誰がお片付けするのか?

『え~!! また、異世界に行った奴がいるのぉ。勘弁してよぉ。もぉ』


『万民は知らないのです。大きな力が働くごとに、あらゆる世界のいずれかに、ひずみができることを。望まぬ者が巻き込まれることも』


『呑まれた知的生命体の救出だけに、専念なさい。ひずみはまとめて、例の世界に』


『生真面目で、融通が利かなくて、堅物な連中が片付けてくれるわよ』


 聞こえてきた、複数の声。不満を、誰かをさげすむことで解消している。ナオは哀しくなった。


「……いっ! おいっ! 生きてっか?」


「はい!」


 怒鳴るような、呼ぶ声。聞き取り、意識が戻る。掘り返したばかりの土の匂いがした。血の臭いが混ざった。ナオは返事をして、まぶたを開く。額や手足から血を流す、男の姿があった。


「無傷かよ」


 男はあきれていた。服で血を拭く。一部を裂いて、包帯代わりにする。眼鏡を拾い、曲がったフレームを直す。掛けた眼鏡のレンズの一部が欠けて、筋も入っている。気にした様子がない。


 バクバク、音を立てていた。ナオの心臓も、平常に戻っていく。視線を下げる。正座していた。服は、泥だらけ。痛みがないので、ケガをしていない。


 白いウサギを、胸から離す。薄汚れているが、傷はなかった。ただ、鳴いている。左手で抱え直す。なでてやった。


 右手を頭の上に伸ばす。ふんわりと、柔らかい感触。ロッティー自身が飛び込んできた。目の前に持ってくる。


「ありがとう、ロッティーちゃん」


「そんなことより、妨害されて、駆けつけられな……」


「私が片付けるよ」


「!」


 感謝した、ナオは思い返していた。亜理紗と泉から紹介された、仲間たちの性格。意識を飛ばした時に聞いた声の主たちの評価と一致している。


 立体ジグソーパズルを崩したのは、声の主たちだ。他の人が積み直すのが、声の主らへの嫌がらせになると考えていた。


「正しい位置に積み直せる自信がないけど」


「それは、アタシに任せなさい」


 気づいたナオは、正直に言う。ロッティーの頼もしい返事。安心して、足を崩す。しびれていた。足を伸ばす。足首から先を、曲げたり伸ばしたりして回復を促した。


「で、どうやって、積み直すの?」


「え? ……」


「考えていないのね」


「はい」


 ロッティーが訊く。ナオが答えに詰まる。畳み掛けられて、認めた。


「植物を生やしたのを覚えているわね」


「シロツメ草を育てた。あっ! 判った。かさぶた代わりの石の力を借りて。パズルに届くまで成長させる」


 ロッティーが宙に浮かぶ。ナオは立ち上がった。問答で、気づいたことを声に出す。


「残念。力が足りない。ピッコロさまに頼んで、純度100%の神の力を借りなさい」


「え? ……」


「え?」


 惜しいという顔で、ロッティーが答える。ナオは渋る。もみの木の形をした神さまに、勝手にピッコロと名付けた。呼んでも来ないと思われたし。怒って、力を貸してもらえないかもしれない。黒ウサギが意表を突かれた。


「おいっ! 待て! 人間が神の力なんか使ったら、体を損ねるぞ。ましてや、純度100%だなんて」


「そうね。代償に、右腕が動かなくなるわね」


「……」


 会話を聞いていた、男が止める。しれっ、として、ロッティーが答える。絶句させた。


「アタシが純度100%の闇の力で、相殺する。羽衣を着れば、右腕だけで済む」


 ロッティーが説明する。二つも使っても、右腕を代償に支払わされる。「済めばいいけどね」。事実とささやきに、白ウサギがビクッ、とした。

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