第10話 お約束との邂逅



 丸太で組まれた簡易な門に近付くと、その両横に立っていた色褪せた革鎧姿の門衛らしき男が二人、こちらをギロリと睨み付けてきた。おおぅ、警戒心がゴイゴイスー。



「おぉ、ご苦労さんですだ」

「お前さんもな。んで、後ろの男は誰だべ?」



 門衛と知り合いなのだろう、猟師のおっさんが門衛の一人に軽く手を上げて挨拶すると、それに答えた門衛が俺を指差しながら質問を返す。

 もう一人の門衛は俺を警戒したのか、入口を塞ぐようにそっと立ち位置を変え、持っていた槍をスッと斜めに構えた。こんな辺鄙な場所にある村だし、見知らぬ人間に厳しいのだろうな。ただ単に、こんなボロボロの恰好したヤツを怪しんだだけかもしれんが。



「狩りに行った森で出会ったんだべ。なんでも、ゴブリンに村を襲われたとかで」

「ゴブリンが村にだぁ? ほんとだべか!?」



 急に話の矛先を向けられ、思わず視線を逸らす。マズい、なんか怪しまれてね?

 ゴブリンに村を襲われたって設定は、森に居た理由を猟師のおっさんに説明する必要があったから急いで作ったやつだったが、ちょっと安易すぎたか。

 だが、トラックに轢かれて、気付いたら森の中に放り出されていましたなんて正直に言ったところで信じてもらえないだろうし、まず頭を疑われる。


 ヤバいな、下手こいたか? 

 やっぱり「自分は勇者で、この世界を救いにきました!」って正直に言った方が良かったか!? でも、こんな汚い恰好で、「俺は勇者だ!」と言ったところで、信じてもらえる自信が無かったんだよなぁ。



「あ、いえ、そのですね」



 疑われて村に入れない事態だけはなんとしてでも避けたいが、かといって今更違う設定に変えたら余計に怪しまれそうだ。それに、ゴブリンに襲われたのは本当だしな。



 と、あれこれ考えているうちに、気付けば門衛が目の前まで迫っていた。ち、近くね!?

 驚きで思わず一歩引き下がると、血相を変えた門衛が俺の肩を勢いよく掴んだ。ダンっ!と肩に走る衝撃。え、なになに!?



「兄ちゃん、む、村ってヤダ村か!? ヤダ村がゴブリンに襲われただか!?」

「え? ヤダ、村? ──え、えぇ。そうです!」



 門衛の勢いに、赤べこよろしく首をコクコク縦に振る。

 ヤダ村ってのがどこにあるのか知らないが、こいつは渡りに船だ! このまま話を合わせちまおう。



「んで、ヤダ村は無事なんか!? もしかして、ゴブリンに皆殺しにされたんじゃ?!」

「い、いえ! 何とか追い返しました。その後村長から、この村もゴブリンに気を付ける様にって言伝ことづてを預かったのですが、ゴブリンが怖くて森を迂回している間に道に迷って」



 我ながら、よくもまぁポンポンと話が出てくると感心してしまう。まぁ、あまり調子に乗るとやらかしてしまうので、ほどほどにしておこう。



 すると、今度は頭にポスっと重さを感じた。門衛が俺の頭に手を置いた状態で、ニカッと笑う。



「そうか、そいつは大変だったな、兄ちゃん。そんなにボロボロになって……。確かに言伝は聞いただ! だからとりあえず休め、な?」

「は、はい」



 でっち上げた話をアッサリと受け入れられた事で呆気あっけに取られたが、すぐに気を取り直し、「有難うございます」と軽く頭を下げて礼を言う。横を見れば、サムズアップしてくるもう一人の門衛。なんだろ、罪悪感が半端無い。


 しかし、猟師のおっさんといい門衛といい、俺の話を信じてくれるってことは、魔物に襲われるというのはこの世界では良くある事なのだろう。俺が思っている以上にこの世界はシビアなのかもしれない。

 まぁ、勇者の俺が何とかするから心配ご無用だ。



「それにしても良かったべ。また厄介なヤツが一人増えたんかと思ったべ」

「厄介なヤツ?」

「いやいや、こっちの話だべ。それよりほら、入った、入った!」

「は、はぁ。んじゃ失礼して」





 少し引っ掛かりを感じたが、まぁ問題なく村へと入れたので、気にしない事にした。

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