第26話 再びのセレスティア ②
「でも、これで合点がいきました。女神の加護の事を、立花さんに説明していたんですね」
レベルが低いのに、先に進もうとする立花さんの理由。
それは、立花さんが女神の加護の効果を知っていたからだ。だから彼女は早く魔王の下に行きたいと言ったのだ。
それをまるで知らない風を装っていたのだから、立花さんも人が悪い。でもまぁ、レベル3の彼女が女神の加護のスキルでステータスを上げたとて、レベル5か6の力しか無いから、どちらにせよ、魔王討伐なんて無理なんだが。
だが、「聞きますか、それ……」と、なぜか少し疲れた口調になる女神様。
あれ、変な事聞いたか?
「いいえ、このことは勇者イオリに説明していませんわ」
「説明していない? どうしてそんな事を? 面倒だったからとかですか?」
説明していない理由が判らない。後で説明しようと思っていたのだろうか? ならそっちの方が面倒だと思うんだが?
「いえ、勇者イオリはスキルに興味が無いようでしたので、説明を省いたのですわ」
ん? 説明を省いた?
「……どういう事です、それ?」
「どうもこうも、そのままの意味ですわ。私が勇者を召喚した時に、『私の世界へと来る際に何か欲しい物はありますか? 何でも良いですわよ?』と尋ねたのですが、前にもお話したように、勇者イオリはファンタジーという物に関してとても疎かったものでして、特には要らないと答えたのです。それを聞いた私は、『なら、其方に合う武器とスキルをこちらで見繕って差し上げます』と伝えたのですが、スキルという言葉の意味を知らなかった勇者イオリに、こちらも丁重にお断りされまして」
「要らない、ですか」
「えぇ。自分の力だけで十分と仰いましたわ」
当時の事を思い出したのか、フルフルと首を振り「はぁ」と重い溜息を吐くぬいぐるみ。まぁ確かに、世界を救って欲しい相手から「何も要らない」なんて言われたら、面子丸つぶれだよな。
それにしても、今の話って自分の世界を救ってもらう代わりに、好きなチートスキルを与えるとか良くある設定のヤツじゃねぇか、クソ。
なんで俺には選ばせてくれなかったんだ!? まぁ、
「しかしそれですと、世界を救ってもらおうとしている私のメンツが立ちません。ですので、最低限として与えたスキルがインベントリと女神の加護、そして言語疎通だったのですわ。その時、勇者イオリに各スキルの説明をしたのですが、勇者イオリはあまり聞く耳を持たなかったもので。ですから、説明を省いたのです」
「そうだったのですか」
意外と、このクマのぬいぐるみも苦労したんだな。
「──あ! もしかして立花さんのレベルを上がっても、新しいスキルを覚えない理由って」
「えぇ、勇者イオリが拒んだからですわ」
「……やっぱり」
大人げなさすぎねぇか、このクマさんはよぉ……。マジで怒らせねぇ様にしねぇと。
「……それにしても、なぜインベントリなんです? この世界を救うなら、もっと都合の良いスキルが有ったでしょう?」
立花さんの持つスキルのうち、女神の加護と言語疎通は何となく解る。女神の加護は魔王や魔物との戦闘において、そして言語疎通は現地の人とのコミュニケーションにおいて、それぞれ重要なスキルだ。だが、インベントリはそこまで重要でも無い様な……。
すると女神様は、さも当然と言わんばかりに
「女の子は色々と物入りですからね」
「……そうですか」
ウインクでもしているのだろうが、まったく閉じられていないぬいぐるみ。確かにインベントリはチートスキルだし憧れるスキルではあるが、勇者ならもっと違うスキルでも良かったんじゃね?
「どうです、凄いでしょう?」と、無駄に胸を張ってはいるが、クマのぬいぐるみが偉そうな態度を取るなんてシュール以外なにものでも無いし、俺としてはあまり評価していない。
だって、ラノベとかだともっとエグいチートスキル盛り盛り設定もあるし、世界を救ってもらうっていうのなら、幾ら拒まれたとてもう少し与えてやれよと思う。そうすれば、かなり早い段階で魔王の討伐だって果たせるのによ……。
「さて、これで其方が抱えていた憂慮も無くなりましたね。これからは、従者エイジのさらなる助力を期待していますわ」
「まぁ、頑張ります」
腕を組み、ポムポムと首を縦に振るクマのぬいぐるみ。確かに憂慮というか、判らなかった事が一つ判った事で、立花さんのフォローの効率も上がるだろう。
あ、判らない事といえば俺のスキル、異世界を識る者についても聞いておかないと。
「最後に一つ宜しいですか?」
「はぁ、何ですか?」
やる気の無い返事。確かに流れ的に締める空気になっていたけど、態度に出さなくても良いんじゃ。
「済みません。前から聞こうと思っていたのですが、自分のスキルである、異世界を識る者について聞いても良いですか?」
「……異世界を識る者、ですか?」
「はて……」と、顎の下にポムっと手をやるクマさん。おいおい、そんなに思い出すのに苦労するほど、どマイナーなスキルなのかよ。凄いスキルなのに。
「……その異世界を識る者ですが、何が知りたいんですの?」
「いえ、前にアイテムボックスというスキルを作成しようとしたのですが、全く作れなくて。それでも頑張って色々とイメージしたのですが、そしたらアイテムボックスではなく、何故か
「そう、ですか……」
また考え込むぬいぐるみは、少しばかりの空白時間を置いた後、
「……済みません。今はちょっと思い出せそうにありませんわ。またの機会までの宿題、という事にしておいてくださいな」
「は、はぁ」
また来る気か、この
それにしても、この世界を司る女神でもすぐに出てこないなんて、そんなにこの世界はスキルで溢れているのか。
「質問はそれだけですか? なら、私も忙しい身。ここで失礼しますわ」
「あ、ちょっと!?」
クマのぬいぐるみは、どこか逃げる様にベッドからポフッと降りると、スタスタと窓枠に近づき、ポンとその図体に似合わないキレイなジャンプをかまして窓枠に乗る。見れば窓が全開だ。そこから入ってきたのかよ。
「──あ、一つ言い忘れていました」
窓から身を乗り出すクマのぬいぐるみが、後ろを振り返る事無く言い放つ。
「──タイムリミットが迫っていますわよ」
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