第9話 森からの脱出
気合を入れ直した俺は、目の前にある“小山”をチラッと見る。
小山といっても土で出来た山じゃない。今まで倒してきた魔物のドロップアイテムで出来た山だ。
この三日間で解ったことだが、この世界の魔物は、死んでからある程度時間が経つと、体から黒い煙を上げて消えてしまう。
しかし、何時まで経っても消えない物がある事に気付いた。それがドロップアイテムだった。
この世界にもドロップアイテムが存在する事に興奮し、アイテムが残る度にガッツポーズを決めていた。
「……はぁ」
……のだが、今は全くそんな気が起きない。
この森の魔物が落とすドロップアイテムの中で多いのは骨や皮、牙などで、先ほど倒した猪の魔獣ブルファンゴも、しっかりとその皮を残していた。
新たな仲間を引き入れ、高さを増したドロップアイテムの山は、ズゴゴ……と無言の圧を放っていて、とても心が休まらない。
臭いとかはしないからまだマシだが、精神衛生上とても良くないし、正直食傷気味である。だというのに、たまに二個同時とかあるしよぉ。この世界のドロップ率の設定、甘過ぎるんじゃねぇか?
「一応ドロップアイテムだからちゃんと持ち帰ってるけどさ、ハッキリ言ってもう要らねぇよ……」
せめてコイツらをどこか見えない所にしまっておければいいんだが……と思った時、
「──あ!?」
と考えが閃いた。
それは、これまた異世界ではお馴染のスキル──アイテムボックス。
インベントリほどチート級では無いにしろ、アイテムボックスだって物語によってはかなりレアなスキルだ。目に入るから気が滅入ってくるドロップアイテムも、アイテムボックスなら仕舞っておけるし、違う所にそのまま持ち運ぶ事が出来る! 俺って天才!
よし、そうと決まれば善は急げ!と、
今一つ仕様の解らないディープダイバーだが、イメージが大事という事は何となく解った。なので頭の中で、耳の無い青い猫型ロボットの装備品である例のポケットをイメージする。……が、なぜか上手く出来ない。う~ん、インベントリだけでなくアイテムボックスも創れないのか?
それでもウンウン唸りながらイメージしていると、
「来た!」と、すぐさまステータス画面を開き【スキル一覧】を確認したが、残念ながらそこにはアイテムボックスの名前は無く、変わりに【
「なんだ、これ?」
あまり知らないスキル名だったので色々と試した結果、何のことは無い、名前通りポケットを通るサイズ限定のアイテムボックスだった。
なぜアイテムボックスが具現出来なかったのかは知らないが、
「しょうがない、骨皮はひとまず置いといて、取り合えずはあっちを入れておくか」
立ち上がりドロップアイテムの山へ近付くと、その端で積まれていた石を一つひょいと拾い上げる。一見普通に見える石ころは手の平で転がると、受けた陽の光を虹色に返してきた。
「たぶんこれ、“魔石”だと思うんだよなぁ」
魔石とは、異世界を愛するモノならば、間違いなく一度は聞いた事のある有名なドロップアイテムだ。
丸みがかったこの石ころは、魔物や魔獣を倒した後にたまたま見つけた。最初は胆石か結石か?位にしか思ってなかったが、何時まで経っても消えなかったのが引っ掛かり、この世界にも魔石があるのかもと念のため拾い集めておいたのだ。
「じゃあ、覚えたばかりの簡易鑑定で調べてみましょうかね」
手に持った石ころをジッと見つめながら、【簡易鑑定】スキルを発動する。すると石ころの上に〈魔石〉の文字が浮かび上がった。
「お、やっぱり魔石か。良かった良かった」
思った通りの結果に口元を緩めながら、石ころ改め魔石を日に当てる。
この世界はどうだか知らないが、異世界によくある設定として、魔石は魔道具なんかの燃料として一定の需要がある。もし同じ設定だとしたら確実に需要があるはずで、絶対に売れるはずだ。
雑に積んでいた石ころが魔石と判った途端、キラキラと輝いて見えた。我ながら現金なもんだ。
「しかし、これだけのドロップアイテムもある事だし、もしかするとちょっとした財産になったりして」
ぐふふと含み笑う。
魔石に加えて、見た目は悪いが曲がりなりにもドロップアイテムである骨皮牙たちも買い取ってくれる可能性は高い。そうすりゃ一財産くらいにはなるだろう。
せっかく来た異世界、全力で楽しむ為にもお金の心配などしたくはないし、異世界にきてまであくせくと働きたくはない。それに勇者が金に困るなんて格好悪いし。
「もし骨皮が売れなかったら、剛田雑貨店にでも持っていくか? なんてな。だけど──」
売るにしろ持って行くにしろ、大きな問題がある。それは、そもそもこの森がどこだ!ってことだ。
当たり前の事だが、ドロップアイテムは放っておいても金にはならない。どこかの村か町とかに売っ払いに行くしかないのだ。
