片付け、始め!
立体のジグソーパズルと向き合う。ナオは自分が、手のひらの大きさの人形になった気がした。目の前に、人間が使うタンスがある。出掛けた人間が戻ってくるまでに、引き出しを元に入れ替えるべし。
「ナオちゃんがまとった神力を、アタシが相殺できるのは。三分間だけ。そのうちの一分は、ナオちゃんはシロツメ草を、パズルの天辺まで届くように成長させる。アタシは最短で正しい位置に積め直せる順番を探る」
左側の宙に浮く、ロッティーが手順を説明する。ナオは頷いた。
「覚悟は、できた?」
「うん」
軽く緊張した、ロッティーが訊く。つられて、ナオも緊張する。
「GO!」
出された合図。ナオは右手のひらを、自分に向ける。明るい黄色の、二つの石に願う。応えて、輝く。緑色の芽が出る。茎を伸ばして、葉を増やす。一瞬のうちに、右腕がシロツメ草でおおわれる。花冠を作るように、編まれていく。指先より、先には伸びない。限界だった。
「諸神にお願い申し上げます。私、楠本ナオに力を……」
「及第点だのう」
「ピッコロさま!」
「教えておかなんだ、わしも悪かったの。わしを呼ぶのをためらってはいかん」
間近で、声が聞こえた。ナオは辺りを見回す。右肩の上に、ミニチュアサイズのもみの木が載っていた。思わず、勝手に付けた名前で呼ぶ。内心、しまったと思う。上機嫌で話が続けられた。
「わしの力をくれてやろう!」
ヒュオッ。音が立つ。松の葉を想像させる、緑色の光が現れる。背中を回り、羽織の裾をはばたかせた。白ウサギを励ます。左を回って、腹から右の中指へ。肩まで包み込む。
「ありがとうございます!」
「意外な所に、味方がいるのを忘れんようにな」
「はい!」
ナオは感謝する。助言を残して、ピッコロが去った。音を立てて、シロツメ草が伸び始める。地面にとぐろを巻く長さ。目測で、届くと判断した。
「真ん中、天辺の真下。二番目の位置」
ロッティーの知らせ。ナオはシロツメ草のリボンを振る。天辺まで、先が進む。引っ掛からずに落ちる。肚の底が震えた。焦りからか、ゾワゾワする。
『大丈夫だよ。まだ、時間はある』
羽織の中から、白ウサギの声。ナオは感謝した。
深く、息を吸う。吐く。ナオは自分を落ち着かせた。状況を分析する。足の踏み込みは、悪くない。左手で、ウサギを抱えている。反動を付けられない分、手前で落ちた。
白ウサギを地面に下ろす訳にはいかない。パズルを動かすことで、危険が生じる可能性があるからだ。
「もっと、力が要る」
ナオの独り言。チラッ、と、ロッティーが見やる。鼻と口が動く。声を発さなかった。
すべての立体ジグソーパズルから、自然そのものの色の光が伸びてくる。ナオの体に吸い込まれていく。思い違いに気づいた。何も、観客はウサギたちだけではなかったのだ。空が、大地が、木々が、歌を聞いた。感動したからこそ、力を貸してくれる。
背中を突かれる。ゴーッ。背中側で、低い音が続く。羽織が染まる、黒く。上から、松の葉色の光が包む。同じ色の二つの輪ができた。まるで、羽だ。シロツメ草が伸びる。ナオは振った。自然の色の光が届けてくれる。
「引き出しが釣れた!」
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