第5話 面談その4 ウサギ三兄弟の場合

「えっと……今日の面談は野ウサギモンスター三兄弟、シロ君、クロ君、ミック君……だね? ん?」

 ハリィは、小さな手に握られたバインダーから視線を上げ、右方向を見た。

 そこにいるのは、白い毛並みの長男ウサギ、シロだ。その視線は、ハリィではなくそっぽを向いている。

 ハリィは微かに眉根を寄せて、今度は左方向を見た。

 そこには、白地に黒のぶち模様の毛並みをした三男ウサギ、ミックがいる。視線は、長男シロと同じように明後日の方向を向いている。

 ハリィは深いため息を吐いて、真ん中の席に座る黒い毛並みの二男ウサギ、クロを見た。

 クロは兄や弟とは違い、隊長であるハリィを正面からじっと見つめている。

「えぇ、クロ君?」

「はい、なんでしょうかハリィ隊長!」

 名を呼ばれた二男ウサギのクロは身を引き締め、ハキハキと応えた。

「お兄さんウサギのシロ君と弟ウサギのミック君は、ケンカでもしたのかね?」

「いいえ隊長! 私も二匹ふたりとケンカしています! 先程まで殴る蹴るの乱闘をしていましたが、今は冷戦中です!」

 クロは明るい声音で現状を報告した。

「そうなのかね……まあ、兄弟喧嘩するほど仲が良い……という認識で良いのかな? それにしても、どうして喧嘩などしてるんだい?」

 ハリィは、ふむと顎に小さな手を当てクロに尋ねる。

「はい! 今回は、ウマウマ農園のウルトラスーパースウィートキャロットが原因です!」

「あぁ……ウマウマ農園のウルトラスーパースウィートキャロットか……」

 呟き、ハリィは眉根を寄せた。

「あれ、美味うまいんだよなぁ……だが、確か一匹ひとり一本ずつ平等に支給されているはずだぞ

? それなのに喧嘩になるのかね?」

「はい、問題なのは本数ではなくサイズなのです。私達は兄弟だからなのか、LMSサイズが各1本ずつ配給されていまして……」

 クロは深いため息を吐いた。

「ご覧の通り、体の大きさはもう兄弟でほとんど違いはありません。ですから、弟も私も兄と同じ大きさのウルトラスーパースウィートキャロットが欲しいんです」

「弟に思いがあれば、大きくなれよ! って一番大きなウルトラスーパースウィートキャロットをぼくにくれると思うんです!」

 突然、黙ってそっぽを向いていた弟ウサギのミックがハリィに向かって叫んだ。

「なにを言ってるんだ! 兄を敬う気持ちがあれば、ささっ兄さん大きなウルトラスーパースウィートキャロットは兄さんがどうぞ! と譲るところだろう!」

 呼応するように、やはりそっぽを向いていた長男ウサギのシロがミックに向かって怒鳴る。

「ぼくは育ち盛りなんだよ! 成長が止まって老化するばかりの兄さんとは違うんだ!」

 ミックがシロに向かって怒り叫ぶ。

「老化とはなんだ! 私はお前たちより体つきが数ミリ大きいのだ! その分必要な栄養素は多い! わかるだろうが、そのくらい!」

 負けじと叫ぶシロの隣で、クロは耳を塞いでいる。

 やんややんやと言い争うシロとミック。我関せず、と耳を塞いで知らんぷりをするクロ。

 ハリィは醜い兄弟喧嘩の様を、黙ったまま見つめていた。

 やがて罵り合いに疲れ果て、肩で息をする二匹ふたりを見やり、ハリィは口を開いた。

「つまり、三匹さんにんが同じ量を食べられれば良いわけだな」

「はい……それができれば一番良いのですが……」

 耳から手を離したクロが、困ったようにため息を吐いた。

「私に任せたまえ! 良い考えがある!」

 ハリィはバインダーとペンを横に置き、肩に掛けていた小さなショルダーバッグから更に小さなトランシーバーを取り出した。

「もしもし、応答せよ……ん? なんだ? 通信状態が悪いな……」

 ハリィは額を曇らせ、トランシーバーを見た。

「仕方ない、直接カタイ君のところへ行くか……君たち、悪いがここで少し待っていてくれたまえ」

 ハリィがそう言い残し、三匹さんにんの前から姿を消してから30分が経過した。

「あ、隊長が戻ってきた……」

 ガラガラと音を立てているのは、副隊長のカタイが押しているワゴンだ。

 その上には、オレンジ色のドロリとしたものが注がれたコップが3つ乗っていた。

「ま、まさかアレは……」

 長男ウサギのシロが、あんぐりと口を開けた。

「ミキサーにかけ、ペースト状にしてしまえば均等に三等分できるというわけだ!」

 カタイの後からやってきたハリィが、胸を張って言った。その表情はとても誇らしげなものだ。

「くうっ!」

 弟ウサギのミックが、顔を手で覆い声をあげた。

 その隣の二男ウサギのクロは、悲しげな表情かおでその肩に手を置いている。

「隊長殿……我々三兄弟は歯が鋭いので、固いウルトラスーパースウィートキャロットが好みなんです」

 残念そうな兄ウサギのシロの声が、微妙な空気の中ぽつりとこぼれ落ちた。

「……あれだ……今度人間のカウンセラーの男の子に、どうしたらいいか相談してみるのはどうかね? カウンセラーと仲良くなれるし、問題も解決! 一石二鳥だ! ハハハ……」

 ハリィの乾いた笑い声が静寂に変わるまで、さほど時間はかからなかったのであった。

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