第12話 どうやらこの世界の神様は、俺に優しくないらしい



 「……へ?」



 あまりに突然の事に思考が停止した。

 


「……じゅう、しゃ?」



 訳が解らず言われた言葉を反復したその時、ナニか“圧”の様なモノを感じた。

 と同時に、カチリと頭の中で何かが填まった。……なんだろ、途轍もなく嫌な予感がする。



 その予感に引っ張られるように、そっとステータス画面を開き、ぐるりと見通していくと──



「……え?」



 ある所で止まる。そこは、何も記されていなかったジョブの欄。いつまでも空欄だったその場所に、はっきりとこう書かれていた。──『勇者の従者』──と。



「……なんだよ、これ? 勇者の従者?」



 ゴクリと喉がなる。

 従者!? 

 従者ってことは、パーティーメンバー!? 



「俺はただのモブってこと……?」

 


 ……いやいや、きっと見間違いだ。この女子高生が変な事を言うモンだから、それを意識し過ぎたんだ。

 深呼吸して自分自身を落ち着かせ、目をゴシゴシと拭って、もう一度ゆっくりと確認する。

 が、何回見ても、何回ゴシゴシしても、そこにあったのは勇者の従者の文字。いい加減バカな俺だってわかる。つまり──俺は勇者じゃない!?



「はは、ウソだろ……?」



 足がガクガクと震えているのが解る。

 どうなってんだよ、俺を異世界に召還したヤツ。俺を勇者としてこの世界に転移させたんだろ? だって異世界に呼ばれる理由なんて、『勇者として召喚された』以外ねぇだろ!

 


「……おいおい、やめてくれよ。冗談にも程ってモンがあるぞ……。俺が勇者じゃないなんて、信じねぇぞ?」



 あれだけ勇者になりたいとお願いしてきたのに……。

 まだ見ぬ神様に、勇者として召喚してくれて有難うと感謝したというのに……。


 

「……なんでだよ、だって、あんなスゴイスキルがあるんだぜ! なら、俺が勇者だろ!?」



 そうさ、俺には異世界を識る者ディープダイバーなんて、チート級のスキルがあるんだ。なら間違いなく、絶対に俺は勇者だろ! 



「あれ? おーい、もしもーし? 聞こえてる? 私の言葉が解りますかー?」



 戸惑う俺をよそに、いつの間に立ち上がったのか、黒髪女子高生は上目遣いの可愛らしい顔を近づけ、俺の顔を覗き込んでいた。



「おわ!? わ、解りゅよ!?」



 顔が近ぇよ!?  思わず噛んじまったじゃねぇか! パーソナルスペースって言葉を知らんのか、このJKは! 



「良かった~。ここの人が言っている事って、私にはあまりにも意味不明だったからさ。もしかしたら、私の言葉が通じてないかと思っちゃったよ」



 反射的に距離を取る俺。それに気付いていないのか、黒髪女子高生は着崩したブレザーの上から胸を押さえ、ホッとした表情を浮かべる。

 その顔を見て、少し落ち着きを取り戻した俺は、改めて目の前の彼女を見る。


 化粧は派手だが端正な顔立ちに、主張自体は激しくないが、それでもしっかりと出ているところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるスタイル。ハッキリ言ってここまで美少女だと、ちと現実感が沸かない。

 

 それにしても、この子は一体? なんでこの異世界に制服姿の──しかもギャルみたいなJKが居るんだよ?



「え、えっと、君は一体誰なんだ? どこから来たんだ?」



 短すぎるチェックのスカートや、可愛らしい青のリボンを首元にあしらったブレザー姿のJKがこの世界の人間じゃない事くらいは、幾らバカな俺でも解る。じゃあ、どこから来たのか?って話だ。そいつを聞きたい。


 すると、それに答えたのは黒髪女子高生ではなく、言い争っていたおっさんだった。



「それが聞いてくれよ兄ちゃん。この子はな、ひと月以上前に、この村にふらっと現れたんだ」

「ふらっと現れた、ですか?」



 言われ、黒髪女子高生を見ると、「ん?」と可愛らしく首を傾ける。

 彼女がこの村にふらっと現れたというのは、一体どういう事なんだ?


 そんな疑問を、おっさんの次の言葉が遥か彼方へと吹き飛ばしてくれた。



「そうなんだ。でな、この子が言うには、なんでも自分は勇者で、この世界を救わなければ元の世界に戻れねぇって言うんだよ。そんで、『魔王はどこに居ますか?』ときやがった」

「勇者!? 魔王!?」 



 おっさんの口から出た思いがけない単語。そいつは、異世界においての定番中のド定番。まさに異世界における醍醐味ってやつだ。──って、ちょっと待て! 勇者!? この子がか!? 



「ちょっとそれ、詳しく聞かせてもらってもいいですか!?」

「詳しくも何も、この嬢ちゃんが、言うに事欠いて勇者を名乗りやがんだ。全く世間知らずってもんだぜ! 見たことも無い恰好をしてるし、気味が悪いから、とっととどっか行ってくんねぇか!」



 おっさんの口調に再び熱がこもる。が、彼女はそんな事はお構いなくといった感じで俺の目をまっすぐに見つめ、薄い唇を開いた。



「やっぱ、貴方が私の従者で間違い無いようね。良かった♪」

「ちょ、ちょっと待って!?」



 頭の整理が付かない中、納得顔で一つ頷く黒髪女子高生。それを見たおっさんの眉がピクリと跳ね上がるのが見えた。



「んだぁ? 兄ちゃんもこの娘と同類か!?」



 おいおい、俺に矛先を向けてくんなよ! 冗談じゃねぇ!



「ちょ、ちょっとこっちに来てください!」

「きゃっ!? ちょっと!?」




 急いで女子高生の腕を掴むと、胡乱うろんな目を向けてくるおっさんから逃げる様に、その場から走り出した。



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