お片付け、終わり
釣竿と釣り糸の先。針が引っ掛けたのは、タンスの引き出しだった。
もとい、花冠が作れる編み込まれたシロツメ草が引っ掛けたのは。立体ジグソーパズルの一つのピースだった。
タンスの引き出しと形が似た、長方体が宙を舞う。正しい位置に景色がくるように、回転させる。
ズシンッ。大音響。引き抜いたことで、真上にあったピースが落ちた。音の大きさと揺れに、白ウサギが体を硬くした。
「右隅の天辺に乗せて」
「はい!」
ロッティーの指示とおりに、ナオは乗せる。シロツメ草を、ピースから外す。繰り返していく。無我夢中だった。
「どうした!」
聞こえてきた、問い掛ける声。聞き覚えがあった、ナオは見やる。各務湊が立っていた。向こう側が見える、半透明な姿で。手鏡を泉と同じくお盆のように持つ。上には、鴇色の毛のリスが載っていた。
「緊急の招集を願います!」
「承知した!」
待ちかねていたという声で、ロッティーが返す。リスが承諾。湊たちの姿が消えた。
ナオは最後のピースを乗せる。ピースから離れた、シロツメ草が先端から枯れていく。
『ヒャッハー!!』
『弱った奴から、屠るぞ!』
『投票権、剥奪ぅ!!』
完成した立体ジグソーパズルの天辺を越えてきた。二人の人間と、人外としか見えぬ者が一名。剣や斧、鉈を振りかぶり、下りてくる。
『後れを取ったぞ』
『急げ!』
更に、後ろから、六名の小さな姿が見えた。揃いの制服姿。
「後始末をお願いします」
「ああ!」
ロッティーが頼む。緊張した面持ちで、男が答えた。
ナオは肩で息をする。気道から肺にかけて、痛む。荒い息の中で、シロツメ草に感謝する。枯れた草が吸い込まれていく。立体ジグソーパズルから、元に戻った世界に。自然に還る。
「後は任せて、行こう」
ロッティーが促す。身を翻そうとする、ナオの右手のひらが痛む。砕けた石が落ちる。欠片は、艶を失っていた。とっさに、欠片を拾う。
ポトポトと、血が落ち始める。本格的に流れ出す、血液。端から消えていく。
『聖なる血をいただきます』
姿が見えない。声のみ聞こえた。ナオは驚く。次から次へと、疑問が生じる。全身に広がった痛みが、口を閉じさせた。右腕に集められる。麻痺した。考えるのを放棄。
『歪みを無に返したこと。ようやった。我から、お礼をいたす。流れる血に、呪文を書き込んでやろう』
最初の気配が消える。血が正常に流れ出す。新たな気配と、話す声。ナオは自分に命じる。考えるな。
「早く!」
武器がぶつかり合う、高い音。肉体がぶつかり合う、鈍い音。ロッティーに急かされた。ナオは発生源に背を向けて、走り出す。開かれた穴をくぐり抜ける。
両脇を通り抜けていく、姿。ナオにも想像がついた。外野は考えたのだ。自分たちが行くのを妨害されるなら、配下を送る。
「波状攻撃ですか。楽しめそうですね」
「我が主の命に従うのみ」
後ろから聞こえてきた、二名の声。ナオもよく知る、問題がある物たちだ。手加減は知っているだろうと、見なかった振りをした。
砂利を踏む。ナオは辺りを見回す。見覚えのある神社の境内。現実に引き戻された気がした。
午後からは、県民が客。夜には、神々に奉納する。後者は、向こうからの依頼。拒否はできない。
ナオは不敵に笑う。
「さあ、出雲の国で、コンサートの本番だ!」
了
天地鳴動(てんちめいどう)~気持ち良く歌の練習をしていただけなのに、神さまの隠し事を暴いてバチが当たってしまいました 奈音こと楠本ナオ(くすもと なお) @hitoeyamabuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます