第32話 子供達を救えっ!
「それで、どうするの?」
ショートソードと背負い袋を立花さんに預けると、それをインベントリに収納した立花さんが訪ねてくる。その横で猟師さんが、「はぇー、便利なもんだべ」と何やら感心していた。
「とりあえず、わざと捕まります。そうすればあの集落へと連れて行かれるでしょう。そこで隙を見て子供達の居場所を探り、助け出します。その時に合図を送るので、二人はそれを機に攻め込んでください」
「え、そこまでやるの? 危ないじゃん?」
何故か少し慌てる立花さん。別に変な事を言ったつもりは無いのだが?
「大丈夫です。それに子供たちの居る場所が解ったなら、合図を送る前にその身柄の確保した方が安全でしょう」
「……確かに。解った」
「分かったべ」
二人がコクリと頷いたので、「では」と一言告げて場を離れる。背中から、「あの兄ちゃんで大丈夫だべか?」と、猟師さんの心配する声が聞こえてきた。
「御供さんが大丈夫だって言ったんだから、平気だって!」
そう答えた立花さん。意外と信頼されているんだな、俺。嬉しいが、なら少しはアドバイスも聞いてほしいもんだ。
二人が隠れている茂みから少し離れた茂みに身を隠す。そして、そこにあった木の枝を拾い上げると、ガサガサとわざとらしく茂みを揺らして音を立て、間を置かずに立ち上がる。
「お前たち!
「ギャギャアっ!?」
「ギャアァ!?」
急に俺が現れたことに驚き、手に持っていた武器を構えるゴブリンたち。
が、俺を見るなりあからさまな安堵とともに、
「くっ、まさか集落とは! 数が多すぎる!」
「ギャッ! ギャギャ!」
近付いてくるゴブリンの数を見てわざとらしく驚くと、嬉しそうに声を上げたゴブリンたちがさらに近付いていく。なかなかに上手く演技出来てるんじゃないか、俺?
「俺一人じゃ無理かっ!」
悔しさを滲ませながら、持っていた木の枝をゴブリンに乱暴に投げつける。
そうして丸腰になった俺は、抵抗する意思が無いことを示す様に両手を挙げると、ゴブリンたちはその手を乱暴に掴みあげて荒縄で拘束し、意気揚々と集落へ連行していく。
「ギャギャア!」
「ギャッギャ!」
口を大きく歪め、下品に笑うゴブリンたち。「良い獲物が手に入ったな!」「全くだ!」なんて喜んでいるのかもしれない。
「……すんなりと上手くいったな」
アカデミー賞級の演技のお陰だな。また一つ、底知れない能力が明かされてしまったぜ。スキルに【演技】とか、出来てんじゃねぇかな。
そうして、篝火が照らす集落へと連行された俺は、集落の中でも少しだけ大き目な小屋まで連れて来られた。
「ガギャ!」
「いてっ!」
「おら、入れ!」とばかりに尻を蹴られる。おい、ケツを蹴るんじゃねぇ!
「ったくよぉ」
大き目とはいえ小屋の入口は狭く、背中を丸め込む様にして真っ暗な小屋の中へと入る。
それを見届けた二匹のゴブリンは、「ゲギャ」「ガガァ」と小屋から離れていった。おいおい、不用心すぎませんかね? まぁ良いけどよ。
小屋から頭だけを出し、辺りを窺う。篝火から遠いのか、辺りは薄暗い。うん、どうやら誰も居ない様だ。ちょうど良い、まずはこの小屋の中を調べよう。
「だ、だれだっ!」
「ひっ!?」
乱雑に物が置かれた小屋の、奥の方から聞こえた人の声。そちらに光の玉を向けると、子供が二人、小屋の隅で怯える様に体を縮こませていた。おぉ、ビンゴ!
「良かった、見つかった」
日頃の行いが良いせいか、はたまた
「お前たち、助けに来たぞ」
「……え、おじさん?」
俺と同様に手を縛られた見知った顔の子供が二人。
変わらず俺をおじさん呼ばわりする、癖のある茶色い髪の子供がジャンか? それともミックか? まぁ、どっちでも良いか。
泣きべそをたっぷりとかいたであろうその顔は、見たところ乾いた血が張り付いてはいるが、どうやら大きな怪我はしてなさそうだ。
「二人とも、動けるか?」
「う、うん。おじさんはどうしてここに?」
「お兄さんだ。助けに来たって言っただろ。さ、早くここから出よう」
手を縛っている荒縄を切ってやると、ガバッと抱き付いて来た。うんうん、怖かったな。もう大丈夫だ。
「さぁ、じゃあ逃げるぞ」
「う、うん」
二人の頭をそっと撫でて離れると、名残惜しそうにするジャンとミック。悪いが、あまりゆっくりしてられない。いつゴブリンが来るか判らないからな。
さて、無事に二人を助けた事を立花さんと猟師さんに伝えないといけないが、良い方法はないかな? 生活魔法で光の玉でも生み出して、それをピカピカ光らせれば良いのだろうが、さすがに周りのゴブリンにも見つかってしまうだろう。
さてどうしようかと、周囲に目を配る。小屋の中に何か使えそうな物が無いかな?
「う~ん」
「な、何してるの、おじさん?」
「んー? ちょっとなー……」
ガサゴソと、物を漁る俺の服の裾を引っ張る二人。早く逃げたいのだろうが、ちょっと待ってな。
どうやらこの小屋は食糧庫らしく、ザルやカゴに置かれているのは木の実や果物だった。お、クルミがあるな。これなら武器に使えそうだ。何個か拝借しておこう。
掴み取ったクルミを
「よし、これでいこう」
見た目ドリアンを持ち上げ、入口まで持っていく。そして小屋からそっと頭を出して周囲を見る。よし、誰も居ないな。
静かに小屋から出ると、入口に置いた見た目ドリアンを持ち上げる。その様子を見た子供達が、首を傾げていた。
「それで戦うの、おじさん?」
「お兄さんだ。いや、コイツはこうするんだ、よ!」
「ふん!」と、見た目ドリアンを遠くに放り投げる。たぶん、あそこら辺だったよな?
「な、何をしたの?」
「ん? ちょっと援軍を、な」
そう言ってニヤリと笑ってやるが、子供達はさらに首を傾げていた。まぁ、その内解るさ。
「ゲギャガギャ!」
──突然の奇声!
そちらに目を向けると、短い槍を持ったゴブリンが一匹、こちらを指差しながら騒ぎ立てていた。あちゃ、見つかっちまったか!?
「見つかっちゃったよ、おじさんっ!」
「ふぇ~ん!」
途端パニくる子供達が、俺に抱き付いてくる。こら! そんなに引っ付かれたら、戦えないだろっ!
「落ち着け! お前等男の子だろ!」
「だって、だって!」
「うぇ~ん! おがあざ~んっ!」
「ガギャッ!?」
「ギギャギャ!?」
抱き着く子供達を引き離そうとするが、ギュッと掴んで離さない子供達。
二人が上げる泣き声のせいで、別のゴブリンも現れた。お前等、マドハンドかっ! マズい、このままでは、他のゴブリンまで呼び込みかねん!
「頼むから落ち着いてくれって!」
悪化していく状況にさすがに焦る。まだ三匹だから戦ってもいいんだが、その間に別のゴブリンが現れて、子供達を襲う危険もあるから、下手げに動けない。
それがヤツ等も解っているのか、「ギャア」と嗤いながら近付いてくるゴブリンたち。だからその顔を止めろっての!
「一旦、小屋の中に逃げ込むぞ!」
「嫌だ、嫌だぁ!」
「助けでぇ! 助けでよぉ!」
パニックでどうにもならない子供達を背後の小屋に押し込もうとするが、小屋の入口を掴んで必死に抵抗する。ケツでも蹴り込んでやろうか!
と、「ギャア! ギャア!」と近くでゴブリンの声。見れば槍を持ったゴブリンが、その槍を高々と持ち上げている。ちっ! こうなりゃやっちまうか!
拳を握り込む。神をも騙すペテン師を解いた俺なら、ステゴロでもゴブリン位余裕のよっちゃんだぜ!
──と
「──ふっ」
「ブギャアァ~!」
耳をつんざく悲鳴! 見れば、槍を持ったゴブリンが真っ二つになっていた。な、何事だ!?
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