第24話 十七歳⑮
話が一段落したので、俺は本命について探ろうと試みる。
「魔法に関連する道具はあるんですか?例えば、魔力を吸い取るとか……」
俺が知りたいのは、魔導具ないしは魔法具の存在の有無だ。この世界にそういう仕組みは確立されていないと俺は思っているが、単に知らないだけかもしれない。オルバート様の魔王化は、魔力の暴走によって起きるはずだ。万が一オルバート様が魔王化した際、魔導具でその命運を救える可能性があるのではないだろうか。
「宝具のことか?」
「宝具……?」
「オルバートが言ってるのは、国王陛下の剣のことじゃないかな?ほら、リュードも受験勉強のときに教えてもらったでしょう?」
「……あっ」
言われ、俺は思い出した。宝具とは、サンダスフィー王国国王が代々継承する特別な剣のことだ。俺は文化や遺跡を覚えるのがすこぶる苦手なので、頭からすっかりと抜け落ちていた。と言うか、あれは前世で言う魔導具だったのか。曰く付きのただの剣だと思っていた。
「宝具は、受け止めた魔法の魔力を吸収できる。それゆえ、魔族との戦いでは王族が戦線に出ることも少なくなかったらしい」
「王族以外が使えないのは、宝具の性質の問題ですか?」
「いや、そういう掟があるからだ。宝具そのものの機密性が高いというのもある。宝具の製作者が王族以外の手に渡ることを拒んだらしい。たとえただの剣だとしても、宝具の複製や模造は大罪だ」
とは言え、内密に複製しようとした王族の一人くらいはいただろう。戦争に勝利できなかったということは、それが失敗したか、魔族の魔法の前におもちゃの魔法は歯が立たなかったか。
一体、製作者はなぜ製作方法を残さなかったのだろうか。俺に考えられる仮説は二つだ。一つ目に、唯一とすることで価値を高めたかった。ただし、唯一の宝具としての価値を高めたかったのか、唯一の製作者として自分の名を高めたかったのかは定かではない。二つ目に、宝具の製作方法に重大な問題があった。奇跡的に完成しただけなので複製は不可能だと判断したのか、材料が想像を絶するものだったがゆえに詳細を秘したのか。
ふと、気づく。宝具、剣、魔法を解除する、この三点に心当たりがある。──物語のグリック殿下が使う「代々王家に伝わる剣」は、まさか宝具のことではないのか。
「……グリック殿下も使用することはできるんですか?」
「できるだろうな。もちろん、それ相応の理由は必要だが」
逆に言えば、理由さえ整えばグリック殿下も帯剣できる。──その理由が成立するのは、恐らく学院生活三年目の春だろう。
物語における三年生の春、オルバート様とグリック殿下とヒロインは、野外研修で重大な出来事に見舞われる。それは、まさに化け物のように巨大な魔獣との接敵だ。人の二倍はある高さと硬い体を持つ、四足歩行の怪物。体のそこかしこに眼球があり、たくましい尾で辺りの木々を薙ぎ払う。このエピソードでヒロインはその体に大きな傷を負い、グリック殿下はオルバート様へ憤りを爆発させる。と言うのも、この魔獣がオルバート様の名前を呼んだからだ。オルバート様をかばった形で、ヒロインは背中を切り裂かれる。同行していた魔族の友人の助けにより一命を取り留めるが、それを見ていたグリック殿下はオルバート様のせいだと少々理不尽な怒りを覚える。そして、グリック殿下とヒロインの心にはオルバート様への畏怖や疑念が芽吹く。共通の経験と敵を得た結果、グリック殿下とヒロインの距離が急激に縮まるという筋書きだ。現世の俺からすれば、オルバート様は完全に巻き込まれただけだろうが、と青筋を立てずにはいられない。全くもって、物語のグリック殿下とヒロインは自分勝手だ。
とにかく、この悲劇をきっかけに、自衛の手段としてグリック殿下は帯剣を許可される。恐らく、その剣こそが宝具だ。物語のクライマックスでは、この宝具をもってオルバート様の命を絶つ。
軌道修正に失敗しオルバート様が魔王化してしまった場合、俺は宝具をどうにかしなくてはいけない。強みと言えば、俺は魔力を使わない武術で戦えるという点しかない。宝具が魔導具としてだけでなく剣としても優秀な、例えば絶句するほど頑丈なものだったら、俺は一体どうすればいいのだろうか。
「話が逸れたが、魔法の基礎はこんなものだ。他に知りたいことはあるか?」
「今のところは大丈夫です。ありがとうございます。勉強になりました」
魔力をもって自然に介入すること、という魔法の定義が分かっただけで上々だ。ジャウラット教授が使う透明化の魔法も、この定義に則って仕組まれているだろう。しばらくは俺一人で可能性を探し、考えが煮詰まったらまたオルバート様に聞こう。なお、宝具のほうは一旦置いておくことになりそうだ。王家によって情報が隠されているなら、一使用人である俺にはどうしようもない。こうして、俺は魔法に悩む夏休みを過ごした。
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