第21話 まずはゴブリンを倒してみよう!
立花さんを伴って村を出る。
その際、南門に居た門衛に森に向かう事を伝えたが、他の村人同様、不機嫌そうな顔を浮かべていた。見送り感なんて全く無いな。まぁ良いけど。
空を見上げると、かなり陽が高い位置にあった。もう昼を過ぎたかもしれない。だとしたら、森に行ったとしても、そこまで奥には行けないかもな。
村を出て、両脇に小麦畑が広がる細い田舎道を歩く。素人目からしたら、穂が良い感じに垂れて、もう収穫時期なんじゃ?と思うのだが、まだ刈らないのだろうか? 刈り取り時期とかあるのか? そもそもこの世界に四季はあるのだろうか? そう考えると、この世界はまだまだ判らない事だらけだな。
暫く歩くと、小麦畑がただの草むらとなり、田舎道が段々と荒れ細って獣道とそう変わらなくなった所で、まるで門柱の様に大きな石が二つ置かれた森の入口へと辿り着いた。ちょうどいい、遅くなってしまったがここらでお昼としよう。
「ここから森の中に入れますが、ちょうどいいのでお昼にしましょう」
「そうだね」
汗一つ掻いていない立花さんを近くにあった大きな石に座らせると、手ごろな木に寄りかかって、背負い袋から紙に包まれたサンドイッチを、腰のホルダーから小さな水筒をそれぞれ取り出す。
サンドイッチは宿屋で作ってもらった物で、紙を開くと白く柔らかいパンの中に、野菜とチーズ、ハムや肉が挟んであって、なかなかに豪華だ。青銅硬貨を四枚取られたが。
昨日の夕食でも出ていたが、白いパンが作れるなんて、この世界の製粉技術はそこそこ高いんだな。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
タータンチェックのスカートの上にハンカチを広げ置き、俺からサンドイッチと水筒を受け取った立花さんは「いただきます」と軽く頭を下げると、小さな口で
立花さんが食べ始めたのを見届けると、俺もサンドイッチに噛り付く。ハムの塩気が効いていて結構旨い。昨日の夕食も旨かったし、この世界はメシマズな異世界では無いみたいで良かった。
チチチッと小鳥が囀り、風で揺れた枝葉が柔らかくざわめいている。気分はさながらピクニックだ。
「……それで、森に入って何するの? レベル上げというのは、一体なに?」
どこかのんびりとした空気の中、小さな最後の一欠けを手に持った立花さんが、森の入口を見ながら聞いてくる。夜に比べると陽の光が注いでいるのでだいぶ明るいのだが、それでも僅かに潜んでいる不気味さを感じる。
「レベル上げというのは、簡単に言えば自分の能力を上げる作業の事です。レベルが上がれば各能力の数字が上がる、平たく言えば強くなれます」
「強く……」
「そうです。ただ、少し面倒ではあり──」
「──大丈夫! 任せてよ!」
「そ、そうですか、それは良かった」
RPGゲームをやった事がある人間ならお馴染みなレベル上げだが、地味な作業でもある。気の逸っている立花さんがそこら辺を嫌うかもと思ったが、なぜかやる気を見せた。しかも食い気味に。まぁ、「え~、そんなの出来るわけないじゃん! ムリムリ~!」なんて言われるよりマシだし、やる気になってくれるのは良い事だと捉えよう。
「それで!? どうすれば強くなんの!? どうすればレベルが上がんの!?」
「それなんですが、立花さんにはこれから、ゴブリンという魔物と戦ってもらいます」
「ゴブリン……? 魔物……?」
「そうです、魔物です。ちなみに立花さんは、ゲームをやった事は?」
「ゲーム? それなら合宿の時、トランプを使ったゲームをしたことはあるけど?」
「いや、そういうのじゃなくて、あ~、じゃあテレビゲームとかスマホゲームは?」
「……あぁ!」
「そう、それ──」
「──昔、テレビを使ったゲームで、将棋をしたことがあるわ!」
「じゃないですね」
あー、そういや、ファンタジーの知識が無いって言ってたな。忘れてたぜ。それにしても、ゲームすらやった事も無いとは。現代社会でそんな人間居るのかよ。いや、居たなここに。
そんな呆れた顔が思いっきり出ていたのか、立花さんが少しムッとした顔をして、
「……魔物ってあれでしょ? モンスターって事だよね? なら、私だって知ってるし。ドラキュラとか、狼男とかの事だよね? それなら私、ドラキュラの弱点を知ってるし!」
「……えっと、たしかにドラキュラみたいなメジャーどころも、この世界に居ると思いますが……」
ドラキュラよりも下手すりゃゴブリンの方がメジャーかもしれないが、この際気にしないでおこう。それにしても、なんでドラキュラが出て来たんだ? まぁ、良いけど。
レベル上げの相手は、別にスライムとかコボルトとかでも良かったのだが、今回立花さんが倒すべき目標の相手はゴブリンにした。
ああ見えて、ゴブリンは意外とずる賢く、魔物戦を教えるとしたらゴブリンは実力的にちょうどいい相手だ。俺もレベル1の時に倒せたし、そこまで危険な相手でも無い。ゴブリンにしっかり鍛えてもらおう。
「そのゴブリンとの戦いを通じて、立花さんには魔物との戦い方、異世界での戦闘というものに慣れてもらいながら、レベル上げしてもらいたいんです。どうでしょうか?」
説明しながらも、同時に無理かもなと思う。女子高生にいきなり魔物を倒してくれなんて、普通ならドン引きだ。でも、レベル上げは必須だしなぁ。
「……そのゴブリンっていうのが何だか分かんないけど、それで強くなれるんだよね?」
「えぇ、間違いなく。ただ、普通の戦闘ではありません。そのゴブリンの命を奪ってもらう事になります。出来ますか?」
俺の問いに、立花さんは食べる手を止め、俯いた。そりゃ悩むよな、さすがに生き物を殺すお願いなんて──
「生き物を、殺す……」
「はい、そうです。ですので無理にとは──」
「……出来る。出来るからやらせて!」
「え? は、はい」
ガバッと顔を上げた立花さん。その表情はどこか吹っ切れた顔をしていて、逆に俺の方が面食らってしまった。やらせてが
「そうですか。解りました。ならば、お願いします」
「うん、任せて!」
コクリと首を縦に振った立花さんは、サンドイッチの最後の一口をそっと口に入れ、ゆっくりと噛みしめる。
「ですが、前にも言った様に自分は立花さんのサポートしか出来ません。しかも立花さんと同じレベルです。ですので、あまり力になれないかもしれません」
本当は立花さんよりもレベルはかなり上なのだが、
「そんなの関係無いって。それに私には解らないけど、こういう世界に対しての知識があるんでしょ? なら、頼もしいよ!」
「それは、その……、有難うございます」
頬が少し熱くなる──って、なんで俺は女子高生相手に照れてんだっ!
「コホン。では、ゴブリンが居る森の奥まで行きますから、食べ終わったら早速行きましょう」
俺も最後の一口をポンと口に放り込むと、自分用の大きな水筒で喉を潤し立ち上がる。
ちょうど立花さんも食べ終わったので、「じゃあ、行きましょうか」と立花さんに手を差し出したが、「ん? あー、ありがと。でも大丈夫」とお礼を言っただけで、自分で立ち上がった。
ここからは危険を伴うので、少しでも心の距離感向上を図りたかったのだが、狙い過ぎたか。似合わない事はするもんじゃないな。
まぁ良い。それよりもまずはゴブリンを見つけないとな。都合よく居ると良いけど。
差し出した手を誤魔化す様にグーパーしながら、森へと足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます