃねぇか!!




「──良いだろう、教えてやるよ。俺はな、テメェ等を殺すもんだっ!!」

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