だが、今の俺には村や町の場所どころか、自分が居るこの場所すらどこだかも判らない。
村や町がどこにあるのか誰かに尋ねたいが、この世界で出会ったことがある人型といえば、緑色の肌をした言葉も通じねぇ半裸の魔物だけ。
ならばと、深い森の中を人の痕跡みたいなのを探し回ってみたものの、見つかったのは獣道とゴブリンの集落だけで、それ以外の情報は皆無だった。
「だが、売りにいくしかない。とっととこの森からもおさらばしたいしな。じゃなきゃ、このドロップアイテム達に呪われそうだし」
不気味な圧を放つ骨皮牙たちから、一刻も早く解放されたい。
なんの情報も無く森を彷徨えば、下手をすれば遭難する危険もあるが、この現状を打破するには動くしかない。それにいい加減一人は寂しい。これ以上独り言を言いたくもない。誰かと話したい。
「迷子にならないといいんだが……」
魔石と牙を中心に、幾つかのドロップアイテムを【
◇
「それにしても難儀だったなぁ、兄ちゃん。どれ位森の中を彷徨ってただ?」
「えーっと、恐らく三日位ですかね」
細い道の両側に植えられた、小麦の様な穀物の穂が揺れる中、前を歩く猟師の恰好をした男の肩越しから投げられた質問に、俺は少し考えてから答える。
赤橙の柔らかな陽の光を背に受けながらの何気ない会話だが、とても感慨深い。なにせ、森を出ると決めた日から三日間も彷徨い歩き、もはやこの世界は森しかないじゃないかって心が折れかけた時に、ようやく出会った異世界の住人との初めての異世界交流なのだ。
その異世界交流だが、最初は言葉が通じるか不安だった。なにせ、スキルの【言語理解】を覚えたのは良いが、実際誰かと話すのはこれが初めてだし、言葉が通じなければ相手に警戒されてしまう。
しかし、ふたを開けてみればそれは杞憂に終わった。
訛りはあるがちゃんと相手の言っている事が解るし、俺も日本語で喋っているのに相手も理解している。お互いの言語が違うだろうに話が通じているのだから、きっと言語理解がきちんと作用しているのだろう。それにしても、異世界人との会話は思った以上に嬉しい。きっと初めて外国人と話した人は、こんな感情になるんだろう。
「うへぇ、三日も!? 良くぶっ倒れずに済んだもんだぁ」
「えぇ、途中で運良く水の湧く場所を見つけてなければ、危なかったですよ」
後ろを振り返り、驚いた顔を向けてくる四十代後半くらいのおっさんに肩を竦めてみせる。
実際はそんなに都合良くいかず、喉が渇いて死にそうになった時に、泣く泣くディープダイバーで【
ちなみに、水が出ると思って生活魔法の前に会得した【水魔法lv.1】じゃあ、ただ水球が飛んでいくだけで全く喉の渇きは潤せなかった事実だけが、悲しい過去として今も俺の心に残っている。
と、一通り感慨に耽ったところで、おっさんの身なりをじっと見る。
森の中で出会ったボサボサ髪のおっさんは、猟師というだけあって腰に仕留めた獲物だろうウサギっぽい小動物をぶら下げ、木を削って作ったっぽい弓と矢の入った矢筒を担いでいる
綻びだらけのベストとシャツに、所々継ぎ接ぎされたズボン。そのみすぼらしい姿からするに、今向かっているという村は、そこまで経済的に豊かでは無さそうだ。
まぁ、俺も人の事を言えない。着ていたスーツも、森での生活や戦闘のお陰でほぼ原形を留めていないし。スラックスなんて、もうハーパンよ、ハーパン。勇者がこれで良いの?。
しかしそうなると、あのお荷物……もとい、ドロップアイテムが捌けないかもしれないな。あんな森の近くにある村だからなぁ。過度な期待するのは止めとこう。
「はぁ」と小さく息を吐きつつ顔を上げると、前を歩いていたおっさんが立ち止まってこちらをジッと見ていた。ヤバい! 今の聞かれてたか!?
「ど、どうしました?」
「着いたべ」
「へ?」
間抜けな返事を返しつつ狩人のおっさんが指す方向を見ると、揺れる穂群れの先に不揃いな丸太柵と、同じく丸太を組んだだけの村の入口らしきものが見えた。
ー ー ー ー ー - ー ー
エイジ Lv:10 ←new!
Job:???
【スキル取得可能】 2/6 ←new!
取得スキル
《???》
【異世界を識る者(ディープダイバー)】 1/5 ←new!
・??????
【些末な
・ポケットに入れられるサイズの物を制限無く収容出来る
【
・生活するのに必要な魔法を行使する事が出来る
《ノーマル》
【言語理解】 ← new!
・違う言語を理解・使用する事が出来る
【水魔法lv.1】 ← new!
・最初期の水属性魔法が使用出来る
取得魔法
【ウォーターボール】 ← new!
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