第46話 ゴブリンたちの襲来
ブスブスと煙を上げる家。
轟々と燃え盛る畑。
そして、血を流し倒れている人。
その中を緑の肌を去らした小さな輩が、転がっている家畜の肉片を嚙み千切ってはクチャクチャと
「……ゴブリン、か」
村を襲った魔物の正体はゴブリンだったのか。しかもソーサラーまで。その数は、ここから見える範囲でも三十匹は居るだろうか。
「……あ、……ぁあ……」
「立花さん?」
村の住民を救う為駈け出そうとしたその時、すぐ横で、構えた剣を下ろしてしまった立花さんが首をゆっくりと振りながら、ペタリと座り込んでしまう。なんだ、どうした?!
「うぁ……、あ……」
「立花さん! しっかりしてください!」
肩を掴み激しく揺するも、目を虚ろにし、まるで何かを拒否するかのように首を振り続ける立花さん。出していた勇者の剣も、光の粒になって消えてしまった。まさか、この光景にショックを受けちまったのか!?
「いや……、いやぁ……」
「しっかりしろっ! 立花さん!」
悪いと思いつつも、頬を叩く。
「ぅ……あ……? 御供、さん?」
「しっかりしろっ! 君は勇者なんだろ!」
「勇、者……?」
少しずつだが、目に光が戻っていく。おい、ほんとにしっかりしてくれよ!
「見ろっ! まだ奥から人が逃げて来ている! あの人たちは君が救うんだ!」
「私が、救う……」
光が戻りつつある瞳が逃げ惑う村人を捉えると、グググッと弱々しくだが立ち上がった。よし、もう大丈夫だろ。ほんと、マジで頼むぜ。
「……ごめん、御供さん。もう、大丈夫」
「それなら良かった。なら二手に別れましょう。俺は真正面を突っ切り奥まで行きます! ですので、立花さんは手前の魔物から倒して行ってください!」
「──え!? ……べ、別に良いけどさ、二人で一気に倒した方が早くない? 他にもどんな魔物が居るか判らないしさ……。それに御供さん一人で大丈夫なの?」
「ゴブリン程度なら大丈夫です。それより、この辺りに魔物が居るという事は、まだ奥まで行っていない可能性もあります。その証拠に、逃げて来ている人も居ます。ならそこに助けを求めている人が居るかも知れません。もしそうなら、今向かわないと手遅れになりかねない。それとは別に、ここにも村人が居ます。あの人たちを守らないといけません。ですので、手分けした方が良い。」
良く見れば、十人ほどの村人が、こちらへと逃げて来ているのが分かる。それらの人達を立花さんに任せて助ければ、彼女の風当たりも改善されるかもしれない。一石二鳥だ。
「でも──」
だが立花さんは執拗に食い下がってくる。その顔には不安の色がハッキリと浮かんでいた。おいおい、勇者がそれじゃ困るんだよ。
「──大丈夫、立花さんは十分強い。それに森の奥で特訓もしたでしょう? 今ならどれだけの数のゴブリンが襲ってきても、立花さんの敵ではありません。ですから、オーバーキルして村人に引かれないでくださいね」
「おーばーきる?」
きょとんとする立花さん。が、悪口を言われた事は何となく理解したのか、プクリと少しだけ頬を膨らませ、
「なんか良く解らないけど、悪気を感じる」
「ははっ、そうですね」
うん、もう大丈夫だな。
「では行きます! 何度も言いますが、ゴブリン如き立花さんの敵ではありません。それを忘れないで。だけど、決して無茶はしないでください。良いですね?」
「解った。御供さんも頑張って!」
インベントリから愛剣を取り出し、逃げてくる村人の裏にいたゴブリンに向かっていく立花さんの背中に見送る。よし、取り合えず俺は、教会前の広場まで行くか
俺に気付いた何匹かのゴブリンがそれぞれの武器で襲い掛かってきたが、それらを問答無用で切り伏せながら、広場を目指した。
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