第11話 異世界の黒髪ポニテJK
「んだら、ヤダ村に戻る前に、休んでいくといいべ」
「はい、有難うございます。お世話になりました」
無事に門を潜ったところで、「んじゃな~」と去っていく猟師のおっさんに礼を言った後、改めて村を見渡す。
そこには異世界ラノベやアニメでおなじみな、中世ヨーロッパの田舎の農村といった景観が広がっていた。うんうん、良いねぇ♪
この村の名前は、ナバダというらしい。
小麦畑や野菜畑の中にポツポツと小さな家があり、その先には石造りの小さな塔が見える。おそらく教会かなんかだろう。
さらに奥に目を向ければ、他の住居よりも高い二階建ての建物が一棟建っているが、全体としては長閑で牧歌的な村そのものだ。
「異世界の村ってのは、やっぱりこうじゃなきゃな!」
テンプレどおりな風景に、いやがうえにも気分が高揚してくる。外国に行った事が無いから解らんが、こういうのを異国情緒っていうのだろう。
「さて、まずは散策だな!」
踊る心に誘われるまま、薄く砂利の撒かれた道を歩み出す。
猟師のおっさんに聞いたところによると、この村には入り口が二つあり、俺の入って来た門は南門で、近隣の村や集落、森への往来に使う門らしく、メインの入り口は北側にある北門との事なので、とりあえずそっちに向かってみようか。
ポツポツと点在する住居は、壁は白い土壁、屋根は薄い石を重ねただけの質素な造りで、それらの家の庭には、家畜だろうかヤギみたいな動物が柵から頭を出して、俺をぼうっとした眼つきで見てきた。
ほんと、ゆっくりとした時間が流れている村だな。
見慣れぬ風景一つ一つに、「へぇ~」だの「はぇ~」だのとテンションを上げながら村をそぞろ歩いていると、村の中心なのか、白い教会のあるちょっとした広場に出た。
閉じられた入り口の上に星っぽいマークを付けた教会は、小さな塔を横に備えた立派なものなのだが、玄関周りの草がお情け程度に刈られているくらいで、それ以外は雑草が伸び放題。汚れた壁や小さな塔にも蔦だか草のつるが巻き付いていて、なんだか寂れている。あまり大事にはされていない様だ。
「は~、この世界の主神ってのは判らないが、こんなに寂れているなんて、あんまり信仰されていないのか? 異世界の田舎ってのは信仰深いイメージなんだが、現実は違うんだな」
俺をこの世界に連れてきてほったらかしにする、どこぞの誰かと同じですねぇと、心でしっかり毒吐く。
この教会の神様に少し興味が湧くが、今はもう夕方過ぎ。明日にでも改めて訪れてみよう。もしかすると、俺がこの世界に来た要因が見つかるかもしれない。
と、ぐぅ~と腹が鳴った。そういや、昼間に森の中でキノコを食ってから、何も食べていなかったっけ。
「腹減ったな。そろそろ日も暮れるだろうし、夕飯といくか?」
空を見上げる。
まだ明るいとはいえ、空は徐々に夕方の赤橙から夜の青黒が優勢になってきていた。じきに日没を迎えるだろう。ならば、夕飯よりも宿の手配が先か。
となると、飯も食える宿屋的な場所が良いか。そういや、さっき見えた二階建ての建物、あれはもしかすると宿屋かもしれない。なら、そこに向かってみるか。
「あ、そういや金が無いんだっけ」
ふと、この村に来た理由の一つを思い出す。
今の俺は無一文。このまま宿屋や飯屋に行ったら、無銭飲食になっちまう。勇者が無銭飲食は流石にマズい。
まずは金を作らないと話にならんな。ならとりあえず、
【些末な収納】を意識すると、ステータス画面を小さくした画面が浮かび上がる。
そこには些末な収納に突っ込んだアイテム名が、整然と記されていた。アイテムの価値が解らないが、これらの何点かを売り払えば、今夜の宿代や飯代くらいは賄えるだろう。
「えっと、冒険者ギルドはどこかな?」
異世界でアイテムを売るのなら、冒険者ギルドと相場は決まっている。
キョロキョロと辺りを探すが、それっぽい建物が見つからない。しょうがない。誰かに聞くか。判らない事は現地の人に聞くのが一番だ。
「誰か、居ない、かな?」
第一村人を探す。まぁ、すでに狩猟のおっさんと門衛に出会っているので第一村人じゃないけど、そこは気分だ。
すると、遠くで人の争う声が聞こえてきた。
なんだ、揉め事か? こんな
どれ、この勇者様が仲裁してやろうと、騒ぐ野次馬根性を抑えることもせずに声のする方へ向かう。
すると、質素な造りの他の家とは違う、レンガ造りの家屋の前で太ったおっさんが何やら騒いでいた。その視線の先に誰か居るようだが、あいにくと木が邪魔で見えない。
「困るんだよなぁ、いつまでもそんな所に居られたら、邪魔でしょうがない!」
「そんな事言われたって、しょうがないじゃん! ここで待てって言われたんだから!」
「そんな嘘まで言って!」
「鬼ムカ! ウソじゃないって!」
「じゃあ、誰に!? 誰に言われたんだい!?」
「言ったって解んないって!」
声の感じからすると、相手は若い女性のようだ。こんな田舎の小さな村で何を争う事があるってんだ、まったく。それにしても、おっさんと女性のケンカか。なら、どっち側につくかなんて決まっている。
下衆いが、大抵の男ならそうする。そして俺も大抵の男側なので女性の味方。勇者とはいえそこは男だ。
「まぁまぁ、落ち着いてくださ──」
が、そこから先の言葉は出てこなかった。俺が助け舟を出そうとしたその女性──いや女の子の姿が目に入ったせいで。
着崩された紺のブレザーに、胸元が開いた白のスクールシャツ。
ふとももがはっきりと見える短さのタータンチェックのスカート。
長い黒髪を青いリボンでポニテにしてはいるが、その
──黒髪の
その表現がこれほどまでにぴったりとハマったその女の子は、崩れた塀の上に腰掛けたまま目をパチクリと瞬かせると、こう言い放った。
「──もしかして、キミが私の従者かな?」
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