第47話 エグい報告
道中、数人の村人とすれ違い、南門に向かって逃げろと指示しながら、襲ってくるゴブリンやゴブリンロードを斬り倒していく。もうかれこれ二十匹くらい倒しているが、まだ居るのかよ!?
見かけたゴブリンどもを片っ端から倒しつつ、生き残りの村人を探しながら広場近くまで来ると、少し先にある家の前で、十匹程のゴブリンが何やら騒ぎ立てながら、それぞれ手に持った武器で玄関をガンガン叩いている。何してんだ、アイツら?
そっと近づくと状況が掴めた。バリケードだ。
家の玄関に、テーブルだのイスだの薪だのを積んで造られたバリケードを、必死に壊そうとしているゴブリンたち。という事は、この家の中はに、まだ人が居るって事だな。
「おらぁ!」
「ギャヒュゥ!?」
こん棒で壁を壊していたゴブリンを、ショートソードで切り伏せる。
その悲鳴を聞いた他のゴブリンが、俺の存在に気付きて一斉に掛かってくるが、一蹴した。
「だ、誰だ!? ゴッサか!?」
ゴブリンを片付け、剣に付いた緑の血を振って乱暴に落としていると、ガラッとバリケードの一部が崩れ、男の人の顔がポコッと生えた。ゴッサ? 誰だ?
「おーい、大丈夫ですかー?」
「あ、あぁ。お前さんは確か……」
「あー、別にお礼は要りませんから、早く逃げてください。ここらのゴブリンはある程度倒したので」
つまらない事を言われるより先に、逃げる様に伝える。
「あ、あぁ」と、気のない返事した男の人がヒョコっと消えると、それほど間を置かずに、バリケードの上にポコポコと人の顔が現れた。良かった。こんなに生き残っていてくれたのか。
「それじゃあ」
手を挙げ、その場を離れる。
たとえ勇者じゃなくとも、村人にどれだけ嫌われいたとしても、気にせず救うという勇者みたいな行動が、満足感が、達成感が心に沁みていく。うん、悪くないな。
キョロキョロと辺りを探りながら振り返ると、先ほどの家に居た村人が、南門へと走り逃げるのが見えた。来る途中に居たゴブリン達は倒しておいたが、無事に立花さんの所まで辿り着けるよう、祈っておこう。
「……居ないな」
逃げていく村人を見送った後、ブリンの姿が見えなくなったので、「ふぅ」と一息入れる。すると、草陰からピョンとゴブリンよりも小さな影が飛び出してきた。ゴブリンだけじゃなくて、他の魔物も居やがったかっ!?
「ちぃ!?」
「お待ちなさい」
咄嗟にショートソードを横に薙ぐ。しかし手応えは無く、代わりに聞き慣れた声。見れば、癒しの存在であるクマのぬいぐるみが一体。ったく、何してるんだ?
「こんな時になにしてんです!?」
場違いとも思える登場に、思わず怒鳴る。何の用だか知らないが、村が襲われているって時に、わざわざ出てくるんじゃねぇよ!
可愛らしい顔が今はイラつく対象でしかないので、引き離す様に広場へと向かう。すると女神は俺の横にスッと並走すると、淡々とした口調で、
「今回のミッションの全容が、判明しましたわ」
「──え?」
思わず立ち止まる。え、今なんて言った?
「す、済みませんが、もう一度言ってもらえますか?」
「ですから、ミッションの全容が判明したのですわ」
「何を言ってるんです!? ミッションならこの間クリアしたじゃないですか!」
このクマは何を言ってるんだ? ミッションなら、この前ゴブリンに攫われたジャンとミックを無事に助け出しただろ?
すると、ぬいぐるみは分相応な可愛さを持って首をコテリと傾け、
「其方こそ、何を言っているのです? アレがミッションだと、誰が言いました?」
「誰が言いましたって……」
確かにハッキリとは言っていない。だが、アンタが村に訪れる脅威の排除だって言ったんだろ?
村の子供が攫われて殺されるところだったんだ。どう見たって村の危機だろ!?
「其方がどう判断したのかは、この際どうでも良いですわ。タイムリミットを回避する為のミッション、それはこの村の民が全滅する前に、襲ってきた魔物の駆逐をする事です」
ボタンの様な目がキラリと光る。ぬいぐるみが言っているのは、現在進行形のこの状況。
「……なら、もっと早く教えてくれってんだっ!」
ギュッと拳を握り締める。
なぜもっと早く判らなかった!?
なぜもっと早く教えてくれなかった!?
もっと早く知っていれば、俺たちはこの村に留まっていた!
それが無理でも、近くには居た。そうなりゃ、救えた村人も多かった!
村の入口で、ここに来る途中で、物言わぬモノとなっているのを何人も見て来た! その人達を助けられたのかもしれないのに!
「前も説明したと思いますが、それは出来ません。其方たちをこの世界に召喚した際に消費した力が、まだ回復していませんので」
それを言われると何も言えなくなる。だけど、もっと上手くやれなかったのか?と問い詰めたくもなるのだ。
「……分かりました。ミッションクリアに全力を尽くします」
「お願いします」
そう言い残し、クマのぬいぐるみは何時ぞやと同じ様に、スッとその姿を消した。それを見届けると、冷たくなる心そのままに広場に向かった。
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